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長く生きるとどんな風景にも、出来事にも、関心が薄くなる。どれだけ美しい浜辺を歩いても、どれだけ煌びやかな夜景を目にしていても、イドラたちの前で口先だけで称賛していても心まで響いてはいなかった。

真王の誕生まで、復讐が叶うその日まで、何をして生きようか。乾燥した大地を歩くことは詰まらないが、死にたくたって死ねないから生きなきゃいけない。

つまらないな、つまらないな、と気怠く歩いていたら遠くから歓声が聞こえた。何だろうなぁ?と足を向ければチョコボのコンテンスとをしていた。

「あの毛の色綺麗だね、ママ!」
「カールした毛先もオシャレなもんだ…。」

色とりどりのチョコボが並び、丸い目を輝かせて可愛い鳴き声を出すチョコボたち。ステージの上でチャームポイントを見せつけるチョコボたちを一目見ようと市民は前へ前へ進み、スマホをかざして楽しそうな声をあげる。

帽子を軽く上げてステージを見れば、綺麗な毛並みの白いチョコボがいた。撫でたくなるようなサラサラした羽で、あぁ、チョコボが優勝するんだろうなって思ってみてたらその通りだった。優勝したその白チョコボを育てた子はこれまた綺麗なお嬢さん。白いチョコボとは対照的な黒髪と黒い服を着てる子だったけど、嬉しそうにチョコボを撫でているその横顔がすごく愛おしく思えたんだよねぇ。

「おや、かわいいねぇ。」

初対面のお嬢様さんに愛おしく…だなんて、おかしな話だけども、久しぶりに心が動かされた。胸がざわついて、お嬢さんがステージから下りるまで目で追っていた。コンテスト会場を離れて屋敷に帰った後もずっとその子の顔が離れたくてさ、本当にあるんだと思ったよ。一目惚れって奴が。

あの日から俺は彼女に恋をしている。
もっと知りたいし、会ってみたい。話がしたいし、一緒に過ごしてみたい。俺のことも知って欲しいし、俺だけをみていて欲しい。
自分じゃ止められないくらい、あの子のことを無性に求めて止まず欲しくなった。こんな風に一瞬で誰かに落ちることはなかったから、さすがの俺も自分が気持ち悪かったけれど、寝ても覚めてもあの子のことを考えてる。

だからもう認めてしまった。俺はあの子のことを愛しているし、欲しくてたまらないんだって。必ず俺のものにしようと決めた。

彼女を手に入れるためにあの子のことを調べる必要があった。あの子は有名人でも何でもないけれど、俺は宰相だから何でも調べられる。市民の個人情報なんて手を伸ばせば全て知ることが出来た。オトモダチが多くて助かったよ。

「●…ねぇ。可愛い名前だなぁ。あぁ、あのチョコボレンタルショップで働いているんだ。ほーんとチョコボが好きなんだねぇ。」

居場所も分かったことだし、早速店に行った。
単純な作戦だけど、最初は客として出会って、常連になって、そのまま親しくなって…って感じで仲良くなろうと思った。

宰相の俺には古典的で懐かしいやり方だ。普段ならそんな時間のかかることはしない。金で釣ったり、脅迫したり、汚いやり方に慣れていたから、新鮮で楽しくもあった。

◆◆◆

「やぁ。●、今日もきたよ。」
「こんにちは!アーデンさん。いつもありがとうございます」
「ほーんと、今日も綺麗だねぇ。君の育てたチョコボは帝国で一番美しいと思う。きっと欲しがる人間も多いんでしょう?」
「ええ、実は。大事にしてくれそうな方には交渉して販売しています」
「俺もほしいなぁ。今度相談させてよ。」
「はい、喜んで。」

●…なかなかの長期戦だ。今日で店に通って丁度3ヶ月目だけど、距離感が変わってる気がしないんだよねぇ。相変わらず俺を客として接しているって感じ。もしかして彼女、難攻不落かなぁ…?みたところ、恋人もいないみたいだし、よってくる虫もいない。ただ、俺に靡いているようにも思えない。もっと強引に誘わないと気付いてくれないのかなぁ?

…俺、待つの嫌いなんだよね。
もうそろそろ限界なんだけど。

「何か、考え事ですか?」
「ん?なぁに?」
「固まっていたから。」
「はは。ごめんごめん、ちょっと考え事。君みたいな可愛いお嬢さんを前に気がそれるなんてダメだよねぇ。」
「そんなことっ…。」

言葉次第で照れることもある。でも、手ごたえを感じないんだよねぇ。あぁ、これはもう強引に事を運んでしまおうか。

「ねぇ、●。今夜時間あるかな?…俺、君と過ごしたいんだけど。」



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