女で誘い、男で抱く


「●ちゃん。」

とろんとした声に誘われて振り向けば、頬に手を添えられてキスをされた。驚いて目を見開いていると目を閉じているゴロ美ちゃんの顔が見える。髭が見えない彼女の顔は本当に整った顔で女の私でもズルいと思う。

「…っ…!」

彼女がそっと唇を離して驚いた私の顔を満足そうに見つめると、路地裏に私を引っ張る。そのまま壁に押し付けられた私は、鼻先が擦れる距離感のゴロ美ちゃんに息を呑んだ。恋人でもないのにこんなことをされて怒って当然なのに怒りはなく、恥ずかしさから顔をそらす。

「怒らんの?」
「何でこんなことしたの?」
「してみたかったからや。」
「酔ってるの?」
「酔っとらん。」

さっきまでshineのキャバ嬢として飲んでた彼女だからもしかして酔ったノリで?と探るような目を向けたけどシレッと返される。確かに彼女は酔ってない。でも、舌先に残る酒の味が気になった。

「は、離してよ…帰らなきゃ。」
「ほぉ。どうやって帰るんや?」

私の手首を掴んで壁に優しく押し付ける彼女の意図がわからない。いつも友達のように遊んで飲んで手を振って別れる関係が今夜は嘘のように色づいている。

「●ちゃんと長くおったら惚れてもうたんや。あかんあかんって言い聞かせてもドキドキして、もうどうにも出来ん。今日で友達卒業したらあかんか?」

低い声で問われる。彼女の背後にいる真島吾朗から告白をされて顔を赤らめながら悩む。ゴロ美というふざけた人格と関わってきたのに、今度は彼と真面目に向き合えだなんて急展開過ぎる。でも、私の心はときめいていた。

「すぐにフラんっちゅうことは、脈ありやな?」
「ご、ゴロ美ちゃんと付き合えばいいの?」
「吾朗のオマケ付きや。」

ニッと笑う彼の目は輝いていた。もう私の返事を察しているからの余裕。返事なんていらないと、頬に手を添えられてまたキスが落ちてくる。ヒゲがちくりと肌を刺すけれど、フワフワするような甘いキスをすっかり気に入った私は彼女の腰に腕を回した。

明るくて華やかで面白いのに強くて、訳がわからない魅力の塊の彼女が好きだったから。
でもそれを恋心と言うにはあまりにも複雑な相手だった。だから、心の奥に蓋をしていたのに、キスひとつでこんなにも素直に落ちてしまう。
私は相当彼女が好きだったらしい。

「●ちゃん、お代わりええ?」
「ここで?」
「せやなぁ。●ちゃんの家近いやろ?行こうや。」

男か女かわからない今のゴロ美ちゃんに翻弄されたい。一線超えてゴロ美ちゃんの特別になりたい。そんな思いで彼女からの誘いに頷く私の顔は赤い。恥ずかしすぎてもじもじしてしまった。

「やだ…ホンマにかわええ。」

小さく呟いたゴロ美ちゃんは私の頭を優しく撫でる。指から突き出た長い付け爪が髪に当たらないようにしてくれるゴロ美ちゃんは優しい。今日からこの人の恋人になれるんだと思うと嬉しさが湧き上がってきて身体中疼くようなおかしな感覚になった。

「なに我慢しとるん?むずむずした顔しとらんで、やりたいことやればええんや。ゴロ美、積極的な子好きやでぇ。」

…触ってみる?と彼女は私の手を胸に、くびれに、お尻に流す。体は男なのにこんな誘い方されてドキドキしない人はいない。この服が邪魔だと思った私は彼女の手を引いて家へと足を向ける。彼女も私の手に指を絡ませて大股で私の隣を歩いた。

ゴロ美ちゃんをお持ち帰りだなんて…こんな日が来るなんて…と興奮してる私に熱視線を向けるゴロ美ちゃんは耳元で囁く。

「生半可なことしたら我慢できへん吾朗が●ちゃんを食ってまうで?ヒヒっ。」

ゾワっときた。負けないようにと自分を奮い立たせて獣を家に招く。でも、勝負は一瞬だった。玄関の電気をつけようと壁に手を伸ばしたら背後から抱きつかれて、服の中に手が滑り込む。そのまま手が上に上がってブラごと脱がされた時、私は叫んでた。

「ええ声やないの。もっと聞かせてや。」

私は胸を押さえながら彼女の影を見上げた。
彼女の髪が片手でゆっくり退けられ、床にウィッグが滑り落ちる。
しなやかな動きで服を脱いだその影は瞬きのうちに真島吾朗と言う男のシルエットになっていた。


「寝室どこや?」


end

女で誘い、男で抱く

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