次はルージュを引いて


「あのね、クルーガーさん!今日こんなことがあったの!」
「ほぉ。」
「…でね、…それで、…だから、」

クルーガーさんはたくさん喋る方じゃない。だいたい私がたくさん話して、彼がそれを聞いてくれる。

これは交際前からそうだった。私が彼に会いに行って話したいことをたくさん話す。彼はタバコを吸いながら相槌をうって飽きずに聞いてくれる。だから好きになった。好きになったきっかけはそんな単純なものだったけど、彼はこんな私をよく思ってくれて「お前と一緒になったら飽きないだろうな」と小さく笑ってくれた。

だから、付き合ってからもこの関係はほとんど変わってない。私から8割話して、彼から2割話す。
それはとても楽しいんだけど、恋人になれたなら他のことも期待する。甘い言葉とかキスとか…他にもたくさん。

でも、クルーガーさんから私に愛の言葉を言うことはない。他愛のない話をしてその日が過ぎる。今まではそれでも良かったのに最近それでは物足りなくて。
だから、代わりに私が愛を伝えると「ああ、わかってる」とポンっと頭に手を乗せる。頭を触られて嬉しいから彼に抱きつく反面、なんか悔しい。
だってこれじゃあ子供扱いされてるみたいだもの!

これって私に魅力がないってこと?それとも欲張りすぎ?
クルーガーさんなりに楽しんでくれてるのなら嬉しいんだけど…でも、もっとこう、

「●。」

2人の進展のなさに悩んでいたら彼に名前を呼ばれた。ん?と振り向くとなんとクルーガーさんからキスをされた。急だったから驚いてしまい間の抜けた顔を晒す。
キスをしてきたクルーガーさんは私をじっと見たまま首を傾げる。

「こういうことは嫌か?」
「いやじゃない!びっくりしたけど、ってか、すごく嬉しい…!っでも、…ぅわああっ〜!え?なんでなんで?!」

テンパる私をフッと笑い、あぐらかいて座り、その上に私を寄せて抱く。

「今日はあまり喋らないから口を塞いでも良いかと思ってな。」
「ん?それって、…その、クルーガーさんがキスとかしてくれないのって…?」
「お前はしゃべることが好きだからな。」
「……。」

肩越しに振り向いて彼を見ると彼は少し呆れた顔を向ける。

「何だ。俺に期待してたのか?」

甘い展開を期待していた私だけど、自分から甘い空気を作ったり、誘うなんてことは一切できなかった。
私だって彼から見たら色気のない地味な恋人だった。そんな私にずっと合わせてくれていたのかもしれない。

「お前が楽しそうに話す姿が好きだ。だが、だからって俺に欲がないわけじゃない。そろそろと思っていたが、それはお前もか?」

想いを確認するように私に聞く。もちろん、と頷くと彼は「なら…」と顔を寄せた。久しぶりのキスが嬉しくて目を閉じて受ける。
ああ、タバコの味だ。タバコは嫌いだけどクルーガーさんからのなら許せる。彼の首に腕を回して顔の角度をかえてキスを楽しんだ。

「…クルーガーさん」

彼のあぐらを跨ぐように足を広げて座るとお尻の下に手を添えられ、だっこされるに支えられる。クルーガーさんの瞳は熱く侵されており、なんとも言えない色気が漂っている。滅多に見せない微笑みがすごくミステリアスでそそられる。

「●、お前は俺よりも年下で年齢の割にあどけない。だから、加減をしてきた。だが、こんな時ばかりは俺でも加減はできない。それでも良いな?」

今まで抑えて付き合ってくれた彼が本当の男になってくれる。力が強いから強引に感じるかも。怖くなるかも。でも、彼なら良い。本気で求めてるから、こっちも求められたい。

「クルーガーさんにならいいよ。」

彼の両頬に手を添えて自分からキスをすると彼はごくりと唾を飲んで私をベッドに押し倒す。

抱き合っている間の髪がぐしゃぐしゃな彼もかっこいい。
焦ったり動じたりしない彼が疲れたような目をしたり、熱そうに息を吐いたり、蕩け目をしたり、低い声を出したり、…本能的な声や動きをするクルーガーさんも大好きだ。この彼をずっと知りたかった。だから、少しくらい乱暴でも構わない。
それに私もやっと大人になれた。1人の男を惹き寄せる女なんだっていう自身につながったし彼を満たせて安心した。

「大丈夫か?」
「ん、少し疲れたよ…」

彼に抱きついてお互いの疲れを癒す。クルーガーさんに腕枕をしてもらい、頭を撫でられていると、

「いつものお前はあどけなくて可愛いが、俺の下になると大人の顔になる。よかったら、今度は化粧をしたお前を乱したい。」
「化粧をして大人の女なれって?」
「お前は顔がいいから滅多に化粧をしない。だが、いつもと違うお前を見たい。良いか?」

私の唇を指の腹で撫でる彼のお願いにもちろん応えたい。今度は赤い口紅を引いて彼が好みそうなメイクをしよう。彼が少しでも大人の私を抱けるように。

「勘違いするなよ?別に素顔のお前が嫌なわけじゃない。ただ、他のお前も見たいんだ。他の男が知らないお前を俺だけが知っていたい。そういうことだ。」

頭を枕から上げて勘違いさせないように言う彼をクスクス笑う。そんなこと気にしてないのに、とギューっと抱きつくと彼は安心した顔で額にキスをしてくれた。



end


化粧をするだけで彼を翻弄できるなら喜んで。

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