主の理想を崩さないように片思いを続ける兵長


何だよ今日も可愛いじゃねぇか、俺の●。
…なんて、口が裂けてもいえねぇ。何たって俺は「クールで大人」だから●から「かっこいい」と思われているんだからな。

「兵長!」

よくきたな、もっとこっちに来い。もっと寄れ。
…なんて言えるわけねぇな。●の体に触れたくて仕方がねぇなどと悟られたら「一匹狼」のイメージが崩れて●の「好みの男性」から外れちまう。

「あぁ、何だ?」
「掃除してきました!」
「ほぉ。教えた通りに出来ているか確認だ。」

いや、出来てるだろう。お前は一生懸命に掃除をするし飲み込みが早いからな。

…ほぉ。
やはり上手く出来てるじゃねぇか。エレンに見習ってもらいたいもんだ。だが、ここで褒めるのは罠だ。褒めたら俺がこいつに掃除を教える必要がなくなり、会える時間が減っちまうからな。

「及第点だ。」
「ああ、ごめんなさい…えっとどの辺がですか?」

さぁな。お前は完璧だ。言ってみただけだ。だから気にするな。
…なんて言えるわけねぇ。てきとうに窓辺を指で擦って見えない埃があると言っておく。●は目を細めてあるはずのない埃を見たふりをして納得した。

「まぁ、頑張ったんだ。今日は特別に紅茶を淹れてやる。」
「ほ、ほんとですか!?…ああ、でも、この後予定が。」
「予定だと?何の予定だ?お前には訓練も会議も外出の予定もねぇだろ?」
「ああ、エレンとお喋りを。」
「あぁ?エレンだと…。俺との紅茶よりもあいつとのお喋りがそんなに大事なのか?」
「いえ、兵長との紅茶が大事です。」
「そうだ。よく言った。それでいい。」

エレンなんぞミカサに任せりゃいいだろ。決してアイツと結ばれるな。お前の結婚相手はこの俺だ。
…なんて、言いてぇもんだが今は無理だ。「独身なのにすごく魅力的な男性ってかっこいい」と思っている●に引かれちまうからな。

「あれ?どこにいくんです?」
「決まっているだろう。俺の部屋だ。」
「え、緊張します…。」
「俺がお前を取って食うとでも思っているのか?」
「いえ!そんなことありえないですよ!」

その根拠はどこからきた。とって食うに決まっているだろう。
…と言いたいが我慢して部屋に●を招く。●は落ち着かない様子で椅子に座って俺が紅茶を淹れるのを待っていた。
そんなに落ち着かなくされるとこっちまで落ち着かなくなる。何たってお前が俺の部屋にいるんだからな。だが、「どんな時も冷静で崩れないかっこよさ」が崩れちまうから我慢だ。

密かに買い揃えたお前の好みの紅茶たち。だが、そんなことは伏せて、たまたまお前の好みの紅茶があったという流れでいく。

「どうだ?口にあったか?」
「あ、これ好きなんですっ。この香りと味一番好きっ。」
「ほぉ。お前はこういう味が好みなのか。また気が向いたら淹れてやるよ。」
「ありがとうございます!」

こんな紅茶一つで可愛く笑っちまうのか。それなら毎晩淹れてやるよ。…なんてな。

「…はぁ。美味しかったです。ごちそうさまでした。そろそろお暇しますね。兵長も忙しいと思うので。」
「今日の仕事は片付いている。好きなだけいろ。」
「え?あ、いえ、でもお邪魔かと。」

いろ。まさかエレンのところへ行く気か?

「また誘ってください!」
「…待て、行くな。」
「え?…わ!?兵長から手を握るってびっくりっ。」

まずいな、思わず掴んじまった。「潔癖症で最強で無愛想っていうめちゃくちゃなステータスの兵長が好き」という●の理想を裏切っちまった。

「兵長?どうしたんですか。」
「……、練習に付き合ってくれ。」
「え?」
「調査兵団は資金不足だ。そのため貴族の女の手を握ってくだらねぇダンスを踊る必要が出てくるかもしれねぇ。そんな時に相手の手を握られねぇと話にならないだろ?…お前にはその時のための練習台になってもらう。」

咄嗟にとんでもねぇ理由をつけてしまったが、大丈夫か?流石に疑われるか?こいつだってそんなにバカじゃ、

「…は、はい!喜んで!手を洗ってきた方がいいですか?」
「いや、このままでいい。…触るぞ。」
「どうぞ。」
「………。」


フッ。…お前のそんなところもちゃんと好きだぞ。


end

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