熱視線癖のある彼女


最近、部屋で過ごしていると吾朗ちゃんは眼帯を外して髪を解くようになった。般若の背中だし、後ろ姿が女性みたいだし、細い体型のせいもあって男に見えなくなる。
そんな姿を見られるのは恋人の特権かと思って余すことなく見つめていたら、視線に気づいた彼が振り向いて目を丸くした。

「ん?何や?なにそんなに見とるん?」
「見惚れてた。」

ベランダの一服から戻ってきた吾朗ちゃんは頭をかきながら隣に腰を下ろした。
私は好きな人を見つめる癖がある。彼は顔が整っているから余計に見てて飽きない。彼を困らせることもあるけど、片思いの頃から彼のこと見つめていたし、付き合えた後も同じことしてるだけだと言うと彼は照れてしまい、もうええやろ?と照れ隠しか私の頭を撫でながらと下へ押してしまう。

「吾朗ちゃんすごく綺麗だから。」
「お前の方が別嬪やろ。」
「そうかな?髪は綺麗だし、細いし、目も綺麗な吾朗ちゃんの方が美人さんだよ。」
「そないなところ褒められても嬉しくないで。俺は男なんやし。」

彼はぐっと腕を組んであぐらをかいて不満を漏らすけど、サラサラの長髪に目を奪われて終わりの私。
彼は眉間に皺を作りながら間を空けて付け足す。

「やから、最近俺にツレないんか?」
「え?」
「こいつのせいで、男として見られとらん気がする。最近そうやろ。俺と添い寝して終わりや。キスもしてこんやないか。」
「え?吾朗ちゃん?」
「その、ちゃん、もやめてくれや。俺はれっきとした男やろが。」

私が好き好んで褒めていたところも、見惚れていところも、呼び方も疎ましそうに彼は言う。ごめん、と驚きながら謝ると彼は慌てて私に寄り添う。

「あ、す、すまん…っ、ちょっと俺の言い方がキツかったなぁ。怒っとらんで?ただ、男としてのプライドっちゅうしょーもないもんがあってなぁ?特に恋人に男として見られんのは嫌やなぁって…!な?分かるか?」

まるで子供が泣き始める前にあやす大人。私はふふっと笑って頷くと近くにある彼の顔を見つめる。彼は頬を赤らめて顔を少し引いた。

「ほんま、最近その目だけでもう体が熱くなるんや。」
「私の目だけで?」
「おう。熱視線ってあるやろ?めっちゃ見られることや。まぁ、チンピラやらなんやら喧嘩売ってくるやつからはしょっちゅう向けられて睨み返せるんやけど、お前のその目でじっと見つめられると見つめ返せんのや。」

ボソボソと、それこそ目を逸らしながら話す吾朗。私がじっと見つめながら話を聞いてると、もう耐えられんとばかりに、

「あ、あかん!!ほれ、それや!自覚ないやろ!?」
「これもダメ?」
「せや!何でそないに黙って見てくるんや?なんか喋れや!緊張してまうやろ!?」

ばっと逃げた吾朗はまたベランダに行ってタバコを。もしかして、最近よくタバコを吸うのはこのせい?

「何でかな?付き合う前から私は吾朗のこと見つめてたよね?今更なんでだろ?」
「そ、そらあれや、距離の問題や!」
「距離?」
「せや!前は少し離れたところで俺のこと見とったろ?せやけど、こうして近くになると…その、…なぁ!?分かるやろ?!」
「うんうん。」

テンパリすぎだと思う。顔を赤くしながら早口で捲し立てる彼は可愛いけど、まぁ、見つめられると逃げちゃうのも残念だから、テレビをつけて彼を見ないように過ごした。
その日からも私はなるべく見つめないようにした。彼のために。

ーー
(……んう。)

●の目は綺麗やし、好きな女から見つめられると緊張して何をしたええんかわからんくなって、頭ん中真っ白になるから●に見つめないように頼んでから1週間。ほんまに●は俺を見なくなった。2人でいて話をするときは少し見てくるものの雑誌を見たりテレビを見たり。街でも隣の俺を気にせんように歩いとるし、たまぁに別の男に目を向けとる時があった。キャバクラの俺に会いに顔を出してくれた時も陽田やユキちゃんたちのことをじっと見つめて話したりしとる。

(…何やねん。自分で言っときながら墓穴掘った気分やわ。)

●からの熱視線はくすぐったいけど、それがなくなるってこんなに寂しいものやったんか。●の目が俺を気にしなくなり、他に向いているってだけでむしゃくしゃしてきたわ。…はぁああ、かっこ悪いのぉ。俺。

「●、ただいまやで〜。」
「おかえりやでぇ〜。」
「フッ、何やそれ。」

部屋の奥から聞こえる●の声に疲れが吹き飛ぶ。主が顔を出してニコッと微笑むと俺も笑顔になる。久しぶりに目があった気分や。嬉しいのぉ。

シャワーを浴びて着替えて部屋に行くと温められた夕食があった。それを食べている間は●がニュースを見ていて俺のことなんて一度も見てこん。前なら俺のことを見つめて微笑んだり、とろんとした目で話しかけたりしとったのに…、うう。寂しいもんや。

食器を洗って部屋に戻ると●が布団を敷いていた。俺はもう詫びるしかないと思って咳払いをする。

「…こ、こほん!あのな!話があるんやけど!」

やっと俺を見てくれた●の前に座って頭を下げる。

「俺がすまんかった!」
「な、なに?」
「俺のこと見るなって言ったけど、もうやめてほしいんや。お前から見つめられないとホンマに寂しゅうて寂しゅうて…せやから!また、俺のこと見てくれんか!?」

土下座をして謝り頼んだら、●の笑い声が響く。あはは!と楽しそうに笑う●に顔をあげた。

「そっか。寂しかったのね。いいよ?見てあげる。」
「ほ、ほんまか!?…他のやつ見たらあかんで?」

体を起こして●を抱き寄せると甘い瞳をした●が見つめ返していた。

「私も寂しかった。好きな人から見るなって言われてつまらなかった。」
「すまん!俺があほやった。好きな子から見つめられるのは幸せなんや…でも、その、好きやからこそ恥ずかしさも倍増するっちゅうわけで…っ。でも、我慢するわ。」
「じゃあ、1週間分じっくりみるね〜?」
「おぅ!穴が開くほど見たらええっ!」
「……。」
「……ッ。」
「……。」
「ぁ、…ぅ、…っ!」

これは、何プレイやねん。
絶対に●は楽しんどる!トロッとした目でじっと見つめられて赤くなる俺を心の中で笑っとるんや!でも負けたらあかん!

「ぅわ、こわいよっ!何で睨み返すの?」
「へ?睨んどったか?」
「すごい鋭い目だった。びっくりしたぁ。」
「…どうも、口で言う割に…、やっぱり見られると真顔にならんな。頬がヒクヒクするわ。」
「では、今日はこのくらいにしときましょう。」
「む、なんか、悔しいのぅ。…今度は怯まへんからな!」

●はニコッと笑うと俺の手を引いて布団に誘う。よし、こっから巻き返しや。とさっきの負けを巻き返そうと電気を消してベルトを緩めた。●を押し倒してキスをしていたら、細い手が俺の垂れさがった髪を撫でる。

「綺麗な髪…ねぇ、また、吾朗ちゃんって呼んでもいい?」
「ええけど…、今宵の俺は男らしいでぇ?」
「!?」


end

「(ん?何見とるんやろ?…あ?何やあの男。何であんなもんを見つめとるんや!)●!こっち見るんや!あないなもん、見るんやない!」
「あないなもんって、吾朗ちゃんのこと見てたのに?」
「は?俺は隣におるやろ。」
「ふふ、鏡に映ってる吾朗ちゃんを見てたんだよ。」
「な、なんやて…そんなところから俺見とったんか。…んんー、侮れんやっちゃなぁ。」
「ふふ、どの角度から見てもかっこいいんだもの。ふふ〜。また隙があったら見るよ?」
「…あんまり俺に悔しい思いをすると夜が怖いでぇ?」
「っえ!?ず、ずるいよ、それはっ。」
「夜は息絶え絶えのお前をジーーっくり見たるで?今から楽しみやわ〜。」
「!」

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