告白の答えは、
「リヴァイ兵長!…すきです!付き合ってください!」
私はダメ元で告白した。兵舎裏の木下で兵長に来てもらって、フラれるのは分かっているけど悔いが残らないように告白をした。
ペコっと頭を下げた私。目は足元に生えている雑草を見つめる。
「……。」
「……。」
…あ、あれ?なかなか返事がこない。私は頭を下げたまま固まって、何も言ってくれない兵長に不安になる。
「……。」
「……。」
「…?」
フルならふってほしいんですが…?とそろそろと顔を上げると、腕を組んだまま木の幹に寄りかかっている兵長がいた。その目はいつもより少し大きく見える。
「考えておく。」
「はい…、えっ?!考えておく!?」
「何だ。いますぐ返事が欲しいのか?だが、俺にも考える権利くらいはあるだろ。」
「も、もちろんですっ!」
私はサクッとフラれると思っていたから、すごくビックリした。というか、まさかそう言われるとは思わなくて、どうしたらいいのか分からず変な顔になる。
兵長は告白した私がテンパっているのを静かな目で見つめてそれ以上何も話さない。ただ、そよそよと柔らかい風が彼の前髪を揺らした。私は頭をかいてから、これ以上ここにいても沈黙痛いしなぁと思って、失礼します!と走って逃げた。
ー 考えておく
それが彼からの答え。私は走っている間、その声がリピートして止まらなかった。悪いが答えられない、と言われると思っていたから、すごく意外だった。
「はぁ…はぁ。」
無駄に走って膝に手をつく。その手が揺れていたのは、走ったからじゃない。緊張して仕方ないから。
「まじか…でも、待つ方が…緊張するな。」
顔を上げて晴れ渡る空を見る。いつ答えが来るのか分からない。どんな答えが来るのか分からない。考えてもらった末のお断りだったら結構凹む。
私はしばらくの間、気が張って仕方ない時間を過ごすことになった。
◆◆◆◆◆◆◆
告白の返事を待って5日目。いつもと変わらない朝がやって来た。朝食を食べて、馬小屋の掃除をして、訓練して、洗濯を干して、事務処理して、買い出しをして、立体機動の整備をして…。
知らない間に夕方が訪れていた。
私は洗濯物を取り入れに、屋上へ上がる。みんなのシーツがパリッと乾いてふわふわと風に揺れていた。
その洗濯物を籠の中に取り入れてから、よいしょ、と石垣に腰を下ろす。
返事、なんてもうこないのかもしれない。あれから兵長と会うことなんてもちろんないし、呼び出されることもない。私なんかの告白は、もう忘れられている気がする。それか、もともと考える気なんてなくて、あんな風にその場しのぎの一言を口にしたのかも。
私は沈む夕日を高みから見つめて、その暖かくも夜を呼ぶ寂しい空の色にため息をはいた。
「…ま、最初から期待してなかった。」
誰にも聞こえない声を出したつもりだった。もともとここには誰もいなかったし…。
だから、いきなり自分の真横に人がどかっと座って心底ビックリした。
「うっ!?!」
「……。」
「い、いらっしゃったんですね!?兵長!?」
「真横でギャーギャー騒ぐな。流石にうるせぇ。」
「す、すみません!!」
「……。」
「あ、すみま、…せん。」
一瞬、鋭い流し目を向けて来た兵長に声をひそめて謝る。そして、しゅっと体育座りをして、背筋を伸ばした。
ドキドキする。兵長が来たってことは、多分、答えを用意してくれたってことなんだと思う。だから、いよいよか…と思って、心の準備をする。
「待たせたな。」
兵長が夕日を見つめながら言った。私はキュっと胸が締まる。嫌な予感と微かな期待。私はこんなに動揺しているのに、横にいる兵長は表情一つ変えずに前だけ見ている。
「お前のことはよく知らねぇ。おそらくだが、お前も俺のことをほとんど知らないはずだ。大した関わりもねぇからな。」
「…は、はい…。」
「だから、しばらくお前を見ていた。お前はアホみたいによく笑う女だが、真剣な顔もできるようだ。少し間の抜けた部分もあるが、堅物よりはマシだ。周りの仲間からは大事にされてるみてぇじゃねぇか。」
「…はい。」
ドキドキが収まらない。私が気づかないうちに品定めをされていたらしい。
「馬小屋の掃除はクソみてぇに下手だが、まぁこれから教え込んでやるから覚悟しておけ。」
「あ、はい…。って、え…、え?」
「何だ。俺からの指導は不満だっていうのか?」
「いえいえ決してそんな!よろしくお願いします!」
ペコっと頭を下げたれど、やっぱり変だ。掃除の指導?どういうこと?
頭を下げたままの私の目は石垣に置かれた兵長の手をみつめる。その手がそっと視界から外れて、どこへいったかと思えば私の頭の上に移った。
「え。」
顔を上げると、兵長が私を見つめている。無表情なのは相変わらずだけれど、冷たい目はどこにもない。
「俺の女になりたいのなら、まず掃除に励め。いいな?」
「……っ!」
「返事は?」
「…が、がんばります…!」
「フッ…明日6時に馬小屋に来い。」
「…っ。」
「待ってるぞ。」
クシャクシャ、と髪を撫でられた後、兵長は立ち上がって去っていった。私はぽかーーーーんとした顔でその背中を見送る。
「ま、まじか…。はっは…まじか。」
撫でられた頭を撫でながら、まさかの奇跡に笑わずにはいられなかった。
end
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