高杉さんの暴走を命懸けで止める


労咳の薬を仲間たちと命懸けでとりに行き、屋敷に戻ったら暴走した高杉さんとまさかの一騎打ちになった。
本当に死に瀕しているのか疑わしいほどの彼の強さに私の方が満身創痍になった。

「(殺される……!)ととと、とりあえず、この薬を飲んで…っ頼むから!」
「労咳に効く薬などあるはずがない。…討ち死にする相手くらい好きに選ばせろ!」
「ちょっと!?」

待ってくれ…話を聞いてくれ、高杉さん。私はさっきまで仲間たちと強敵と戦って休んでいないんだ。腰を打ち、腹を擦り、実は足首を少し捻っている。

と、伝えたいところだけど高杉さんは銃弾を打ち込むわ、火薬を飛ばしてくるわ、本気で切り刻んでくる。
息継ぎするだけで精一杯な私は壁に追い込まれていた。

「どうせ死ぬのなら、ここであんたと差し違えるのも悪くはない。」
「本当に勘弁して!」

ほんとに嫌!この薬さえ飲んでくれればここまで戦うことはないのに!今の高杉さんは無茶苦茶で本気で私を殺そうとしている。

「!?」

彼が姿を消し、真上にパッと現れて刃を落としてくる。もうどうにでもなれ!と武器を手放し、攻撃を避けて彼の背中に回り込んで抱きついた。

「なっ、…何の真似だっ!?」

武器を持つ彼の両手を握って離さず、彼の手から武器を叩き落とし、足をかけて彼を転ばせる。彼が反転して私を押し潰すように上になる。私も転がって今度は私が上になり、高杉さんを必死に地面に押し付ける。
本来の彼なら私を簡単に退けられるはずだが、今の彼は押し付けられると肺が苦しくなり力が出ない。

「落ち着いてって!ほら!…はぁ、はぁ…このっ!落ち着きなさいっての!!」
「ぐっ…はぁ、はぁ、…くそっ、体が…動かんっ。」

悪いと思うけど斬り合うよりマシ。私は全体重をかけて高杉さんを地面に押し付けて圧迫する。柔道のように相手が立てないように体を組んで自由を奪う。
あとは消耗戦だ。

私だって身体中痛くて捻った足を彼の足に絡ませて暴れる彼を押さえつけているからすごく痛い。もう泣きたい。でも、ここで一気に落とすしかない。頼むから諦めてくれ……。

「はぁ、はぁ、……うっぐ、」

彼は呼吸が苦しくてたまらないようだ。
私の下で息絶え絶えに喘いでもがくけど、力が抜けていき、ついに観念してうなだれた。

「はぁ…はぁ…、女1人退けられんとは…情けない…はぁ、はぁ…、もういい、分かった…こんな体では役に立たん…好きにしろ。」

ぐったりと頭を地面につけ、浅い呼吸を繰り返す彼に戦意はない。私は彼を跨いだまま上体を起こして服の中の隠していた薬草の包みを取り出す。

「はぁ、はぁ、とりあえず、…こ、この薬を飲んで欲しいの…はぁはぁ…。」
「あんたには敵わんな。…わかった、それを飲めばいいんだな。この際、毒でも何でも飲んでやろう……ゲホゲホッ。」

彼は目を閉じてむせながら息を整える。
屋敷に残っていた医者が屋敷の中からこちらを伺っていたので、声をかけて水を持ってきてもらった。
私は彼の腰に座ったまま彼が再び暴れないか用心深く見張って水が来るのを待っていた。

「あんたから押し倒されるとはな。こうしてみると惜しい光景だ。」

彼は片目を開けて砂まみれの前髪をかきあげる。もともと色気のある人だけど、こんな風に追い詰められた彼の色気はすごかった。

「ほんと、惜しいよね…。早く元気になってね。」

水が来たので彼から退いてあとは医者に任せた。私は足を引き摺りながら近くの縁側に座り込んで盛大なため息を吐いた。


ーーー

その後、薬を飲んだ高杉さんはたちどころによくなり、翌朝には全快した。
悲しいことに私はというと捻挫が悪化し、足首がパンパンに腫れた。それに身体中には青あざができて私の方が重症だった。

「良かったね、高杉さん。」
「あんたには頭が上がらんよ。昨日は迷惑をかけて悪かった。あんたが繋いでくれたこの命、大事にするよ。」

足を休めている私の前にあぐらをかき、明るい笑顔を見せる彼を見て嬉しくなった。

「昨日は本気で私を殺そうとした?」
「まぁな。俺はもう本当に駄目だと思っていた。あんたとなら一緒に死んでも構わんと思った。まぁ、あんたにしてみりゃ敵わん話だろうが、あの時の俺は本気であんたと…、てな。」
「どうせなら一緒に生きようよ。……あっ。」
「ほぉ…?今、一緒にと言ったな?その言葉、忘れるなよ。」

膝の上に頬杖をつき、私に意味ありげな目線を送る。

「そういや、あの時はあんたから組み敷かれたが、なかなか良い眺めだったぜ。耳元には吐息もこぼれたし四肢も絡み合った。そういや胸も「こら!!もういいから!あん時は互いに生きるか死ぬかで必死だったの!」
「ははっ、そう照れるな。今思い返せば惜しい状況だったと思ってな。…その足が治ったら続きをしないか?」
「!」
「今度は俺が上になるさ。あんたにはこの度の礼として極楽を見せてやる。」

男らしい面構えで言うものだから私は顔を赤くした。答えは誤魔化したけど、否定もしない私を見れば答えはわかるはず。


…まぁ、高杉さんを押し倒した時に感じた色気はとても良かったし……、あ、ありかな?






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