たばこ代わりの唇


司ちゃんがくると一気に部屋がタバコ臭くなる。家に置いた灰皿は半日もあれば置き場がないくらい吸い殻で埋め尽くされるほど、彼はヘビースモーカー。

「司ちゃん、肺に悪いと思うよ?」
「もう辞めらんねぇんだよ。これ。」

言ってる側からタバコ咥えて私に顔を寄せてきた。机上においてあった彼のライターをポケットにしまって隠すと彼の片眉が不機嫌そうに釣り上がる。

「おい返せよ。」
「だめ!今日はもうタバコ禁止!だってほら、もう2箱分くらい吸ってるんだよ?肺真っ黒だって。」
「何だよ。俺に早く死なれちゃ困るってか?」
「勿論。長生きして欲しいもの。」
「嬉しいもんだけどよ、タバコはそんな簡単に辞めれるもんじゃねぇの。こいつで最後にしてやるからまず付けてくれよ。なぁ、頼むって。」

うーん、と迷いながら一度だけ火をつける。司ちゃんは私の肩を抱きながら、満足したように狭い部屋の中でタバコを吐き出した。

「こんなうめぇもんをやめられるかっての。」
「あ!嘘ついたの!?」
「へへ。まぁ減らすように努力はしてやるよ。努力はな?」
「それ、辞めない気でしょ。」

司ちゃんは得意げに私に目線を投げかけた。私は彼の胸に額をついてこの奥にある真っ黒な肺を心配する。
…と言うのもあるし、なんだろうか…嫉妬しているのかもしれない。私と話してる間も、私が寝てる間にも、歩きながらも、食事後も、エッチした後も、隙間時間にタバコを吸う。タバコ大好きだし、吸ってる間の黙っている時の彼は何を思ってるんだろう?って気になる。

今だって、黙って天井を見つめてる。何か考えてるみたいで、手は私の肩を抱いているけれど、彼はどこかへ行ってる気がする。

「お前も吸う?」
「やだ。私はタバコ嫌い。」
「一度味わったら病みつきになるぞ?」
「それがいや。なんでそんなに司ちゃんのこと独占しちゃうんだろ?そんな、ちっさい棒がさっ。」
「はぁ?急に何言ってんのお前。」

私が怒ってるのを見て司ちゃんは目を丸くしたし、声がすごく驚いてる。それを無視して、彼の手と唇をチラチラと見て、それを独占する白い棒を睨んだ。

「こいつは私から司ちゃんを奪って肺まで黒くしてる…。」
「回りくどいな。つまり?」
「嫉妬してんの!」
「だよな!かわいい奴め!」

察した司ちゃんからガシガシと頭を撫でられた。私は彼を抱きしめて司ちゃんを見上げる。彼は嬉しいのかタバコを灰皿に置くと私を自分の上に乗せるように横たわった。

「じゃあ、この口寂しさをお前が埋めろよ。ああ、でもお前は嫌がるよな?俺とのキスは苦いって。」
「我慢してあげる。司ちゃんがタバコ辞められるようにいっぱいキスするね?」
「そりゃ楽しみだ。やられすぎて酸欠になりそうだ。お前のキスしつこいからなぁ。」
「むっ…しつこいかな?」
「ああ。一度キスするとなかなか離れないだろ?街の中だってのに平気でしたがるじゃねぇか。酔ってるときのお前なんて本当笑っちゃうくらい俺に、」

口封じのため彼の唇にキスをした。コツンと鼻先がぶつかる。佐川ちゃんはすぐに目を細めて私の背中を撫でる。そっと唇を離すと、

「なんだ?もう終わり?そんなんじゃタバコに浮気しちまうぞ?」
「ほんの始まりだよ?」
「ふぅうん?じゃあそろそろ本番に入ってくれよ。俺の肺が黒くならないように、頼んだよ?」

いきなり後頭部を手で押されて無理やりキスをさせられる。苦い、タバコの匂いが染み付いたキスだけど、嫌いじゃない。私は司ちゃんがタバコよりも私の唇を求めてくれるように精一杯キスをした。


end

あれから司ちゃんのタバコの数が減った。その代わりキスが増えた。タバコを取ろうと胸ポケに手を入れる代わりに私の手を引いてキスをする。

「ああ、ふやけそう…。」
「まだたりねぇな。ほら、口開けろ。こんなんでへばってんじゃねぇよ。」

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