狂犬の檻


「お前を見とると監視されとった自分を思い出すわ。ほんっま、毎日気が疲れて息苦しいやろ?」

タバコを吸いながらベランダに佇む真島は●に話しかける。●は部屋の隅に座り、黙って真島の言葉に耳を傾けていた。

「誰かわからんやつらにどこからでも見られとる。何しとるのかすぐわかる。逃さへんように自分の出口っちゅう出口を閉ざされる。気持ち悪くて吐き気がする毎日やろなぁ。」

●はパイソンジャケットの彼の背中を見つめてから、苦々しく聞いた。

「なら、何でこんなことを私にするの?」
「あ?何や、何も分かっとらんのか?…お前を逃がさんためや。決まっとるやろ。」

振り向いた真島は呆れた目で●を見つめると、タバコを落として踏み消す。ベランダの床にはいくつも彼が踏み潰したタバコの跡がある。真島はニヤリと犬歯を見せながら笑うと部屋に上がり、●の目の前でしゃがみ込んで鋭い眼を向けた。

「ほんまは懐かんお前と縁を切りたくて切りたくてしゃーないんや。なんぼ貢いでも肩透かし。いくら盛り上がってもお友達止まり。酔ったお前と寝れても次の日には距離取られた時は流石にしんどかったでぇ〜。見かけによらん悪女やで、お前は。」
「……。」
「せやけど、どぉーしても嫌いになれんのや。せやから、こうなりゃ強行突破やと思ってな?」
「……。」
「わしもこないな自分がおるとは思ってへんかった。ヒヒッ…惚れた女を監視する男やったなんて自分でも驚きや。」

そのぎらついた彼の目は征服欲や支配欲に染まっていた。●は悲しそうにその目から目を逸らすと、逸らすなや。と頬を手で固定されて向き合わされる。

「今日からお前を飼い殺しや。わしがたっぷり可愛がったる。ただ、いけないことしよったら、そん時の躾は厳しいで?飴と鞭や。…分かったら、返事せんかい!」
「…ッゥ!」

●はグイッと顎を掴まれたときの痛みとどすの利いた声に目を閉じる。怖くもあり、返事をしない抵抗を続ける●に真島は、ほぉ?と面白いものでも見るように声をだす。

「躾がいのある女やな。ええわ、お前のその顔がどんなふうに変わるのか、今から楽しみや。」

目と鼻の先に顔を寄せながら真島は笑う。●は奥歯を噛んで悲鳴を漏らさないと覚悟を決めた。だが、それさえも、顎を掴む真島に悟られてしまい、彼の加虐心をくすぐるのだった。


end
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