永遠の想い…高杉、切ない


久しぶりに遊郭に赴く。
●に惚れてからはとんとご無沙汰だったのでやけに懐かしい場所に見える。

ー 絶対に遊郭には行っちゃだめ…!他の女と仲良くしないでっ。

●という恋仲がいるのだから遊郭に行く気などないというのにそれでも行くなとは必死な●が可愛らしかった。●は意外と嫉妬深く、独占欲が強く、愛情を惜しみなく言葉にするので高杉は恋仲になってからますます●に溺れた。
しかし、

ー 女心と秋の空、なんてよく言ったもんだ。

丁度紅葉が風に揺れる頃、●から別れを切り出された。
薄々気づいていたことなので「大事な話がある」と言われた途端、「おっと、用事を思い出した…また今度な。」とありもしない用事を口にして●から逃げた。そうしたら思い直してくれると期待したのだ。それに、別れ話など聞きたくない。

だが、●から逃げ続けたら今度は●が高杉を避けるようになった。だんだん●が会いに来る頻度が減り、会っても夜まで共にせず、明らかに愛が冷め、冷たく澄んだ空気が漂った。
もう●から愛されていないと分かり、聞き入れる他なく、「いっそ楽にしてくれ」と●との別れ話を受け入れた。


●と別れて半年。
いまだに復縁をする2人を夢に見る。だが、現実はそんなことはない。●はこうと決めたら曲げない女だ。この別れもしっかり悩んだ末のこと。

ー 俺に至らぬところがあったんだろう。

別れの理由はわからない。
別れ話を切り出された時、根掘り葉掘りは聞かなかったから。いや、聞けなかった。
関係を終わらせたいと言うあの時の顔を見つめ返すことが非常に辛かった。だが、そんな風に怯えている自分を最後に見せたくない。●には毅然と向き合い、決して情けない顔も声も仕草も見せず、立ち去る●に敢えて明るい声で「じゃあな」と声をかけた。一度くらい振り向いてくれると期待したが●は振り返らずに去って行った。
腕を組んでいたせいで自分の脈の速さが腕越しに伝わってきた。平気そうな顔で佇んでいたが、どれだけ辛かったか。

それからは色恋沙汰をキッパリやめて本業に打ち込んだ。淋しい夜は酒を飲みすぎることがあったし、足音がすると●が戻ってきたのではないかと期待して落ち込んだ。

ー いい加減に忘れなきゃな。もうあんたが俺の元に戻ってくることはない。



「高杉様!お久しぶりでありんすな。」
「高杉様!お待ちしておりました」
「さて、今日はとことん飲むぞ!」


女など腐るほどいる。
顔も声もよく、風情もある高杉は選び放題だ。
かつてのように独り身に戻り、気ままに楽しく生きようじゃないか!

その日の遊郭は盛り上がり、楽しかった。いや、楽しくありたかった。嫌なことを忘れるために遊び尽くしたが、好きでもない女たちと戯れるたびに「遊郭に行かないで!」と嫌がる●を思い出してしまう。

ー いやいや、忘れろ。
ー いつまでも嘆いてはいられない。

かなり酔った高杉はゴロリと赤い床の上に寝転ぶ。そんな彼を面白そうに笑いながら見下ろす女たち。どの顔も同じく見える。滑稽なほど誰もが全て同じなのだ。特別な女などもはやいない。

「はははっ。楽しいねぇ。」

大の字になり、高らかに笑った。周りもつられて笑う。何人もの高い声が幾重にも重なって鳴り止まず、やがて耳障りになり、視界がぐるぐる回り、知らぬうちに意識を飛ばした。

ーーーーー
ーー


ー もう。おばかねぇ。そんなに酔ったら危ないでしょ。私がいないとだめなんだから。

ー ああ、そうさ。あんたがいなきゃ俺はだめだ。

ー ほら、水を飲んで。

ー 何故俺を捨てた?あんたがいないせいでこんなに情けない男になっちまった。いいから俺の元に戻ってこいよ。…俺の気に食わんところは直す。な?

返事はない。

ー やはり駄目なのか?

返事はない。
余計に辛くなる。●の声は完全に止み、●を求めて伸ばされた高杉の手は空を掴み、やがて下された。

ー 声が聞けただけでも良かった。…もう随分とあんたの声を聞いていないからな。

鼻の奥がつんとした。その痛みで高杉は夢から覚め、二日酔いに襲われた酷い現実に戻された。目が覚めれば屋敷の自室に寝かされていた。おそらく桂たちが迎えにきてくれたんだろう。

「ざまぁないな」

遊郭にはもう行く気にはなれない。
遊女たちは侮れない。自分が何故こんなに悪酔いしたのか簡単に当ててしまうだろう。


ー 全く、情けねぇな。忘れようとするほど余計に執着しちまう。…こうなりゃ、死ぬまであんたを想うことにするさ。俺はあんたが好きだ。他の男がいても子が出来ていても俺の想いは変わらん。


開き直ってやっと楽になった。捨てよう、忘れようとしても決して出来ない女ならば片惚れでも構わずとことん想うことにする。道を違えてもう交わらないとしても…この想いは永遠。


「…●、俺はあんたが好きだぜ。」








ALICE+