とある噂…高杉


ー 高杉さんに想い人がいる。その相手は●。

と、いうとんでもない噂を聞いた。
それを聞いた途端、嬉しく思ったけど、噂であって実際そんなことないと打ち消す。
私が彼に釣り合うわけないよ…。

とはいえ、もし事実なら嬉しいので、ちょっと高杉さんの様子を見に行ってみる。


ーー

屋敷に入ると高杉さんが腕を組んで柱に寄りかかっていた。彼は外を眺めていたけど、私の気配に気づいてこちらに目をやる。私だと分かると「よぉ」と気さくに挨拶してくれた。

「こんにちは!」
「久しぶりだな。俺をよそに誰かと遊んでいたのか?」
「まさか〜。仕事三昧です。」
「たまには息抜きも必要だぜ?俺が必要なら声をかけろよ。あんたから誘われるのは光栄だ。」

うーん。わかんないな。好かれているみたいだけど、想われるほどかは判断できない。

「わかりました!今度誘いますね。」
「今度、か。…今夜は忙しいのか?」

む…。今夜誘われるとは急。これは脈あり?…いや、でもたんに飲みたいだけなのかも?
というか、今夜は無理だな。先客がいる。イネちゃんとお喋りするんだ。

「すみません、今夜はちょっと…。」
「ほぉ…。俺以外の誰かと会うんだな?」

え。急に緊張感が。さっきまで柔らかな彼だったのに腕を組んでピリッとしている。目力がすごくて射抜かれそうな視線を注いでくる。もしかして、怒った?

「そいつは男か?」
「いえ!女です! 久しぶりにお茶でも飲みながら語ろうと思って。」
「何だ。そうか。楽しんでこい。」

ああよかった。笑ってくれた。急に口調が柔らかくなった。相手が女だと知って安心した?…あれあれ?何だか本当に好かれてるんじゃないのかな、私。
高杉さんの意中の相手は実は本当に…私?

「ああ、そうだ。」

彼は思い出したように言う。

「そう言えば、ちょいと噂が広まっていてな。あんたに関する噂なんだ。」
「え?何ですか?」
「ここじゃ何だ、場所を変えよう。」
「は、はい。」

何だろ?私の噂?こわいな。変なことしてないのに。
不安になりながら彼についていき、人気のない場所で2人きりになった。
そこで改めて向き合う。

「あんた、俺に隠していることがあるんじゃないか?」
「え?」
「ここは2人きりだ。俺に話したいことがあれば何でも言えばいい。」

高杉さんは私をジッと見つめたまま何かを待っているようだ。でも、そんなことを言われても困る。
彼に言いたいこと?隠し事?
いや、特にない。何だろ?何かあったかな?

「俺に聞きたいことでも良いぞ。何でも答えてやる。」

聞きたいこと…。ああ、あの噂のことは興味がある。
でも、高杉さん本人に「私が好きですか?」と聞くなんて流石に出来ない。そんな度胸ない。

「……。」
「……。」

…ていうか、高杉さんから何で言ってくれないの?「あんたに伝えたいことがある」の方が自然じゃない?

「なら、俺からあんたに聞きたいことがある。」

聞きたいこと?
話の運び方が回りくどいのが気になる。何だろ?と身構えると、

「あんたの意中の相手がこの俺だという噂は本当か?」
「へっ!?」
「…っはは、何だその顔は。鳩が豆鉄砲を食ったような顔とはまさにその顔だ。…そうか。つまり噂は嘘ということか。」
「え!?そんな噂があるんですか?私が聞いたのは逆ですよ!」
「ん?逆?…つまり、俺があんたを好きだということか?」

頷くと彼も驚いた顔をする。そして、ははは、と笑った。そんな彼を見て期待が消えたけど、何だか面白くて拍子抜けで、一緒になって笑うしかなくなる。

「はは、ほんと、変ですよね!どっからそんな噂が出たのかっ。」
「そうだな。まぁ、噂なんてそんなものだ。何が本当で嘘かは自分で見極めないとな。何にせよ、俺が聞いた噂は嘘みたいだ。残念だ。」

ふふふ、と笑いながら高杉さんと一緒に屋敷に向かう。なかなか恥ずかしく、くすぐったい時間だった。

屋敷の前で私は彼に別れを告げる。こんな笑える話、是非イネちゃんに教えて笑いとばそう。


ーー


「…真か偽か、あんたはまだ見極められてないようだぜ。」


●を見送る高杉は小さく笑う。いつ気づくか、気づかせるかが今後の楽しみになった。




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