幸せの早とちり


( …ん?なんや、気のせいか…●、ふっくらしてきとるな。)

真島がふと隣でテレビを見ている恋人を見つめた。●はスレンダーであり、顔もシャープだった。●自身、美容や体型は気を遣っている方であったが最近、なんとなくふっくら…とは、言い過ぎだが、人並みの肉がついてきたように思える。

(腹が出とるわけでもないが、前よりは肉がついてきたようや。)

チラッとさり気なく腹部に目を向ける。太っているわけじゃないが、今までの●よりは膨らみがあるような気がする。

(胸は…変わらんか。)

余計な期待はやめて、真島は考えた。

(何やろ?少し前まではもっと痩せてた気がするんやけどな。急に太ってきたんか?)

んー?と考えながら、ハッとした。

(も、もしかして!!…わ、わしとの子が宿ったんか!?)
「わっ、びっくりした、いきなり動いてどうしたの?」

ガタッと前のめりになった真島に驚いた●は目を丸くしてる。真島は、あ、あ、お、う、と音だけを微かに出すばかりで、次の言葉が出てこない。

(な、なんてゆうたらええんや?おめでたか?なんて言うてええんか?わしは、そら、もう、…天にも登る気持ちやで!!ほんでも、●としてはどうなんや?…また、いやや、言われたらもうほんまに立ち直れん。昔のトラウマやで…。)
「…どうしたの?」
「あ、や、つってもうてな!足がつって痛かったんや!」
「なんだ、びっくりした。すごい真剣な顔してるから、何だかとおもった。ははっ。」

(…う、聞くタイミング逃してしもた。…妊娠…なんやろうなぁ。この前、盛り上がってゴムしとらんかったもんなぁ。…もしかして、●は自分の妊娠に気付いとらんのか?そんなら、今いきなりそのこと話したらびっくりするやろうな。つわりとかくるのを待てばええんか?…●が気づく前に●に酒のませんようにせんとな。あ、せや、周りでタバコ吸わせんように社員にも言っとかな。)
「吾朗さん?」
(…、子どもかぁ。おう、間違いないで。●が意味もなく太るわけない。そう言う体質やねん。…主、喜んでくれるんやろか?いややないかの…わしとの子は。)
「ごろーさんってば!」
「おう!なんや!?」
「なんか、変だよ。具合でも悪いの?」

●にぼんやりしてることを指摘された真島はこれを逆手に取る。

「平気やで。●はどうなんや?最近風邪が流行っとるようやで。…体の様子、何や変な感じとかないか?」
「いや?全然、元気だよ。」
「そうか。ほな、よかったわ。」

ぽかーんとした●はソッとCMに目を向ける。そこにはマイホームのCMがあり、四人の家族が広い家でニコニコしながら談話していた。

「…、マイホームいいなぁ。私、ずっとアパート暮らしだったから。広い家に住んだことないや。」
「こうたるで。3階建てでも10階建てでも何でもええで。」
「あっはは!そんな広い家に二人なんて勿体無いよ〜っ。」
「ん?二人やないかもしれへんで?」
「え?」
「…、その、…腹ん中におるかもしれんやろ?」
「!」

●はびっくりして口元を手で押さえる。顔が赤らみ、もう!とはぐらかすが、真島はそれが喜びなのか拒絶なのかわからず不安になる。

「●…おるんやないか?」
「な、っえ、何言ってるの?いないよ。」
「やけど、この前ゴムつけてへんで。」
「いません。」
「何でそないにハッキリ言うんや?…わしとの子は、いらんか?」
「!?」
「なぁ、教えてくれや。わしは本気で聞いとるんや。」

真島はもう後には引かなかった。昔、誓い合った女に堕されたあの経験、もう二度としたくはない。●の答えを聞くのは怖く、もし嫌だと言われたらどんなふうに返せば良いのかとわからないまま、真剣に聞いていた。

「順番、どうなってるの…、婚約もしてないのに、子供の話なんてっ。」
「わしな、ピンっときたんや。その腹を見てな。」
「え?」
「そのふっくらした腹、もしかして●が気づかんうちにもうおるんやないかってな。…もしそうなら、わしはお前らを一生守るで。家族として、女として。」
「!?」
「…でも、その前にお前の気持ちを知らなあかん。せやろ?」

●は真っ赤になって真剣な顔の真島から目を逸らす。そして、ふふふっと笑いながら真島の肩を叩いた。

「おい、●、はぐらかすんやないで!」
「ふふ、ごめんなさい。でも、今生理きてるからいないよ。」
「は…?」
「多分生理でお腹が張ってるんだね。」
「………。生理きとったら、おらんのやな?」
「うん、いないから来るの。」

何やねん!とソファーに深く座り込んで●からそっぽを向く真島。飛んだ勘違いと早とちりに流石に合わせる顔もない。
そんな真島に●は寄り添った。

「男らしかったよ…惚れ直した。」
「さっきの話は本気やで。」
「…じゃあ、その、守ってください。」
「ええんか?」

驚いて振り向くと蕩けた顔の●がいる。

「勿論。吾朗さんがどんなパパになるのか楽しみ。」
「そらぁあもう愛妻家で過保護やろうなぁ。いや、でも躾もちゃんとせなあかん!甘やかしとったらまともな人間にならへんからの!●はわしらを優しく見守るええ嫁と母親になりそうやで!」

互いにどこか気恥ずかしく、暖かく、期待するように互いの目を見つめて静かにキスをした。

「はよ、生理終わらんかの。わし、今夜にでも作りたいで?」
「待っててね。来週まで。」
「おう。体あっためて過ごすんやで。…にしても、この前だいぶしたはずやったんけど、わしのはかわされたんか。来週からは沢山やらんとな。週に6はするかいな。一日5回は出すで!」
「身が持たないよ!…頭もおかしくなりそうっ。」
「孕んだらしばらくできへんやろし、産むときはごっつ痛いんやろうから今くらい気持ちよくならんと損やろ。任せとき、わし頑張るで〜。」


end



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