ついてねぇ日


「すまねぇ。一晩だけ俺を家に泊めてくれねぇか?」

桐生さんが私を探していると聞き、友人が桐生さんを見かけた場所に行ってみたら桐生さんが単刀直入に頼んできた。

「え、何で?」
「アパートが焼けちまったのさ。どこぞのアホが捨てた火のついたままのタバコが原因で火事が起きちまってな。」

もう、顔が無心と言った顔だった。そりゃ、夜中に帰宅したら火事で住み場所がなくなったとなればこんな顔にもなるんだろう。錦山さんに頼もうとしたら女を呼んでいるとのことで友情よりも女を取られたとか。金はカツアゲくんに全部取られてしまったとか。もうそれはそれは…

「ついてねぇんだ…今日は。」

その一言が、彼の惨めさを語っている。
私は男をアパートに泊めるのは躊躇いがあったけど、放心状態の彼を放置できない。

「お前に断られたらこの寒空の下でホームレスみてぇに過ごさねぇといけねぇんだ。だめか?」

彼の立場が悲しすぎて、私は彼を泊めてあげることにした。

ーーー
と言っても、一部屋しかないわけで。布団も一つ。枕も一つ。それでいいの?と聞けば、屋根がありゃいい、とのことで、桐生さんには毛布を渡してあげる。

電気を消して、ちゃぶ台を挟んで端同士で横になっておやすみと言った。ああ、と短く返事が来て私はとりあえず目を閉じる。

ただ、すぐそこにいる客が気になってしまう。桐生さんは向こうを向いて寝てるけど、異様なほど動かない。まるで意図的に固まっている。多分、私に背を向けたまま横になってるものの、目はちゃんと開けてる気がする。
…気まずいんだよねぇ。

「…桐生さん、寝れる?」
「いや。」
「だよね。…あ、テレビ見たかったらつけてていいからね。」
「お前も眠れねぇのか?」
「そうだね。」
「俺がいるから?」
「うん。」
「それって…どういう意味の?」

ドウイウイミノ?
…い、いやいや、何を言わせたいんだ桐生さんっ。というか、ちよっと期待した声で聞かないで欲しい。ちらっと肩越しに振り向かないで欲しい。乙女か。

「お客さんがいるから気になるだけ。」
「…そうか。」

あきらかに残念そうに背中を向けないで欲しい。
うーん、桐生さんは読めないなぁ。真面目というか堅物と思えば、実は抜けてる時もある。まぁ、まだああ見えて二十歳だし…どこかまだ未熟なところもあるのは仕方ないか。

「っくし!」
「ん?寒い?」
「ああ、すまねぇ。ちょっとな。」
「……布団に入る?」
「え!?」
「いや、私が畳で寝るよ。桐生さんお金ないんだし風邪ひいたら大変だよ。」
「女にそんなことさせられねぇ。気にすることはねぇよ。」

そういって毛布を肩までかけ直す。…いや、絶対寒いんだよ、それ。私は迷ってから、そっと隣に呼んだ。

「一緒に寝る?」
「え!?」
「添い寝。」
「……、いいのか?」
「風邪ひくよ。」
「…わかった。」

大胆な私に押されてる極道は少し面白い。
躊躇いながら私の隣に移る桐生さんの黒い影はでっかくて威圧感がある。でも、隣に座って動けなくなる桐生さんはやっぱりまだ男の子なんだろうな。添い寝しようと言われたものの、彼は困ってる。

「いやならいいんだけど。」
「いやじゃねぇよ。本当に良いんだな?」
「うん。隣で寝てよ。」

意を決したのか私の隣に寝る桐生さん。でかいな。布団が小さく思える。枕は私が使って2人でそれ以外のものを半分こする。
しかし、本当にでかい。近づくと威圧感がある。まぁでも風邪ひかれるよりマシだし、あとは眠気を待つだけ。

「…、まさか本当に寝る気じゃねぇよな?これは、焦らしプレイってやつか?」
「何言ってるの。」
「こんな美人が隣にいて大人しくねれるんけねぇだろ。」
「……。」
「……。」
「…寝なさい。」
「なに!?」

薄暗がりの中で言い放たれた桐生さんはグッと眉を寄せて目を閉じた。寝ようとしてるらしい。可愛いなと思う。

「今日を超えたらあなたは勇者だ。」
「勇者ってのは辛いもんだな。」

私は放置プレイをして寝ることにした。
何度か目が覚めたものの、その都度眉間に皺を寄せて目を閉じてる桐生さんが目の前にいた。


end

ー昨日は悪かったな。
ーいや、かまわねぇよ錦。恋人との時間を邪魔して悪かったな。
ー昨日は寝床は確保できたかのか?
ーああ。だがキツかったぜ。
ーえ?
ーキツキツだったな。
ーは?…そんな狭いところで寝たのか?

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