真島高校生の恋


真島吾朗は周りから浮いているようで浮いていない絶妙な不良だった。
授業よりも喧嘩優先。殴り合いが大好き。夢はヤクザ。
ただし、変に真面目であり役割や何らかの担当を任されると真面目に取り組む。そして、喧嘩相手と見なさなければ優しいという不思議な生徒だった。

ただ、そうはいってもテクノカットで目つきが悪い男子の第一印象はよくはない。彼と関わってみればその印象は大きく変わるかもしないが、クラスが別だったりほとんど関わったことがない生徒から見ればすすんで仲良くしたい相手ではない。

ー ああ見えて意外と優しいんだよ!
ー いや、絶対怖いでしょ!

その極端な評価がほとんどだが、当の本人はどこ吹く風。周りの目など気にもせず、我が道をいっていた。たとえば、強そうな男子生徒に喧嘩を挑むとか売られた喧嘩は全て買うとか。基本的に暴れられれば満足だった。

最近,そんな真島が妙におとなしい。
何かをじっと見ている。木の影や電柱に寄りかかるなど、何かの影に身を隠して見つめる相手は●という別クラスの女子生徒。

ジッと見つめている真島の表情は掴めない。至極無表情で全く何を思ってるのか周りにわからない。
そんな真島の自然に気づいた女子生徒はおずおずと●にそれを伝えた。あの狂犬って呼ばれてる男子生徒があなたを見てるわよ、と。

●は学業もスポーツもそこそこ出来る女子生徒だった。もちろん、不良の目を引くようなことはしてない。なので、あの真島に目をつけられていると知り、彼女は不安になった。


ーーー

(うわあぁ、今日もいる!こっち見てる!こっわっ。)

昼休み。
廊下に出ると少し遠くから自分を見つめる真島がいた。まるで出待ち。彼は腕を組んで柱に寄りかかってこちらを伺っていた。

(めっちゃ睨んでる!)

昼休みに図書館に行こうとしていたので真島のいる方の階段を使って行こうとしていたが,彼の前を通るのは怖いのでわざわざ反対側から図書館に向かう。

(真島くん,怖いなぁ。喧嘩が強すぎて男子が束になっても敵わないって聞いたけどほんとかな?周りが盛って話してるのかな?…って、あれ!?私についてきてる!?)

何気なく振り向いたら真島も歩きだしており、何故かついてきていた。偶然かと疑うが、やはり怖いので小走りで女子トイレに逃げ込む。
…しばらく女子トイレで待ってからコソッと顔だけ出すと、

(わ!いた!しかもがっつり目があった!)

真島は誰かを探すようにキョロキョロしており、●に気づいて目を大きく見開いた。
反射的に女子トイレに引っ込む●。そして、警戒した亀のようにそぉーと女子トイレから顔を出すと女子トイレの斜め前にいる真島と目が合う。

「な、なに?なに?なんか用??」

テンパる●を見た真島は首をかきながら困ったような声を出す。

「あー…●ちゃん!怖がらせてすまんかった。でも、別にへんなことしようなんて考えとらんで?ただ、その、一緒に図書館でもどうかと思って…!」
「ととと図書館に?私と?何故?」
「その、…●ちゃんと仲良くなるためや!」

忙しなく首をかく真島は困ったように●を見つめ返す。その頰は少し赤い。その様子に少し警戒をといた●はそーっと女子トイレから出てくる。


◆ ◆

暫く前からわしはおかしかった。別のクラスの●ちゃんを見ると胸がキューッと締まって背中がゾワっとする。顔も熱くなって何故か焦る。

そんな自分は変や変やと思っとった。●ちゃんを見るとそうなるから見んようにした。
ほんでも勝手に見たくなる。休み時間は何しとるんか気になって遠くからみとったし、体育とか●ちゃんとのクラスと一緒に授業する科目はサボらず皆勤賞や。
●ちゃんが他の子と仲良く話しとるのを見て、ええなぁ、って思う。●ちゃんと仲がいい男子には嫉妬しとった。
そんで気づいた。わしは●ちゃんに惚れとるんや!って。

でも、わしは●ちゃんと話したことがないし、同じクラスになったこともない。
どう話しかければええんか分からずジッと見とったら、目があった途端に逃げられてもうた。
あの顔はほんまに怖がっとるようやったから追うに追えん。嫌がられるのも嫌やし…。


仲良くなれるにはどうしたらええんやろ?

真剣に考えて、●ちゃんは最近図書館で過ごしとるから昼休みにわしも図書館におることにした。読書の邪魔せんように近くにおったり、本探しとる時にでも少し話せたらええ。

決まりや!有言実行や!

と、思って●ちゃんが教室から出て来るのを待っとったらあっさりバレて逃げられた。
いつもみたいに追わんのも手やけど、これじゃあ友達にもなれん!もう男は度胸や!とりあえず後を追った。
ほんだら女子トイレに逃げ込まれた。
男子のわしがガン見したらあかんところやけど、状況が状況や。何とか説得して怖がらんようにして一緒に図書館に行けるように必死やった。

その甲斐があって不審に思われとるけど●ちゃんはわしと図書館に向かってくれた。

移動中はめっちゃ距離取られたし一言も話さん。

ほんでも、これが今までで1番近い距離やった。
斜め後ろから見る●ちゃんもかわええと思う。…顔見えんけど。


◆ ◆

昨日の昼休みはすごく疲れた。
昨日は何故かわからないけど真島くんと図書館で過ごした。私たちが使うテーブルの周りには誰一人寄って来なかった。みんなそそくさと本を借りては出ていく。変に静かな図書館だった。

(…なんかもう、朝から疲れたなぁ。)

登校して間もないのに。たった今校門くぐったばかりなのに。…今日は一限から社会かぁ〜。今の単元興味ないんだよねーと心の中でぼやきながら歩いていると、

「●ちゃん。」

通り過ぎた木のそばから真島くんが出てきた。両手をポケットに入れてジッとこちらを見てる。驚いて見つめ返すと彼の白い頰が少し赤くなり、キュゥと口が一文字になる。
…もしかして、私に緊張してるの??

「ああ、おはよう。」
「お、おう!おはよう。…天気ええな。」
「う、うん!」
「……。」
「……。」

互いの出方を伺う謎の沈黙。でも、怖くない。二人ともどうしていいのかわからないっていうだけ。

「と、とりあえず、行こっか。」
「お、おう!」

よくわからない雰囲気のまま私がリードした。彼はおとなしく隣を歩く。目の前の生徒たちがサーーっと端に寄り、道を開ける。
なんだろ。この緊張感は。
チラッと横を見ると彼もチラッとこちらを見る。

お互い無言でジッと見つめ合う。


…な、

何だこの恥ずかしさ!!
なんか言ってよ!


「●ちゃ、」
「真島く、」
「「えっ!?」」

同時に相手を呼んでしまい、余計にテンパる。

だ、だああっ、なにこれ!
なんか知らないけど顔が熱い!!

「ああ、えっと、またね!!」
「ちょ!待ちや!」
「な、なに?」
「今日の昼休みも一緒におりたい!わし、●ちゃんとの時間が好きや!」

顔を赤くしながら言う真島くんにこっちも赤くなる。
す好き!?え!?いや、何で一緒にいたいの?いや,別に理由がなくてもいいけど!
でもなんか恥ずかしいっていうか!
え!?すき!?…ああなんかもう混乱する!

思考停止して固まっていたらチャイムが鳴った。急いで教室に行かないと。あ,でもその前に返事しなきゃ。

「い、いいよ!…またね!!」

とりあえずOKして教室に走った。それはもう大慌てで。でも、これは遅刻とかに焦ってるんじゃない!じゃあ何?……知らないよ!


ーー


「よっしゃああ!!今日もデートOKや!!」

1人残された真島は大声で叫んだ。両手でガッツポーズをつくり、イェーイ!と空に突き上げる。

「駄目かと思ってめっちゃ焦ったけどOKもらったでええ!!」

心の声が止まらない。もう一度「よっッ……しゃあああァァ!!」と叫んで興奮を楽しむかのように空に吠えた。



「…今度は一緒に教室まで行けるとええな!教室隣やし!」



end



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