この時代の恋愛


なんやねん、スマホって。
なんやねん、LINEって。
意味わからんわ。
ポケベルが懐かしいなぁ〜。

と時代に乗り遅れた真島だったが、周りがスマホを持ち始めたので嫌でもスマホが目についた。そして、キャバクラに行けば"真島さんはLINEしてますか?"とキャバ嬢からよく聞かれるようになった。

「最近耳にするLINEって何や?」
「LINEって最近流行ってるアプリですよ〜!」
「あぷり?」
「スマホにインストールすると、無料通話、無料チャットが楽しめるんですよ!」
「インストールって何や?チャットって何や?…わけわからんわ。」
「ええーと、まぁ、とりあえず!無料で何時間も電話できるし、無料でメールみたいなやりとりができるんですよ!…実はお客さんとLINEするのってあんまり良くないんですけど、真島さんとLINEしたいからこっそり聞いちゃいました。えへ。」
「ほぉん?まぁ、すまんが、ややこいこと好きやないんや。話すのもメール打つのもガラケーで十分やろ?」
「えーー!スマホ持ったらもうガラケーなんて無理ですよ!戻れない戻れない!絶対スマホの方がいい!ゲームもできるし、パソコンを持ってるようなもんですからネットもすぐ使えるし!」
「悪いんやけど、わしはそういうのに興味ないねん。」

キャバ嬢の説明を聞いてもピンと来なかったことや、その女と電話もメールもする気がないのでバッサリ断ったが、心の中でLINEの無料通話と無料なんたらは気になっていた。

(そういや、●ちゃんも最近スマホ買っとったな。)

先月、●と夕食に行った時、鞄からスマホを取り出していたのを思い出した。しかし、スマホについて聞いても話についていけないだろうし、時代遅れと思われてもプライドが傷つくので真島はあえて何も言わなかった。
しかし、もっと●と気楽に関わりたいと思い、真島は翌日スマホ持ちの西田を呼ぶ。

「西田!こっちにこんか!」
「は、はいい!」

急な呼び出しに何だと思った西田だが、真島からスマホとLINEについて聞かれ説明をすると、そのままスマホを買うために連れ出されただけであって安心した。スマホ購入後、めんどくさいことは西田に頼んで設定してもらった真島は持ちなれないスマホをポケットに入れる。
あとは●とLINEのやりとりをするだけ。
そのためにも●を夕食に誘った。

ーーーー

「わぁ、この盛り付け方かわいい!…写真とろっと!」
「(来た!スマホや!)…●ちゃんもスマホなんか?」
「はい、あれ?真島さんは確か…って、あ!スマホだ!」
「ヒヒっ。ついに買ったで〜。スマホデビューや〜!」
「そうだったんですね!…あ。もしよかったら、今度からやりとりLINEにしませんか?その方が無料だし。…っていっても、LINEが嫌な人もいるし、LINEをそもそもしてない人もいるから、いやならこのままで全然良いんですけども!」
「いや、ええで!んで、どうしたらええんや?」
「ちょっと、借りますね。」
(よっしゃ!ついに●ちゃんとLINEや!)

●が友達追加され、真島の口元が緩む。
試しのメッセージを送ったり、試しの電話をして使い方を大体覚えた真島は、LINEは案外簡単で単純な操作で楽しめることがわかった。

その日から、真島は●とLINEをすることが増えた。

こんなに簡単に気楽に好きな女とやり取りができるとは。メールは面倒だったと感じるほどチャットは楽だ。スタンプも一緒のスタンプを買ってスタンプだけの会話を楽しんだり、夜中に電話をしたり、気軽にメッセージを送ったりと、2人のやっていることは最早恋人のやりとり。

(昨日は2時間半も電話しとったんか。ほんなら会いに行けばよかったノォ。ま、ええわ。今日もメッセージ送ったろ。)

ー 昨日話してた焼肉屋行かんか?
ー あ、行きたいです!明日とかどうですか?
ー おうええで。何時がええ?
ー 6時半だといけます☆
ー ほんじゃ、その時間に迎え行くで。

その後、20分ほど経過してから既読になり、わーい、と喜ぶスタンプが送られてやり取りが止む。

(今日は終いか?…なんや、もう少し話してたいとこやのに。…てきとーにメッセージ送ったらしつこいか?…特に用もないしのぉ。)
(焼肉屋、明日がええっちゅうことは、今夜は暇やないんか?)
(昨日あんなに話してたのに、今日は何も話さんと、なんや寂しいのぉ。)
(って、なんや、わし、めっちゃしつこい男になっとらん??)

LINEを送ろうか送るまいか迷ったり、スマホに●からの通知が入ってないか気になったりと、スマホを持ってから妙に落ち着かなくなった。
しかし、自分たちはまだ恋人でも何でもないから、やりすぎて嫌われるのも困る。

(なんや、こんな煩わしさ初めてや。人と繋がりやすすぎるとそれはそれで悩みやで。)

真島は首を横に振って●への関心を他にうつそうとする。明日会えるのならそれでええ!と街をふらついたり、桐生と喧嘩をしたものの、寝室に向かう頃にはスマホを見てはメッセージが入っていないことに少しの寂しさを感じた。
しかし、ここで女々しく悩みたくもない。とにかく寝ようとベッドに寝転んだ時、スマホに通知が入った。

ー 明日、焼肉屋で食べた後ダーツしませんか?
「うおお、来よった…!」

喜びから起き上がるが、そのメッセージをタップする指をあえて止める。

(ここですぐに既読をつけると飢えとる男か暇人や。あかん、ここは、…少し待つんや。男の余裕が女を引き寄せるんや。)

プルプルした指のまま3分待ち、タップした。そして、

ー おう、ええで!気がすむまで付き合うで。カラオケも行くか?
ー わぁ、行きたいです!明後日休みになったんで、暇なのでぜひ!
ー ほんならオールやな。
ー いいですねっ。すごく楽しみ。…じゃあ、また明日!
ー おう。おやすみ。
ー おやすみなさい。

そのやりとりは時間で言えば数分のことなのに真島はスッキリした気分になった。

(…わし、何歳なん?こないなことで一喜一憂って、ほんまに恋しとるわ。こんなに女々しい恋愛はわしに合わん気もするけど。)

いつもの自分らしくはない。
しかし、ここ数日のやりとりを見返すのも楽しい。
LINEはとても楽しいのだ。

(ま、ええわ。こう言う時代なんやし、もう少しこのままでもええか。)


end


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