失恋したから高杉さんに慰めてもらう


失恋して沈んでいる私の隣に来て慰めようとした高杉さんに不貞腐れて「放っといてください」と言ったら、

「そうかい。なら俺は勝手にさせてもらうさ。」

と怒ることもなく隣にいてくれた。本当は寂しかったからそばにいてもらえて嬉しいけど、泣きたいのに隣に人がいると泣くに泣けなくて全てが矛盾しててつらい。

「しっかし、あんたは相当入れ込んでたんだな。そもそもあんたに惚れた男がいたなんて気づかなかった。…秘密にするのがうまいか、顔に出ないんだな、あんたは。」

彼が握っていたのは酒の瓶とお猪口二つ。台所から持ってきてくれたみたい。私は机に伏しながら横を向き、彼が酒を注ぐのをみつめた。

「まぁ、これで忘れろ。」
「到底忘れられません。」
「今はな。だが、忘れるまで俺が相手をしてやるから安心しろ。」

高杉さんってこんなに仲間想いだったの?まぁ、こんな状態の私が戦に出たら即殺されてしまうからそれも心配なのかも。忘れなきゃね。

とはいえ、
とはいえ、

寝ても覚めても想っていた相手のことを忘れろだなんて。この傷は刺されるより深い。酒を一口飲んでも出るのはため息と涙。
高杉さんはお猪口を置いて私の肩を抱き寄せた。優しい言葉に誘われて出た涙は止まらず彼の胸を借りて大泣きした。
それを慰めるように彼はずっと私の頭を撫でてくれた。

「高杉ざんは…失恋じだこと…ありまずか?」

ぐしゃぐしゃの顔とガラガラの声で聞くと彼は私の顔に紙を軽く押し当てながらにっと犬歯を見せて笑う。

「俺はするよりされる側でね。」
「はぁあああー…。」
「ははっ、冗談だ冗談。そうだな。お前ほど落ち込むことはないが、気にかけていた女に男ができてがっかりしたことはあったぞ。だが、あの時は俺がまだ子どもだったから本気だったかはわからん。」
「…人を振る時は…程々にしてくださいね…?」
「あんたはこっぴどく振られたのか?」
「いや、そうではないです……。ただ、世帯を持ったと聞いたので…。」
「なるほどな、そりゃご愁傷様だ。…ほら、飲めよ。嫌なことは忘れろ。あんたにはもっといい男がいるってことだ。」

ドボドボと酒を注がれる。ヤケ酒もいいかと自暴自棄になって注がれるままに飲んだ。

「いい飲みっぷりだな、ほら。」
「潰して寝かせようとしてますね?そんな手の内見えてますよ…っ。」
「何だよ、嫌か?なら、俺に優しく慰められたいか?俺は大歓迎だぞ?弱った女の涙を拭って抱きしめてやるのは慣れている。」
「さ、さいてーだ!」
「ははっ。」

笑いながらガシガシと頭を撫でられた。
ああ、もうめちゃくちゃだ。
鼻声、酔いどれ、髪はぐちゃぐちゃ、目はうつろ…。
失恋で辛くて心が死んでいたけど、頭がぼんやりするし変に明るい高杉さんを見ていたら何もかもどうでも良くなってきた…。

「何だか疲れたので寝ます…、んぅ?」
「…まだだ。どうせ1人にしたら枕を涙で濡らすだろ?俺の腕の中で寝るまでとことん飲んでもらおう。」

肩をがっしり掴まれて再び彼の腕の中に引き戻される。そして、言われるがまま、また酒を飲む。話すよりも飲む。彼は私を見下ろしながら頭を撫で、頬をくすぐり、あやしてくれる。
その繰り返し。
…ああ、何だろう…、わけわかんない…酔いが回って視界がクラクラしてきた…。

「暑っい…あついよ…。」
「あんたを抱いている腕が熱い。脱ぐといい。なんなら俺が脱がせてやってもいいぞ?」
「…脱がせてください。」

…ああー、クラクラする。これ、本当にまずいかも?
片手を畳についてがくっと項垂れていると高杉さんが私の腰を抱いて支えながら着物を脱がせた。着物がぱさッと畳の上に広がる音がする。少しは体温が下がって楽になるけど力が入らない。

「酔い潰れるあんたはなかなかそそるな。女が隣で酔うのは見慣れているが、見境なしに襲うほど飢えちゃいない。だが、あんたを慰めるつもりが襲いそうだ。」

私をあぐらの上に運び、興味津々の目が私を見下ろす。餌に食らいつきたい獲物の目だ。彼がその気になって顔を寄せてくるから私は手を伸ばして彼の頬に重ねてグイーッとおした。無理矢理顔を逸らされる彼は「いてて」と驚いた声を出す。

「即日乗り換えるほど緩くありません!」
「だが、もう想っていても悲しいだけだろ?なら、新しい相手を探すのはアリだ。丁度、良い男が目の前にいるしな?」
「だ、だめ!」
「…そうだなぁ。ならこうするか?一度俺と接吻をする。」
「せせせせっぷん!?」
「それで気に入れば続ける。俺が嫌で前の男がいいと思えばやめる。どうだ?」

決まり、と言わんばかりの流れで彼の顔が近づいてくる。ノロマ化している私は争うことなく彼から接吻された。

「んんっー!んんっ!」

無理矢理だ。反発の意味でもがくけど、彼は私を抱きしめて離さず、だんだん舌が絡んで深まっていく。
悔しいけど彼は接吻が上手い。頭がもともとぼんやりしていたから尚更頭なんて回らない。

「…ううーん。」

力が抜けてズルズルと体が畳に下がる。彼が押し倒してくるから。ついにベタっと横たわった私に容赦なく彼は接吻を続けた。
食べられるような口付けにいつのまにか私は彼の肩に手を置いて応えていた。互いに求め合うような交わりに彼は満足して顔を上げる。

「お気に召したようだな。…続きはあんたの部屋でしようじゃないか。どうせ泣くなら気持ちいい方がいいだろ?」

悔しいけどその通り。彼の接吻があれば痛みを忘れられる。

もう何でもいーやー。
だって私は失恋してるし、泥酔だし…っ
いいんだぁ〜…
たまには羽目を外そうっ


「高杉さんお願い…忘れさせてよぉ…」
「ようやく折れたな?朝までじっくり慰めてやるさ」







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