染まる2人


18年ぶりに再会したマコトに時計のベルトを贈った後で恋人である●の顔を見ると急に愛おしさが込み上げた。と、同時に寂しくなった。

●は自分を持った芯の通った女であって、男に惚れてもその男に染まるような女じゃなかった。
だから、●と真島は隣にいても身につける服も纏う雰囲気も違うわけで、ぱっと見でこの二人が恋人だとは思わないだろう。そう、例えば、真島が贈ったプレゼントであっても、大事だからとか、汚したくないからとか、勿体無いから、という理由でそっと大事にしまってしまう。
●らしいと言えば●らしいが、マコトの腕時計を見たらそれが悔しいと言うか、それくらい大事にしてくれればいいのに、と真島は寂しく思えた。

●とも繋がりが欲しい。
思い出や一緒にいる時間だけではなく。

「のぉ、何か欲しいもんあるか?」
「いきなりどうしたの?別にないよ?」
「お前はいっつもそればっかりやけど、たまには贈りたいんや。一生物でも。」

いきなりそんなこと言われても…と困る●は欲がない女だ。考えておく、と言ったまま話が流れてしまった。それがまた真島を寂しくさせた。

これはエゴなのかもしれない。恋人なら心だけではなく物でも繋がりたい。●に自分から贈った物をずっと大事にしてもらえたらどれだけ嬉しいかと…。

(はぁ〜、もう待ってても埒があかん!)

押し付ける形になってもええわ!と開き直った真島はある日とっておきの買い物をした。

ーー
「まだ?」
「もう少しやで。ドア開けるで〜。」

真島の両手で目隠しをされながらよたよたと部屋に入ると、ええで!!と言われて両手が顔から離れる。●は目の前に積み重なったプレゼントを見て目を丸くした。

「なっ、なにこれー!?」
「●が何が欲しいかわからんから、とりあえずぎょうさん買うてきたで!どやねん!ええやろ?」

セレブのクリスマスとも言えるほど、プレゼントが棚やベットの上に並んでいる。一番気になるのはベッド脇に立ってある細長い布で包まれたもの。

真島に背中を押されながら一つずつ箱を開けていくと、化粧、ネックレス、イヤリング、ブレスレット、服、靴、スカーフ、上着、スカート、カバン、香水…と、それはそれは高値のものがずらりと並んでいた。
そして、何となく真島の好みであるパイソン系の品が混じっていた。

「どや?ひとつくらい気に入ったモンあったやろ?」

期待した顔で聞く真島に●は嬉しいものの気圧されてしまう。ありがとう、とは言うものの高くて長持ちするものを本当にもらっていいのかと…。

「なんや、趣味に合わんかったか?」
「いや、そうじゃないよ!ありがとう!…でも、何でこんな、急に?」
「…なんちゅーか、変な話なんやけどな?…●はわしの恋人なのにいつまで経ってもわしに染まらんやろ?せやから、少しでもええんや。わしの女やって、誰が見てもわかるようになってもらいたいんや。」
「吾朗ちゃん…どうしたの…そんな、可愛いけど寂しそうな顔、初めて見たよ。」

●は心配そうに真島の頬を撫でた。真島は●の目を見つめながら言葉を続ける。

「ある女がの、昔っから大事にしとったモンを何年経っても肌身離さず付けとったんや。それ見とったら、急にお前のこと思い出してな。●はわしがくれたモンをそないに大事にしてくるんか?って思ったんや。」
「……。」
「…いや、でも今から考えればおかしな話や。●とわしは好みもちゃうし、アクセサリーなんて滅多に身につけんし興味もあらへんやろ?すまん。わしの押し付けやったわ。」

ふっと目を逸らして真島は謝る。
目隠しをしてまで恋人に喜んでもらいたくて買い揃えた贈り物は、彼の目にはもうすでに価値を失ったガラクタに変わっていた。そんな思いを払拭させようと●は首を横に振る。

「恋人が買ってくれたものなら、みんな身につけるよ。全部。」
「そんなゆうても、…ホンマはいややろ?こんな柄モン、お前の趣味とちゃうし。」
「吾朗ちゃんがくれたものは、これから大事に身につける。」

●の両手は真島の両頬をキュッと包むと向き直らせる。パチっと大きな目になる真島に●は優しく笑う。

「そんな思いがあって私にプレゼントを贈ろうとしていたのは知らなかった。だから、ごめんね。…私は吾朗ちゃんの色に染まりたい。」
「ほんまか?」
「勿論!」
「わしが贈ったもんを身につけて、お前は全部わしのやって思いたいんや。ええか?」
「うん!」

真島が●の腰を引き寄せる。●は頬を赤らめて彼にキスをした。

「大事にする。だって吾朗ちゃんがくれたものだもん。みんな宝物だよ。」
「お前の頭の上から爪先までわしが選んだもんで固めたいのぉ。」
「独占欲?」
「せやで。当たり前やろ。お前には…腕時計だけや足りんのや」
「ん?なんか言った?」
「いや!なんもあらへんで!」
「明日からこの上着着たらお揃いって思われるね。」
「誰が見てもカップルや!」

嬉しそうに裏声で聞く真島をくすくす笑う。●は…あ、と思ってベッドの横にある布がかかった物が何かを聞いた。

「あの大きなものは?」
「あ?これか?これは、わしがおらん時のためのわしの分身や!…ほれ!ええ出来やろ?」

布を取るとそこには真島を模した等身大の黄金像がピカピカ輝いていた。

ーー
「似合っとるのぉ!!」
「う、変じゃない?」
「おう!堂々と歩いたらええで。」

次の日、人生で初めてパイソンジャケットを着た●が恥ずかしそうに真島とマンションを出る。下は黒いミニスカートと革のブーツを履いている。カバンは金色だ。耳には白のイヤリングをつけて、そっと香水もかけている。
全く新しい自分で街を歩くのは恥ずかしい。

「ううっ、落ち着かないっ。」
「さいっこうやぁ…その恥じらいもたまらんのぉ!」

真島は大満足だ。マコトと違って全身を全て自分の贈り物で彩られた恋人はそそる。しかも、人目を気にして自分の背中に隠れるように歩く姿がまた何ともたまらない…。

「かわええなぁ…。ほれ、手、繋ぐか?」
「うん!」
「はぁ〜、ますます染めたくなるのぉ。次は下着や。」
「なっ、え!?」
「ああん?全部染まるゆうたやろ?安心せえ!お前のスリーサイズは聞かんでもわかっとるで!」
「っー!」

赤くなる●だが、真島の笑顔を見れば何でも許したくなる。仕方ないなぁと呟くと、そっと真島に寄り添う。すると、

「ん?兄さん?と…、●か?」
「お!桐生チャン!どや!●かわええやろ!わしとお揃いやねん!」
「あ、ああ、新鮮だな。…なんというか、いつもより2人が馴染んで見える。」
「せやろー!わしらはどっからどうみても似た者カップルやろ〜。お互い同じもんで染まっとるんや。」

ウキウキしている真島は今日は桐生に喧嘩をふっかけることはなく、●の肩を抱くと桐生に自慢した。
●は恥ずかしいものの、こんなふうに真島が楽しんでくれるのなら、見た目なんて何にでもなれると思った。

桐生と別れた2人は街を歩きながら、次はペアルックでもしたるか!とアクセサリーを選ぶ。

真島は真剣に悩んでいたが、●はショーウィンドウに映る二人を見て小さく笑った。今の二人を鏡で見つめれば、彼と一体感を感じて、確かに似たものを身につけるのは嬉しかった。


end
ALICE+