勝負・下着


惚れた女とデートをした後、いい雰囲気になったのでホテルに誘った。●は恥ずかしそうな顔を向けるが、断る気はないらしい。小さく頷いて手を握ってきた。

(可愛い女だ。)

緩む顔は見せないように気を張りながら、ホテルの部屋を取る。ラブホは●には似合わない。もっと落ち着いた大人の雰囲気が漂う場所じゃなきゃ白けるだろう。
ここは一つ、高くて高級感あふれるホテルをとった。俺だって、俺たちの最初は陳腐な安物ホテルで済ませたくはないんだ。

「わぁ、すごいっ。夜景ってこんなに綺麗なんだ!」
「ああ。だが、お前の方が綺麗だぜ。」
「ッ。桐生さん、今日はいつもと違うよ。」
「そりゃそうさ。何たってこの日にお前からチョコレートを貰ったんだ。…男ならそこに意味があるんじゃねぇかって期待するぜ?」

ポケットに入っている彼女からのチョコレート。これを差し出した●は決して義理チョコをやるような顔じゃなかった。じっと見上げてきて、緊張から瞬きを忘れた目をしていたんだ。
そんな●を俺は帰すつもりはねぇ。

「●…シャワー浴びてこいよ。」
「あ、桐生さん、先に浴びてきて。もう少し、この夜景を見たいの。」
「ああ、わかった。すぐ戻る。」

こくこく頷く●を残して脱衣所に入る。服を脱ぎながら、どんな一夜が楽しめるのかと妄想していた。

(準備しておいて良かったぜ。わざわざ●の喫茶店に夕飯を取りに行って夜は予約が入っていないアピールをする。そして、うまくいった時のことを考えて大金を財布に入れておく…。バッチリだ、ああ完璧だ。)

だが、口角を緩めてズボンを脱いだ時、俺は血の気が引いた。…う、うそだろ、と思わず声が漏れかけて耐える。

(おい、おい、こんな、なんてことだ…!)

脱いだズボンを履き直す。そして、なぜこんなものを履いているのか必死に思い出して、あっとした。
そうだ。俺は、昨日、闘技場に参加する羽目になり、根性を見せろと言われて、この根性ふんどしを履かされたんだ。そして、疲れで寝て、そのままだった…!

(くそ!…惚れた女と一夜を過ごせるってのに、赤いふんどしを履いたまま出来るか!かといって、バスローブの下に下着さえ付けてないなんて…品がなさすぎる。しかし、こんなの履いて出てきたらただの馬鹿だろう。何とかして、着脱する時にバレないようにしねぇと。)

ひとまず、褌を脱いで小さく折り畳み、胸ポケットの中に入れた。そこにはすでに彼女から貰った小箱が入っている。そこにギュッと寄せて決して出ないようにする。

(許せ…●!)

シャワーを浴びながら必死に策を練る。

(万が一見られたら終わりだ。この時代に褌なんて。いつもそうだと思われたら合わせる顔がねぇ。こうなりゃもう、裸体の上にバスローブを着て暗室をキープするしかねぇ。…●は夜景が見たいと言っていたし、カーテンを開けたまましたいだろう…そうなればネオンの光が入って明るくなっちまうし、ここは何も履かねぇ方がいい。)

アレはトイレか脱衣所で隠れて履くしかない。
意を決した俺はバスローブを羽織り、脱いだ服を纏めて片手に抱える。そして、夜景を見ていた●にシャワーをすすめてから、部屋の電気を消し、一人でベッドに座って夜景を見つめた。

シャワーがおわり、彼女が戻ってくる頃には二つの意味で緊張していた。だが、悟られないようにベッドに近づく●を迎える。
そして、バスローブ姿の●に敢えて言う。

「何だ。バスローブの下に下着を着ているのか?今から脱ぐのに。…俺なんて、もう準備できてるぜ。」
「き、桐生さんっ!」

●は恥ずかしそうに俺の隣に座り、身を寄せた。そして、どちらからともなくキスをした。
さて、ここからが本番という時に●は口を開く。

「あ、あの、桐生さん、私ね、その、ちょっと、引かれるかもだけど…。」
「ん?何だ?俺はなんでも叶えてやるぜ。」
「私、その、服を着たまましたいタイプなの!」
「え?」
「桐生さんがスーツとかシャツとかズボンとか着たまましてると、普段の桐生さんから襲われてる気がしてすごく興奮するの!」
「…服を、着る?」
「うん。裸って恋人だから見れる特別なものなのはよくわかるけど、私は普段の姿で愛を深められた方が昼間も思い出しやすくて、すきなの。」
「なるほど…、な。…し、しかし、今夜だけは、裸でさせてくれ!!」

頭を下げる俺に驚いた声を出す●。

「裸のお前を抱くのは、俺の、願いだ!念願の!」
「念願の??」
「ああ、俺はずっと前からお前に惚れていた。今日だってお前からチョコレートを貰えてホッとしたんだ。…俺は惚れた女のありのままをみてぇ。俺だけが知っている姿を!今夜見せてくれる…!!」
「わ、わかった…!なら、最初裸でして、後で服着よう?」
「…………。」
「そうしたら、長く…できるし、…二人とも満足できるし!ね?」
「………。」

ああ。出来ねぇ…。
ここまで頼まれて断るなんて。
俺には出来ねぇ。
なら、

「わかった。とりあえず、まずは、裸のまま、だ。」

俺は決めた。この裸でできる時間に全てを注ぎ込んで●を落とす。つまり、第二幕をする前に●の体力を奪ってやる。


これは、愛と名誉をかけた、男の真剣勝負だ。


その夜の俺は自分でも怖いくらいの激しさで●を愛し、名誉を死守したのだった。



end
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