そんな勝手が通るわけもなく


ー ●、次はいつ会えるんだ?

ー ●チャン、明日空いとるか?

ー 次の日曜日、お前が行きたがっていた水族館にいかないか?

ー今アパートの前におるけど、入ってええか?

ー なぁ、今恋人はいないよな?

ー ●チャン、わしの他に気のある男おるか?


私を求めてLINEの通知が鳴る日々。年上の男性2人とかわるがわる会っていた。理由は特にない。別に2人と付き合ってるわけじゃないし、2人から付き合って欲しいと言われたわけじゃないから、その日の気分で片方に会って片方を断っていた。
最初はそれで楽しかった。
1人は男らしくて逞しくて頼りになるし真面目で信頼できる。もう1人はぶっ飛んでて明るくて楽しくて奇抜で飽きない人。その2人の間を彷徨っていたけど、段々その"彷徨う"ことが難しくなってきた。

ー ●
ー ●チャン
ー 明日会いたい
ー 明日デート行こうや
ー 今暇か?
ー 今会ってもええか?

いい加減な関係が本気の手前になっていくから、私は苦手さを感じた。
だって今まで遊びだったでしょ?年の差があるし。あっちの世界の人だし。
だから困るよ。既読スルーしてたら電話かけてくるのは。朝にメッセージ入れて絶対1日のどこかで返信させるのは。返信したらすぐに既読になるのは。私がLINE閉じる前にメッセージ送って既読つくようにするのは。


ああ。
もういいや。
2人とも断っちゃえ。


大丈夫だよ。だって2人とも金持ちだし人気だしキャバ嬢の知り合い多いからモテるだろうし。遊ぶ女はいくらでもいるよね?性格もサバサバしていてベタベタしつこいわけじゃないから直ぐに離れてくれるよ。

ー ごめんなさい、今月多忙で会えません。
ー ごめんなさい、今月多忙で会えません。

つまり、もうサヨナラってこと。
2人に同じメッセージを送って2人をミュートにした。もうめんどくさいんだもん。そうなると捨てるの。そんな関係なの。2人に熱が冷めた私はスマホを手放して寝た。

翌朝、スマホを見たら2人から何通か通知が入ってた。でも、それは見ないで仕事に行った。
こうして都合が悪くなれば関係を切っていく。最初からそのつもりで関わっていたから別に良いの。


ーーーーーー

「どうする?桐生チャン。」
「そうだなぁ。」
「わしらはお払い箱みたいやで?」

桐生と真島は●の職場が見えるビルの屋上に並んで立ち、既読がつかないメッセージを見おろす。

「こういう時は直接行くか。」
「せやなぁ。返事を待つのは時間の無駄や。ほんで、別々に行くんか?わしら同時に行ったら驚くやろな。わしらが知り合いだなんて分からんやろうし。」
「そうだな。だが、隠す必要もない。今夜2人で●のアパートに行ってもいいんじゃねぇか?」
「ヒヒっ。おもろくなりそうや」

ーーー

遊び、ヒマ潰し、なんとなく。
お互いをてきとうに扱っていたんだから、最後もそれで良いじゃない。…結局、私は2人のLINEを無視して1日を過ごし、会社からでた。
疲れた体を伸ばしながらダラダラと歩いて、アパートに着き、鍵を開けた時、背後に人の気配がして、ポンッと両肩に2人分の手がそれぞれの肩に置かれる。ビクッとして慌てて振り返ると、

「「よぉ。」」

桐生さんと真島さんが並んで立っていて私を見下ろしてる。彼らは自分の隣にいる男を気にしてないの?いや、そんなわけ。この2人、まさか…知り合い?ギョッとした。いや、別に私は浮気してるわけじゃないから青ざめる必要はない。それにほら、この人たちだってしてるように異性で遊んでる。それだけだ。

「…ああ、あ、こんばんは。」
「今日は相当忙しかったらしいな。」
「既読もつかへん、返事が来んから会いにきたで〜。」

罠にハマった気分。驚きを超えて青ざめた私に気付かぬふりをする彼らは有無を言わせずに部屋に私を押し入れる。
ガタンと閉じるドア。真っ暗な部屋。明かりを、と手を伸ばすと手首を取られて桐生さんから背後から抱きしめられる。

「捨てられたかと思ったぜ。」
「そんな…。」
「居ても立っても居れんくなってきたっちゅうことや」
「今までは順番だったが、忙しいお前の時間をとりたくないから2人いっぺんに来た。これならまだ邪魔じゃないだろ?」
「そ、そうですね…。ああ、あの、電気を…」
「ええて、付けても電気はすぐに消すことになるんや。なぁ、桐生チャン?」
「そうだな、兄さん」

体が浮く。真島さんに足を抱えられて、桐生さんと真島さんによって部屋の奥へ運ばれた。怖くてカバンを落とす。叫ぼうとしたけど真島さんの口が唇を塞いだ。
まさか…このまま?


「無視されると燃えるのが男やで。覚えとき」
「俺を我慢させた分、受け止めてもらうぜ。」



end



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