会えるのはクリスマスイブが終わる頃


電話の向こうの佐川さんがタバコを吸いながら私に言った。

ー たまには来いよ。

それは甘え?
鼓膜を震わせたその音に少しだけ頭の中がとろっと溶ける。照れにも似た感覚で、私の頬が緩んでいた。

ー 会いたいの?
ー え?そうは言ってねぇよ。

天邪鬼か。
怒らせると怖い組長で有名な彼だから、あまりしつこく言わないようにしていたけれど、今回は攻める。だって本音が聞きたいから。

ー 寂しいんだ?
ー お前が?
ー まさか。そんなことない。
ー 素直じゃねぇな。

へへっと笑う彼。
夜の10時の会話が楽しい。アパートの周りの明かりが消えて、私たちだけが起きている気分。
明日の仕事が遅ければ会いに行ったのに、それができないのが悔しいと初めて思った。

ー 今度会いたい。
ー 今度っていつだよ。
ー 予定が合う日。
ー お前な、本当に会いたいのなら予定は作るもんなんだぜ?
ー そう言われても…、

頭の中でいくつものスケジュールが横切った。そこには会えそうな時間がなかなかなく、言葉に詰まっていると彼は口を開く。

ー しょうがねぇなぁ。鍵開けとけ。
ー え?
ー 会いに行ってやるって言ってんだよ。

ガチャ、と電話が切れる。
今から?とつぶやいて慌ててドアの鍵を開けて半信半疑で待っていたら、ドアが開いて彼が入ってきた。

「よーぅ。邪魔するぜ。」
「佐川さん!」
「組長直々のお出ましだ。もてなしてくれよ?」

彼特有の片眉だけクイっとあげる顔をして私に笑いかける。その顔が好きだ。いつも険しい顔して歩いてるのに、こんな顔を向けてくれるのは私だけだと思っているから、この顔が好きだ。
私は飛びついて、その夜は彼と夜更かしをした。

ーー
寒さが身に染みる季節になった。雪なんて滅多に降らない地域なのに粉雪がちらつき、もう少しで今年が終わることに気づく。

日めくりカレンダーをめくれば、12/21。
最初に思ったのは今年がもう2週間もないこと。そんな単純なことだったけど、もう一つ思ったのはクリスマスイブが近いこと。

仕事一筋の私はその日をプライベートで過ごしたことはなかった。だから、その日は仕事か休日かのどちらかしかなかったけど、佐川さんの姿がふわっと浮かぶ。

…誘っていいのかな。
でも、クリスマスイブとか、そんなイベント事を楽しむよう何とかな?
というか、そんなイベント関係なく彼は彼で忙しかったりして。ていうか、…そもそも本命いたりして?

考え込むと訳がわからなくなり、…そして、誘う勇気がないということもあって、そこからまた数日分のカレンダーがめくられた。

そして、24日になり、どこかでまだ迷っている自分がいたけど無視して仕事をした。ポケベルを気にしたけれど、目当ての人から鳴るわけもなく、昼が過ぎ、夕方になり、夜になる。いつもと同じ日だ。

勝手にがっかりした帰り道、カップルとすれ違いながら、そこに彼がいないか少し怖くなった。仲が良かったけど、彼には本命がいるのかな?それとも仕事?

こんなに遠慮しながら人を想ったことはなかった。不器用と言えば不器用かもしれない。あの夜の電話はなんだったのかなと思うくらい、今日という日は何もなかった。

ロマンチックな気持ちを捨てて部屋に入る。お風呂をして寝ようと殺伐とした思いでリビングへ行くと、そこにはラッピングが施されたプレゼントの箱が置いてあった。

(え!?なにこれ!)

泥棒!?と、部屋を見渡したけど誰もいない。合鍵なんて誰にも渡してないし…しかもこのプレゼントは?と、恐々手に取るとカードが落ちる。

ー 会いに来いって言ってんだろ。

走り書きのようなメッセージに吹き出した。それは嬉しくて、安心して、照れて、私は笑った。
どうやって部屋に入ったか知らないから聞かなくちゃ。いや、でもたとえ不法侵入でもこれは嬉しい。嬉しかった。

素直じゃない私はプレゼントを抱きしめながら、送り主へ電話をした。


end

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