縁結びのお守り…高杉


神主を助けたらお礼だと言ってお守りを渡された。それは縁結びのお守り。

(お守り一つで意中の相手と結ばれるとは思えないけど…。)

お守りを懐に入れてモヤ〜とした気持ちで神社の階段を降り、鳥居を抜けると聞き慣れた声がした。

「よぉ。●。何だ?神社に用事か?」
「高杉さん!こんにちは。…神主さんにお手伝いを頼まれてこなしてきたんです。」
「そうかい。ご利益があるといいな。」
「はは…そうだといいんですが。」

煮え切らない気持ちが顔に出たらしい。めざとい高杉さんは「何だ?」と聞いてくるので,恥ずかしいけど正直に話す。

「ほぉ…。縁結びか。」
「どうせなら金運がよかったです。」
「まぁ、そう言うな。…1人の男と深い縁で結ばれるのも悪くはないだろうさ。」

あっさりと私の恋路を応援する高杉さんは私には興味がないようだ。…やっぱりだめか、と心の中でため息を吐く。

高杉さんは異性の中で一番よく話をする相手。
彼は強いし頼りになるし風情があるので彼のことが好きだ。でも、彼にとっての私は友人止まりで一向に進展しない。そりゃそうか。彼は男前だし女から人気だもの。

縁結びのお守りをもらったからってやっぱり変わらない。内心落胆しながら雑談がてらに聞いてみる。

「高杉さんはお守りとか神様を信じますか?」
「信じないとは言い切れんが、結局は自分の力を信じる。神仏に願ったところでこの国が良くなるとは思えんからな。」
「そうですよね…。」
「なぁ、もしあんたを想う男が現れたらどうする?」
「ええ?そうですね…うーん。…そんな人いないかと。」
「そう言い切るな。案外、あんたが鈍いだけであんたを想っている男がすぐ近くにいるかもしれんぞ?」
「…うーん。なら、考えるかと…。」
「ほぉ。」

彼が探るような相槌を打つ。「何ですか?」と聞いてもはぐらかされ、「まぁ、せっかく貰ったんだ。大事にするといいさ」と言われる。

彼があんな態度ならやっぱりお守りなんて持ってても仕方ない。でも、捨てるのも悪いし家の棚の奥にしまう事にした。


ーーー

それから数日後。

私はいろんな人と話したり誘われたり遊んだりすることが増えた。今まであまり話さなかった人とも話すようになり、人脈がどんどん広がっていく。男も女も関係なしだ。

毎日のように誰かと過ごしていて、今日はこの人,明日はこの人、と言ったように引っ張りだこだった。

それはとても楽しい反面、なかなか忙しい。

次から次へと人が私を待ってる感じ。今日も家を出て町を歩けば知り合いにばったりであって長く話をし、ついで昼を一緒にとった。
そうして人に恵まれる中で全く話さなくなった人を思い浮かぶ。

(…高杉さんとは全然話してないや。)

今までは私が話す相手と言えば高杉さんだった。時間があれば彼のところに会いに行って相手をしてもらった。それが楽しみだったけど、そんなことをする暇もない。

まるで高杉さんとの縁が切れてしまった気がしてお守りが好きじゃなくなっていく。いろんな人に囲まれて楽しいのに一番仲良くなりたい人とはどうしてもうまくいかない。

彼を想って寂しくなりながら家に帰ると高杉さんが家にいた。

「お、やっと戻って来たか。久しぶりだな。」
「高杉さん!」

驚いた。高杉さんが家に来るなんて初めてだもの。ああ、何日ぶりに声を聞いたんだろ?10日ぶりかな。

「縁結びのお守りとは恐れ入るぜ。あんたを見かけてもろくに声がかけられないんだからな。家に来てももぬけの殻だ。何刻待とうとも夜になろうともあんたは帰らん。あんたに忘れられたかと思ったぜ。」
「そんな、…そんなわけないですよ!」
「俺が知らんうちに男と懇ろにでもなっちまったのか?」
「いませんよ。懇ろの相手なんて。」
「そうか。…いや、すまん。気になってな。」

久しぶりに彼に会えてよかった。
やっぱりこの人の隣が一番安心する。
恋の縁がなくて友人止まりでもいい。ただ、彼から引き離されることは嫌だ。

「あのお守りは明日返すことにします。」
「ん?どうしてだ?」
「私には必要ないからです。たくさんの人と仲良くなれて嬉しいんですけど、大事な人とは何も進展ないから。」
「大事な人?あんたには意中の男がいたのか?」
「ええ、実は。でも、その人とはどうも無理みたいで…。」

当の本人が横にいるのでゴニョゴニョ言う。

「…全く。何人恋敵ができれば気が済むのやら。これは神仏を悪く言ったバチが当たったのかもしれんな。…いや、俺が自分の気持ちに向き合わなかった報いだろうが。」

隣でぶつぶつ言う彼に首を傾げると、意を決した彼がこちらを向いて真剣な声で言う。

「あんたが他の男に取られるかもしれんと思ってようやく自分の気持ちに気づいた。俺はあんたが好きだ。誰にも渡したくない。その意中の男とやらを諦める気になったら俺を選んで欲しい。」
「!」

まさかの展開に目を丸くした。
…もしかして、今日までの事柄は全て守りのお陰なの?見えない力で高杉さんと結ばれるための道をお守りが作ってくれていた?
…それならすごい。凄すぎる!

「お礼参り行かなきゃ…。」
「お、おいおいっ、俺の想いを聞いていなかったのか?」
「…意中の相手は高杉さんだもの。」
「何?そうなのか?」
「……お礼参り、行かなきゃ!」

喜びから彼に抱きつく。彼は私を抱き止めて状況を理解した頃に声に出して笑った。

「そうかそうか…俺だったのか。…そうであれば、今後は神仏を信じることにしよう。」
「今度は金運のお守りを買ってこよう。」
「はは。あんた、そればかりだな。その前に買うべきお守りがありそうだがな。」






「安産もいいな。家内安全もいずれ必要だろう。」
「なっ、気が早いですよっ…。とりあえず高杉さんには健康のお守りが必要ですね。」
「おいおい、労咳はもう治ったぞ?」

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