世界を救うキス


この街にゾンビが出たので真島さんはゾンビ狩りを始めた。…いや、何言ってるのか自分でもわからないけど、ゾンビがいきなり出てきて真島さんは嬉々としてゾンビ狩りを始めた。…いや、言ってること同じか。
で、

ー ●!ゾンビを誘い出すために俺と街を歩いたってや!

なんて言う始末。

「……、え?」
「せやから、わしと恋人みたいに街歩いて残りのゾンビを誘い込むんや!」
「な、なんで恋人設定なんですか?」
「んな細かいことええからはよ答えんかい!…やるか、やらんのか!!」
「や、やりますうぅ!!だから、銃を下ろしてくださいぃ!」
「よっしゃ!!その意気や!!ええ女やで!」

訳の分からないまま引き受けてしまった囮作戦。
後から説明を聞くと、生存者を隠れさせたい大型デパートに少数のゾンビが残ってるのでそれらを誘き寄せて倒したいらしい。
なんで恋人設定なのか後で聞くと、嫉妬したゾンビたちが逆上して襲ってくるはず、それと戦いたいという真島さん独特のアイディアを聞かされた。
で、ほぼ納得していないもののとりあえず引き受けたものは受けなきゃいけない。私は銃を担いだ真島さんとしんと静まり返ったデパートを歩く。

「ゾンビ、出てきませんけど?」
「あー?おっかしいなぁ。…もしかして、わしらのラブラブ度が足りひんか?のぉ、もっと胸寄せるとか甘えてくるとかしてこんかい。」
「えーーー!!」
「なんやねん!その、えーー!は!ええか?ゾンビが嫉妬するほどいちゃつかんと意味あらへんのや!」
「ゾンビって嫉妬するんですか??」
「せや!!」
「せや!?」

この人と話してると訳分からなくなる。もう何でもいいわ!と真島さんの腕に抱きつく。

「おお。…ええ!それでええ!!乳、柔らかいノォ。」
「うう。」

とりあえず真島さんの恋人ということでデパートを歩くけど、ゾンビなんて出てこない。

「何やねん。何が足りないんや。…んー、のう、●。ここはもっとラブラブせんといかんらしい。今のわしらじゃ嫉妬もせん上辺だけの恋人になっとるんや。」
「ええ、そんなこといわれても。」
「せや、例えば、キスせんと。」
「は?!真島さんと!?」
「当たり前やろ、他に誰がおるんや。ゾンビとでもキスするんか?」
「しませんよ!ゾンビとするくらいなら真島さんとします!」
「それはそれで何やねん!」

ギャーギャー言った後に真島さんはいきなり黙ると私の唇を見る。

「歯、磨いてるやろ?」
「え?は、はぃ。え?」
「なら、ええな。…今から世界を救うキスを始めるで。」
「!??」

真島さんが私の方へ向き合い、一歩一歩と歩み寄ってくる、え?と狼狽えるのに真島さんは本気で私にキスをしようとしてる。壁に追い込まれて真島さんの片手に顎を掴まれる。真面目な顔の真島さんの顔が近づいてうっと目を閉じる。

ー ぶちゅ。

(あうあおうぉ…ー!ゾンビ出てこいゾンビ出てこい!!)

ー ぷちゅ。

(な、長いいぃ!角度変えるとかっ!)

ー ちゅ。

「もー!しつこい!!」
「アダっ!ええところで…っお!?おお!?ゾンビきたでぇ!よっしゃー!」

私は口元を押さえてよたよた床に倒れる。銃声が背後で聞こえたけれど、私は頭が疲れてた。ヒャヒャヒャ!と銃を乱射する真島さんは本当に狂ってた。

「終わったでえ!これでこのデパートに避難できる。●と俺のキスのおかげや!」
「は、はぁ…とりあえず、みんなの場所に戻りましょう。」

ヨタヨタと歩こうとすると、ぐいっと腕を引かれた。真面目な顔の真島さんが私を見つめてる。

「え、何ですか、真面目な目して。」
「お前とのキス、悪く無かったで。唇ぷにぷにで少し甘かったしな。戻る前にもう一度せんか?2人でゾンビを倒した記念にの。」
「や、や、や、やめて、いや!」
「その声そそるでええ…のぉ?」
「た、助けてえええ!!」

泣いても喚いても、ゾンビより怖い男のキスから逃れられない私であった。



end

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