呆れるほどの愛し方


「ぐ、ずるい」
「あん?何だよ何に妬いてんだよ。」
「あの、長髪の男の人がずるいですよ!司さんのこと独占してる!」
「え?真島ちゃんに焼いてんの?お前?おいおい、何言っちゃってんの。俺は野郎に興味はねぇし、これでもお前の男だろ。」

佐川がはねっかえりの真島に手を焼いている。彼の監視も含めて真島と共に行動することが増えたことを●は我慢していたが、ついに限界が来た。

「私にも構ってよううー!」
「あいよ。」
「あいよ、だけじゃなくてえぇ!」

佐川と言えば自分にベタ惚れな●が嫉妬することはよくあることで、いずれこうなることは予測していた。頭を撫でてやってもムズムズと何か言いたそうな顔を向けている●を可愛いと思う。

「でっかい犬みてぇだな。」
「え?」
「飼い主の帰りを待って、会えたら飛びついて尻尾を振り回す。まぁそれだけじゃ足りねぇ足りねぇって地団駄踏むところは犬じゃねぇけどな。」
「…だってぇ、2週間ぶりに会えたんだもん!馬鹿みたいに喜ぶよ?」
「毎日会っていた頃は俺が構わなくてもケロッとしながら隣を歩いていたっけ?少し放置したらいいのかもしれねぇな?いわゆる、放置プレイって奴だ。」
「え、やだ!辛くなって別れるかも。」
「お前は俺にベタ惚れだから別れることはねぇだろうな。」
「…その余裕むかつく。」
「あ?なんか言った?」

ううーーと唸ると、ほら、そこんところが犬だ。と笑われる。●としては自分は可愛い子猫で飼い主を翻弄したいのだけどそれは出来そうにない。●は彼に抱きついて離れず彼と過ごしていたが、もうグランドに行かないといけないと言われて泣く泣く彼から離れた。

ーー
「で、最後にあったのは?」
「9日前。」

私は彼と会えない時間が辛くて仕方なくなった。友達は恋人と毎日会えているといってしすごく羨ましい。

「なら、乗り換えたら?」
「え。」
「だって、仕事忙しい人なんでしょ?そうやってイライラしたり悲しくなるんなら他を探せばいいじゃない。●なら他にいい男できるって!」

友達と家で飲んでいたらすごいことを言われる。司さん以外の人?…考えたこともなかった。でも、本当にこのまま会えないのが当たり前になるとかなり辛いし、続く気がしない。

「それにさ、重い女って思われるよ。」
「え!?そうなの?お互い好きなのに毎日会いたがるとダメなの?」
「だって相手は仕事なんでしょ?仕事しなきゃいけないのに毎日会え会えって言われたら嫌になるって。」

タバコをスパスパ吸う彼女は経験者のような語りをする。私はまるでもう別れることが決定したような寂しい気持ちになった。でも、その日も彼から連絡はなく、自分だけがこんなに会いたがっているのも事実で、温度差からついに涙が出てしまった。

(…違う男、か。)

友達から言われたことを何となく気に留めるようになったのは四日後のこと。職場や行きつけの店で異性はいる。でも、特に気にならないし、それなら司さん!となるのだけども、鳴らない電話を待ってても仕方ない。

(このまま待つか、別れるかってこと?)

チラチラとそんな選択肢が過ぎっていく。…司さんは好きだけど、やっぱり幸せになりたい。悩まないで、楽しい日を過ごせる人を探した方がいいのかな?と今まで考えつかなかった考えが顔に出した時、家の電話が鳴る。出れば司さんだった。

「おう、元気か?飯いかねぇか?」
「は、はい!」

迷いが吹き飛ぶ。この声、この話し方、そう!彼!彼がいいの!と喜んでアパートを飛び出す私は乗り換えなんてできそうにない。

「司さぁん!」
「はは、元気だなぁ。」

駆け寄る私を見てまず笑う司さんは街中でも私を抱きとめた。私はぎゅー!と彼を抱きしめると彼は満足そうに笑う。

「会いたかったぁ!」
「俺もだよ。なぁ、浮気してねぇよな?」
「え?ぁ、はい。」
「え、なにその返事、お前まさか。」
「いやいや、してませんって!」
「ホントだよな?」
「え!?はい!」

いきなり凄まれてビビると彼は、ふぅん、と言って街へ向けた足を私のアパートに向ける。

「やっぱりお前の飯が食いたい。アパートいくぞ。」
「あー、はい。どうぞ?」

スタスタと歩く彼。
彼はアパートの玄関でまず足を止めて玄関を見る。男の靴でも探してるような仕草だ。

「おかしいなぁ。」
「何ですか?」
「タバコの匂い気づかねぇのか?俺はこのタバコは持ってねぇぞ。お前吸えないだろ?誰だよ。なぁ?」
「ああ、それは友達…女友達が来たので、すってたんです!」
「ふぅん。女、友達ねぇ。」

司さんは私の目を見てからゆっくり部屋に入る。あたりを見渡して、まるで探偵みたいに変わったところがないか調べてるみたい。床なんて見て、まるで髪の毛でも探してるみたいだった。

「あ、あのー。」
「お前は飯の準備だ。腹ペコでよ。」
「はーい。」

私は妙にドキドキしながらてきとうに料理を作る。彼は暫く部屋を観察していたけれど、やっとすわってタバコを吸った。そして、座ったまま私に話しかける。

「お前よ、本当に女友達なんだよな?」
「はい!園子って言います。大学の頃の友達で。」
「まぁ、本当に隠したいのなら匂い消すくらいはするよな。俺みたいに。」
「え、どういうことですか?」
「だっておかしいだろ。キャバレーに出入りしてる俺から香水の匂いがしないなんて。」
「え…?それって…。」
「おい、勘違いするなよ?俺はお前が悲しむと思ってここに来る前にスーツをクリーニングに出してるだけだ。店の女と飲んではいねぇから安心しな。俺はお前が大嫌いな眼帯の真島ちゃんとしか話してねぇよ。」
「…そ、そうですか。」
「ま、こんなことでしゅんとするお前なんかが俺から離れるわけねぇよな。」

ちらっと振り向くと彼はニヤッとした顔で私を見ていた。私の脳裏で乗り換えをしようか迷っていた自分を思い出してぎこちない笑みを浮かべると、彼の顔がまた曇る。曇るというか雷鳴が轟きそうな迫力になる。彼は直ぐに火をつけたばかりのタバコを灰皿に押し付けると立ち上がって私に向かってくる。

「お前さ、何隠してんだよ。」
「いや、隠してないです!ほんとに!」
「だってよ、今のお前妙だったぜ?もしかして、お前離れようとしてたの?」
「え…いや。…ぅ!?」
「何目ぇ反らしてんだよ。」

いきなり顎を掴まれた。怖いっと目を細めると、彼の手は顎から頬に手を移して私の頬を潰す。

「浮気はしてねぇとなると俺に愛想を尽かして他を当たろうとしてたってセンか?いやでもおかしいな。街で飛びついてきたお前はいつものお前だもんな?とくれば、誰かに唆されたか?」
「…にゃ、にゃんで、わかりゅの?」
「ほぉ。ソイツはどこの誰だ?ぶっ殺してやるよ。」
「まっへ…、わらしが、あへなふへ、さびしぃかりゃ、それならほはのおほほにしりょっへ!」
「何もわかんねぇぞ。」

手が離されてもう一度言うと司さんは目を細める。

「なら電話寄越せよ。」
「だって、忙しい人に会いたい会いたいっていうと重い女になってフラれるって…。」
「その、タバコ吸った女からか?」
「何でわかったの?」
「お前が恋愛相談を外でするような女に見えねぇからな。大方、この部屋に呼んで悩みや俺への愚痴を言ったんだろ。」
「…全部当たってます。」
「それはまず俺に言え。お前からの電話を無視するわけねぇじゃん。俺だって、」

司さんはいきなり言葉を切る。そして、私から目を逸らした。

「おれだって、なに?」
「俺だってあいてぇんだよ。ばかみてぇに俺のことが大好きな女にな。」
「!?」
「自分の女に会いたくねぇ男なんているか?いねぇよな?」
「つ…つ、司さぁん!」

私は怒られてるのを無視して抱きついた。ギュッと…司さんの首がしまっても構わず、抱きついた。離れなかった。
司さんは少ししてから私を抱きしめ返した。

「…司さんは、司さんがいい、浮気なんてしてないっ、ただ、このままだと寂しくて辛くて…会いたいって言って重いって言われるのもやだって、何も出来なくなって…離れた方が楽になる気もしたけど…司さんが良くて…!」
「離れられねぇってか?」
「うん!毎日会いたいよぅ!我慢して泣いてたのぉ!」
「だから、言えって。今度からな?わかった?」
「うん!うん!言う!」

嬉しくて泣いていたら、司さんはトントンと背中を叩いてくれた。私は彼の顔を抱きしめながら泣いていたら、胸の前にある彼の顔がもぞもぞ動く。

「ぅう…死んじゃうだろ…。」

息ができなかったらしく弱った声がする。そして、私から少し離れて抱き直した。そして、彼は小さく笑いながら口を開く。

「もうさ、お前、俺のアパートに住めよ。」
「え?…いいの!?」
「おう。毎日お前のはしゃいだ顔見るのも楽しそうじゃん。」
「うれしい!司さんと…一緒に…うふふ。」
「俺が起きたらまず喜ぶだろ?帰宅したら駆けつけるよな?寝ようとすると寂しがるんだろ?…目に浮かぶなぁ〜。」

私は嬉しくてピトッと身を寄せていると彼は頭を撫でてくれたけど、その顔から優しさが消えてだんだんまたあの凄みが出てくる。

「でもよ、唆されたことや隠していたことは許せねぇな。ケジメつけねぇとよ。」
「…え。」
「今夜その体で払えよ?」
「えっ…ぁ、そ、その…ケジメになるかな?」
「ん?ご褒美だと思ってんの?言っとくけど今夜はお前を泣かせるために抱くからよ。覚悟決めとけ。」
「そ、そうでも…私は…司さんから抱かれるのなら…。」
「ふっ。まぁ、そうやって可愛く期待しててもいいぜ?ただ、泣いて許してって言ってもやめねぇからな。」
「え!痛いの?」
「痛みよりも苦しい拷問はな、快楽なんだよ。気持ち良すぎて壊れるような感覚が朝まで続いたら、いくらお前でももたねぇさ。…つうわけで、飯食ったらホテル行くぞ。」

短いキスをされた。私は全然怖くなくて、むしろ早く愛されたくて直ぐに料理を作る。そして、食後の後は楽しみにしながら彼の腕に腕を絡ませてホテルに向かった。

でも、この時の私は本当に分かっていなかった。夜中には彼の言った通り泣いて泣いて泣き叫ぶ自分がいるとは思いもしなかった。


end


…もう、乗り換えなんて…絶対に、考えない。


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