暑い日のデート


「さっきからどうしたんや?暑さでぼーっとしとるんやったら冷たいものでも飲むか?」
「いや!平気!」

夏のせいか私の頭は少し茹っていた。私の隣を歩く真島さんは涼しい身なりと脂肪のない身体のせいで特に暑くないらしい。

「嘘ついとるか確かめたろうやないか。」
「え?…っわ!」

彼が手袋を取って私の頭のてっぺんに手を乗せるとすぐに手を引いた。

「アッツアツヤで!コンクリートよりも暑いんちゃう?」
「それ死んじゃう。」
「せや。死ぬ前に店入るで。お盆やからって、●ちゃんがそっちの世界行ったら洒落にならんからのぉ。」

真島さんに手を引かれて近場の喫茶店に入るけど、真島さんの身なりを見て店長が何とも言えない顔をする。

「あん?何や。言いたいことあったらハッキリ言えや。」
「ああ、ええっとですね、刺青があるお方は…。」
「ほんなら、テイクアウトや。この子が涼める冷たいものくれや。」
「でしたら何が良いですか?」

ほっとした店長に苦笑しながらアイスコーヒーを頼んだ。わしにもくれ、という真島さんと少し待ってドリンクを受け取って店から出る。

「冷たくておいしいね。」
「おう。●ちゃんは鈍感やから知らんうちに倒れてそうで心配や。ちゃんとクーラー付けとるか?扇風機で我慢してたらホンマにあかんで。これは人を殺す暑さや。」
「うん。大丈……、あ、あれ…。」

そういえば、今朝部屋を出る時にクーラーからおかしな音がした。真島さんとの約束の時間に遅れそうだったから確かめてないけど、昨夜は稼働が遅かったし、クーラーも寿命が来てもおかしくないほど使ってる。

「もしかして、今夜殺されるかも。」
「はぁ?何やらかしたん?」
「いや!そうじゃなくて、クーラーが壊れたかもって。今朝調子変だったから。」
「せやったら今から家電行くで。」
「待って、お金ないの。」
「アホゥ。命に関わるんや。金なんてわしが出したる。大船に乗ったつもりでおらんかい。」

散歩中に立ち止まる犬のリードをグイッと引っ張る飼い主のように彼は私の手を引いた。けど、踏ん張る。

「デートを楽しみたいから大丈夫!明日行くから!」
「ほんなら今夜はわしのとこに泊まるとええ。」
「うん。…って、え!?いや、いや、それは!」
「ええ、ええ、遠慮すんなや。」
「真島組にお泊まりは怖い!」
「あほぅ!わしのマンションに決まっとるやないか!わしにも帰る場所くらいあるで!?」
「真島さんとこにお泊まり!?」
「何がおかしいんや?わしらは付き合っとる。何もおかしくあらへん。それとも何や?このわしじゃ足りんっちゅうことか?」

ズイッと顔を寄せられて顔が赤くなる。
真島さんと付き合えて、デートできただけでも幸せなのに。デート2回目でもう泊まっていいなんて…!クーラーにはしばらく壊れてて欲しい。

「よろしくお願い…します。」
「ヒヒっ。おうおう、手取り足取り腰取りしたる。…夕方になったら一回●ちゃんの家に行ってお泊まりグッズを持ってくるとええ。その間にわしがクーラー見たる。」
「クーラーを直せるの?」
「わしが機械に詳しいわけないやろ。……殴ったら直るかもしれん。」
「いやいや、昭和のテレビじゃないよ…。」
「試す価値はある。ほんでダメなら腹括って買い替えや!」

本当に真島さんって真島さんただ1人しか存在しない人種というか犬種というか。
こんなにユニークで大胆で破天荒な人は飽きない。今夜だけじゃなくてずっと泊まりたいな……、と、夢見すぎかな。暑くてめでたい妄想炸裂してるのかも。
私はひんやりしたアイスコーヒーを額に当てながらデレっと笑う。

「少しはマシになったかのぉ?」

彼は素手を伸ばして私の頭の熱チェックをするけど、アカン、と首を横に振って自分のアイスコーヒーを私の頭の上に乗せる。

「ちょ、ちょっと〜。」
「●ちゃんの頭、鉄板級にアツアツや。目玉焼きができるほどや。…のぉ、今日は外じゃなくてわしの部屋で過ごさんか?」
「え!?いいの?行こう!」
「おう!ほんで、肝が冷えるホラー映画みようやないか!」
「エ"ッ!?」
「昼は冷え冷え、夜はアツアツコースや。ほな、行くで。」
「?!」

斜め上をいく彼。私は2人分のアイスコーヒーを両頬に当てながら彼とのはちゃめちゃなデートを続けるのだった。


hot end

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