豆子


お前を見ていると豆太郎を世話していた時のことを思い出す。
放っておけなくて、可愛くて、世話してやりたくて。今日はどうしているのか気に留めたりなんかしてさ。
俺の中にまだこんな感情が残ってるのかって、自分でも驚いたよ。
だからさ、お前を傷つける奴は許せないんだよなぁ。

「よぉ、豆子。」
「だ、だから、何で豆子なんですか?」
「いいだろ?可愛いじゃねぇか。」
「本名かすってもいませんけども?」
「細かいことはいいんだよ。ところで、もう仕事終わったのか?」
「はい!」
「なら一杯付き合えよ。どうせ明日休みだろ?」

手元に置いておきたいんだよ。お前のこと。
豆太郎みたいにだんだん俺に懐いてきて、呼べば飛んでくるようなお前に愛着が湧いた。世話すればするほど気を許してくれるお前は単純で世間知らずで純粋な女だ。
…おまけに猫アレルギーと来たもんだ。本当に豆太郎みたいな奴で、放っとけないんだよなぁ。

「豆子、最近お前の店に来てたあの連中なんだ?」
「店長が前の店で働いていた時の知り合いとか言ってました。でも、友達って感じがしなくて。」
「ふぅん。やばい連中かもな。シフトは昼間にしてとけよ。夜に仕掛けられたらお前みたいな顔のいい女は危ないぜ。」
「そうですよね。でも、今月のシフトはほぼ夜なんです。みんなも夜はあの連中が怖くて働きたくないみたいで。」
「いつシフト入ってんだ?」
「えっと、26.28.30ですね。」
「そうか。来月からは昼にしとけ。」
「はい。」

まぁ、大方目星はついてるんだけどよ。
闇金に手を出してた店長は自業自得だが、奴らが豆子を傷つけたらただじゃすまねぇ。そんな時は消えてもらうしかねぇよな。

ーー
「さ、佐川さん!」
「どうした?」

あれから三日後。豆子は俺に会った時、慌てていた。

「私がいない時なんですが、店長があの男たちにボコボコにされたみたいで!いや〜、私がいない夜でよかった。」
「ははっ、そりゃ良かったな。来月からは昼なんだろ?」
「はい!夜なんてもう働けません!」

あの連中には俺から話をつけといた。
店長はどうしてもいいけど、豆子には手を出したら殺してやる。と脅しをかけておいた。豆子の夜勤の日以外を狙うように伝えたこともあって、豆子に害はなかったみてぇだ。

「あんな店辞めちまえよ。お前のその愛嬌は他の店でも使えるだろ。あーだからってキャバクラはやめとけよ。」
「そうですね。…本屋さんにでも働こうかな。」
「地味でいいじゃねぇか。変な奴はよってこねぇだろ。俺も本屋なら顔出しやすいしな。」
「あのー、佐川さん。」
「ん?」
「佐川さんって何でこんなに仲良くしてくれるんですか?…だって、多分、佐川さんのおかげで私が狙われなかったんですよね?」
「ほぉ、案外鋭いじゃねぇか。そうだぜ。お前のこと傷つけられんのは許せなくてよ。連中をゆすっておいたんだよ。」

豆子はじっと俺を見ていた。そして、礼を言う。
当たり前だろ、と返して、俺の手は自然と豆子の頭を撫でた。ぐしゃっと。

お前を見てるとさ、やり直さねぇとって思うんだよな。あの時、猫の餌にされた豆太郎を救ってやれなかった。だからよ、豆子だけは守り抜きたいんだよ。まぁ、お前には理解できない話だろうけどさ、気に入ったもんを今度こそ失いたくねぇってこと。
ガキの俺はまだ頭が回らなかった。敵を知らなかった。だけど今の俺はどうしたら大事なもんを守れるか、誰を消せばいいのかをよくわかってる。

「安心しろよ。お前は俺が守ってやるからよ、豆子。」

豆子は頭を撫でられながらキョトンとした。その顔のままでいろよ、と笑ってタバコを吸う。
さて、餌の時間だな。

「で、今日は何喰いたいんだ?」


end


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