もう俺だけのもん!


「あー、もう!俺で遊ぶの堪忍してや〜!」

あんまり人に揶揄われることがない俺はどうも●さんからの揶揄いに弱い。●さんは年上の余裕か崩れた時がないのがまた悔しいわ。
せやから、今度こそは俺が勝ったる!と何度も負かせようとカラオケに誘ったりダーツに誘ったりビリヤードに誘ったんやけど、どれとっても勝てん!なんなんや!ほんま!

「今度はディスコや!ディスコで勝負やで!」

ビシッと指を伸ばして食ってかかる俺はなんなんやろなぁ。

…せやけど、だんだんとただ悔しいから●さんと遊ぶっちゅーことはしなくなった。…なんやろ、ただ、会いたいんやろうな。

ーー
今日こそ勝ったる!と意気込んで●さんの職場近くで出てくるのを待っていると、●さんは若い男と出てきた。ビルを出た後もビルの前で立ち話をしていて、●さんはいつも俺に向ける笑顔で相手の男の話を聞いてる。男は頭をかきながら礼を言ったり、頭を下げていた。

「がんばれ。ちゃんと支えるよ。」

耳に入ったその一言はめっちゃ優しくて力強い。●さんにそう言われた男は恥ずかしそうに夕飯に誘おうとしたから、割ってはいる。

「今夜●さんと約束しとるんはこの俺や。」
「え、あ、す、すみません。」
「ごめんね。また明日ね。」

まるで明日は一緒に過ごすみたいな言い方にとれた時、俺は胸の奥が冷たくなった。ヒヤッとしたっちゅーか、むかっとしたっちゅーか。ムスッとした目で男を睨むと男はすぐに逃げてった。

「真島君、ここまで来てたんだね。ありがとう。今日は何処行く?」
「ん!?お、おう、行きたいところでええで。何食いたいんや?」

俺は首をかきながら怒りを抑えていつも通りの俺になろうとする。●さんはニコッと笑うと行きたい店を口にして歩き出した。
俺は今日を楽しみにしていたのにどうしてもあの男が心に引っかかって気が晴れない。

「あの男は?」
「ん?智君は新入りなの。」
「サトシ君…へぇ。」

なんで名前呼びなんや。もう深い仲なんか?聞けば聞くほど眉間の皺が深まってくる。

「頼られとるみたいやな?」
「まぁ私は先輩だし、年下をカバーするのも仕事だかね。いい子だから世話も苦じゃないよ。」
「そうなんや…でもあんま甘やかしたらあかんで?失敗からも学ばなあかんし。」
「分かってるって。」

俺は必死に止めようとしとるみたいや。年下を甘やかしとる●さんや頼られとる●さんや他の男と一緒に飯を食う●さんを見たくないんや。

「大丈夫だよ。」

●さんがなんでそないなこと言ったんかはしらん。ただ、必死で、どこかショックで、悔しい俺に気づいどったんか?…ああ、嫉妬しとる俺にそんな言葉をかけてくれたのなら、それは、どういう意味なんや?

「●さん?」
「気にしなくていいんだって。」

ポンっと肩を叩かれ手を引かれた。俺は細いその手を躊躇いながら握り返して、少し先を歩く●さんの背中を見つめる。そして、思い切って言った。

「この背中を明日あいつに見せたくない。」
「真島君?」
「…好きや。●さんを俺一人のモンにしたい。」

振り返った●さんは驚いていた。その時初めて余裕のなくなった顔を見た。俺はそんな●さんに迫る。

「あかんか?」
「…、…ふっ。」
「ん?」
「やっぱ、好きなんだ。私のことを。」
「…!?」

●さんは嬉しそうな笑顔で弾んだ声を出す。その無垢な笑い方にさっきまでの余裕は何処かに吹き飛んで、俺の顔が熱くなっていく。
だが、ここで狼狽えたらあかん。もうここまできたら飛び込むまでや。

「せ、せや!好きや!!めっちゃ好きや!!」

●さんの両肩を握って大声で告白をしたら、●さんは俺の頭を撫でてからゆっくりと抱きしめてくれた。
俺は大きく目を見開いたまま、瞬きができず、身を寄せながらひたすら固まった。両肩を握る自分の手がブルブル震えて止まらん。心臓もめっちゃうるさい。顔めっちゃ熱い。

「私も好きだよ。」

俺を抱きしめながら応えてくれた●さんの声に目が輝いた。ほんまか!?ほんまか!?と何度も聞いて、応えてもらった俺はヨッシャーー!!とガッツポーズを握って空に吠える。

「あ、あかん!めっちゃ嬉しい!も、もう離さんからな!?サトシとかにええ顔したら許さへんで!?」
「ははっ、安心して。」
「お、おう。…その、これからは、俺だけのもんや。ええな?あと、俺のこと名前で呼びや。」

矢継ぎ早に頼み事ばかりでた。そんな俺を面白がる●は…、ほんと可愛いなと笑うと俺をもう一度抱きしめた。


end
「……(き、キスしてもええんかな?怒るか?)」
「……(キスしてこないな。ウブだなぁ)」
「……き、」
「き?」
「き、ょうはええ日やなぁ~。」
「……(だめか)。」


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