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二人が異常な絆で結ばれてから●は地下を出て地上にあるアーデンの屋敷に住むことを許されていた。
薬で出来上がった彼女に逃げる意思はないが、アーデンは彼女を決して一人にさせず屋敷の中や周りに魔導兵を配置していた。

「ただいま。おや、出迎えにきてくれたの?」

彼女は帰宅したアーデンに自分から寄り添う。体を熱くさせて、ぼんやりとした目線ですがるように彼の腕に絡みついた。

アーデンはその表情を見ていつもの余裕を取り戻していた。人を壊すこと、人の人生を狂わせることはとても愉快だ。なぜか?それはきっと凶悪な八つ当たりなんだろう。神から自分が味わった苦しみを他の誰かに与えたい。同じ苦しみを味合わせて引きずり込み、ほら大丈夫だよ、俺がいるから。と歪んだ傷の舐め合いを求めている。

「日付が変わる頃まで待てる?まだ仕事があるんだ。」
「無理だよ…!昨日だって全然できなかった!ねぇ!早く!!」
「はは!相当キテるみたいだねぇなら、俺の上で気持ち良くなってなよ。」

この会話が異常だとは思わない。色狂いでも、今の2人にとって当たり前の会話。あれから薬を毎日飲まされたら、薬を飲まなくても彼女の頭が壊れた。

アーデンを椅子に座らせると●は向き合うように彼の腰の上に座る。彼に身を寄せると途端に眉間にシワを寄せた。嗅いだことのない甘い匂いがしたからだ。

「この匂いなに?」
「んん?ああ、今日は政治家の娘と食事をしてね。」
「…それでこんなに遅くなったの?…それって、浮気?!」
「そう思った?違うよ。別に2人きりで食べたわけじゃないし、その父親と俺がずっと話していた。だから、気にすることじゃないんだけど…でもなぁ、あの子、俺のことすごく見てたなぁ。もしかして好かれちゃったかもねぇ。」
「アーデン!私以外の女といたなんて…そんなの許さない!!」

悠々と答えるアーデンに焦りと怒りと咎める声を出す。自分の精神と体を満たしている男が他の女の元へ行くなんて●は考えたくなかった。

「嫉妬?俺、君からされるの初めてだ。」
「アーデンは私のものなんじゃないの?」
「そうだよ。」
「ならっ!」
「はは、落ち着いてよ。そんなに必死な顔して…ほんっと可愛いなぁ。俺の体も君のものだ。… 政治家の娘だなんて君を焦らせるための道具だよ。」

私は完全に掌で転がされていたけど、私は彼を求めていた。でもそれは心というよりも体。彼という物質的な存在。気持ち良くなれればいい。ひたすら、ひたすら、…それはもう永遠と、彼の体を中に入れて置きたい。
それなのに、彼ときたらこの切なさと焦りをわかってくれない。涼しそうに微笑む彼に見捨てられたくなくて自分からキスをしていた。

「随分と素直になったねぇ。前は俺を跳ね除けて逃げ出してたのが嘘みたいだ。」
「…愛してるよ…アーデン」
「俺もだよ。…でもさ、これは薬のせいだ、なんて言わないよね?心からそう思ってくれてる?」
「……。」
「……。」
「本当に必要としてるの、アーデン。こんな私にしたんだから逃げないで、お願い」

すがった。目と体で訴えると間を置いてからアーデンは笑う。

「あぁ。俺、信じるよ。」

それだけ言うと、彼は私と抱き合う。強烈な愛し合い。混ざり合って、結合部の感覚がない。ドロドロと液が流れて、果てない欲が更に溢れ出てくる。

「…はぁ。」

薬を飲んでめちゃくちゃな思考は酒に酔いつぶれる感覚に似ている。病みつきになって、もうここから出たくない。

彼に愛を囁き続ければ、きっと嘘も本当になるはず。




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