好き好き発作…高杉


晋作は遊び人かと思ったらかなり一途だった。

外を歩いていたらたまたま晋作と仲間の声がしたので物陰から伺っていたら、仲間から遊郭で飲まないかと誘われていた。コラ!私の晋作を変なところに誘うな!と出て行こうとしたら晋作はキッパリと断った。

ー 悪いな。嫉妬深い恋仲がいるもんでね。あとで話の内容を教えくれ。
ー 遊女たちが寂しがってますよ。でもまあ、高杉さんに本命ができたから仕方ないですけどね!
ー ああ。遊郭なんてとんとご無沙汰だな。もう行くことはないだろう。俺はあいつがいれば十分だ。

彼の一途さが嬉しくて今にも飛び出して抱きつきたくなったけど我慢我慢。ニヤけるのを耐えバレないようにその場を後にする。

晋作はほんとに一途。
もっと遊んでしまうような困った人かと思ったら恋仲になった途端パタリと遊びをやめた。それに賭博にも行っていない。大損したら私に迷惑をかけるし呆れられるということでコツコツ稼ぐか人助けをすることで謝礼をもらっている。

(ほんといい男…。好き)

あんなに完璧な男だ。取られないようにしないと。
何か贈り物でもしようかな?それとも好きな料理でも作ってあげようかな?と悩んでいるとまた晋作の声が聞こえたので反射的に隠れてその声を聞く。
晋作と話す相手は口調からして芸者。歩いていたらばったり会ったんだろう。

ー 高杉様ぁ!もう全然来てくれないから寂しくて寂しくて〜。今夜どうです?
ー ああ、すまんな。俺はもう遊びにいけない身になった。
ー えええ!?それはつまり!?
ー ああ。1人の女と身を固めようと思ってな?
ー あらあらあら〜。それはそれは。いつかこんな日が来ると思っていましたが、それはおめでとうございます。私たちは少し寂しいけど幸せになってくださいね。
ー ああ。悪いな。まぁ、困ったことがあれば言ってくれ。じゃあな。

私は木下にうずくまりながら顔を押さえていた。身を固める!?私と!?本気で!?そんな気でいてくれたのなら嬉しいっ。今はまだ付き合って間もないけど、そんな将来も夢じゃないのね!?
ど、どうしよ、嬉し過ぎて立てない。このまま少ししゃがませて。

大興奮の精神を落ち着かせようと必死になってな私をさしおいて遠くから晋作の声がした。店主と話している声だ。

ー まいど、高杉様。この度は何をお求めで?
ー ああ。ちょいと恋仲に贈り物をな。その着物がいいと思ってな。いくらだ?

着物の値段を聞いて胃が縮んだ。そんなに高いものを私に??一体どんな着物なのか気になるけど、ここで立ち上がったら私が木の影で隠れていたのがバレてしまう。 我慢して高価な着物を購入する声を聞く。

ー しかし、迷うもんだな。着飾れば邪魔な虫が増える。だが、好いた女には愛らしい着物をたまには着て誘って欲しい。
ー 高杉様が相手では男どもは引っ込みますよ。
ー まぁな。誰にも渡す気はない。

サラッと独占欲を…。まずい。まずい。好きが高まってなんか知らないけど吐きそう…。
あああだめだ!今すぐ抱きつかないと体がおかしくなる!この愛情と興奮が収まらないよ!晋作!

勢いよく立ち上がった。もう我慢できません。
店から離れて家に向かって歩く晋作を追う。道ゆく人に埋もれそうな晋作。待って待って私の晋作!
心の中で何度も名前を呼んだら彼の歩調は遅くなり、ゆっくり振り返った。

「し、し、晋作ぅっ!」
「お?なん…、どわ!?」

人目なんて気にしないよ。大好きが勝って私は暴走してる。これを鎮めるには晋作に抱きつくこと、もうそれしかない。
着物を抱えている方の片手には当たらないように晋作に飛びついた。私が飛びついたところで彼はよろめきもしない。ガシッと片手で抱き止めて慌てていた。

「なんだなんだ、いきなり?何かあったのか?」
「好きだよ〜、ほんとに好きだよ〜。」
「…これまた急だな。…ははっ、分かっているよ。あんたが俺に骨抜きなことは百も承知だ。夜まで待てずに駆けてきたんだな?」

嬉しい。彼には呆れられるし驚かれるけど、そんな私だから好きになったと言ってくれる。この意味不明な甘え発作さえ愛してくれる。

「うんうん、晋作に会いたくて飛んできた!」
「そのようだな。俺があんたのいないところであんたの話をしたせいか?…なんてな。」

全部聞こえてたのは内緒にしよう。思い出すと照れて話せなくなる。

「さて、こんな所じゃ出来ることもできん、続きは家についてからだ。…着て欲しいものもあるしな?」

2人は指を絡めて帰路に着く。彼にピッタリ抱きついて猫のように目を細めて喜ぶ私を「可愛いやつだな」と呆れたような気の抜けた声で褒めてくれた。ああ、私は幸せ者だ。




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