プリクラいくで


今日は片想いの真島さんと遊ぶ日だ。楽しみで少し早めに待ち合わせに行ったのに、すでに彼が待っていた。付き合ってはないけれど、今この瞬間の彼は私の相手だと思って笑顔で駆け寄った。

「お待たせしましたっ。」
「おう、来たな!ほな、遊び行くで!」

彼は何分前から待っててくれたんだろ?これでも10分前なんだけど。そう言うところがやさしい。

「どこ行きますか?」
「プリクラや。」
「…はぃ、…え?」
「せやから、プリクラや!」

聞き返してしまった。プリクラ?…意外すぎてリアクションに困る。私はこれから極道の人とプリクラを撮りに行くらしい。

「ぷ、プリクラ、あ、ああ、いいですねぇ!楽しいですよね!」

慌てて賛同すると彼はニッと笑って、せやろ?と両腕を組んで自慢気に話す。

「この前、初めてプリクラ撮ったんやけど、あれはなかなか男前に撮れるのぅ。ま、モデルがええんやろなぁ。」
「誰かと撮ったんですね…(女性かな)。」
「おう、組のもんと入ったで!中が狭くてギッチギチやったけど、主役のわしが映っとればええ。」

意気揚々と少し弾むように歩く真島さん。そんなに気に入ったの?と苦笑いしながら、彼と2人きりでプリクラを撮ることに緊張していた。
彼にその気はなくても、出てきたシールは絶対大事にしよう。

ーー
ひさびさのゲーセンは子供やカップルがチラチラいた。迷うことなくプリクラに直行する私たちを気にかけるものなんていないくらい、みんな各々のゲームにハマってる。

「せや、プリチョウ持っとるか?」
「ぷり?…何ですか?」
「プリクラ手帳や!プリクラのシールをそこらに投げといたらあかんやろ?シールを貼って取っとく専用の手帳をプリ帳言うんや。プリクラを極めるものには必須アイテムやから●ちゃんも買っとき。」
(私も極めなきゃいけないのか)

彼はポケットから小さな手帳を取り出してパラパラめくる。そこには記念すべき組のシールが…と思ったけど、まだ何も貼ってなかった。

「あれ?さっき組で撮ったっていってましたよね?」
「あれは練習やから貼らんかったわ。これが本番やで?ほな、入るで!」

髪を整えながら機械の中に入る真島さんは気合が入ってる。狭い撮影場所のせいで、真島さんがいつもより近くに感じてドキドキする。上手く笑えるかな?変な顔しないかな?撮ったものはずっと残るし、ちょっと不安だ!

「フレーム何するんや?三つ選べるからニつ選べや。」
「あ、(夜景と水族館とお化け屋敷とハートに囲まれたフレームか…流石にハートはまずいよね。恋人じゃないし)夜景とお化け屋敷がいいです。」
「わしはこれや。」
(ハートフレーム来ちゃった…!)
「ほな!行くで!」

息つく間も無くはじまる撮影カウントダウン。私は無難にピースしてとびきりの笑顔で笑う。真島さんは私に近づいて同じくピースしてくれた。
…ああ、真島さん、近い…。
少し目を細めて微かに笑う顔がとてもクールで素敵でドキッとした。
そんな彼の笑顔に見惚れている間に撮影が終わった。画面に現れた写真の2人はいつもより距離が近くて仲良しに見える。

「よっしゃ、次はお化け屋敷やな!●ちゃんの背後に化けてでたるでぇ。」

彼は楽しそうに身を縮めて私の後ろに重なるように立つと、微かに顔半分を覗かせて恨めしそうにカメラを見る。シャッターのタイミングで彼にいきなり肩をガッと掴まれたので、私が…ヒッ!?、と驚いたため、かなり出来のいい写真が撮れた。カッと目を大きくして顔が引き攣っていたから恥ずかしい!私の顔を見た真島さんは大笑いをしていたけど、すぐに次の撮影のカウントダウンが始まった。

次のフレームはハートだ。どんなポーズがいいのかな。ピースしかネタがない私は同じポーズしかとれないで困る。すると、

「こっち寄れや。ハートやで?」

いきなり真島さんに肩を抱き寄せられる。彼が少し身をかがめているから顔が近く、顔が真横にあった。これは、恥ずかしくて笑えない。照れた顔になってしまう。彼はといえば目を輝かせて犬歯を見せて笑っていた。そして、シャターと同時に頬をくっつけてきた。

「!?!」

ひんやりしたすべすべのお肌だった。肩を抱かれ、頬をくっつけられ、それを写真で収められるなんて。…プリクラは偉大な遊びだ。

「おもろいのぅ。」

低い声を出す彼の頬がゆっくり離れて、肩を抱き寄せていた手も離れる。ちらっと彼を見上げると彼も私を見ていた。まるで反応を伺うように。そして、何となく気恥ずかしくなってお互いが目を逸らしてシールの取り出し場所へ移動する。

彼はシールを取り出して眺めていた。私も覗き込んで、クスッと笑う。2人でピースしてる夜景、演技力抜群のお化け屋敷、最後の…私が完全に顔を赤くして固まってるハート。

「最高のシーンや。」
「そうですね。」

プリクラの機械に紐で繋がれている小さな鋏でシールを半分にしてもらい、私は手元の写真をじっと見る。
…かなり嬉しい。真島さんにとってノリかもしれないけど、私にしてみたら一番距離感が近い2人の思い出。絶対に無くさないように帰りにプリ帳を必ず買おう…。

「そんなに楽しかったんか?」
「はい!勿論。大事にしなきゃ。…すごく嬉しい。」
「3枚目は見るからにカップルやな。」
「…私は3枚目が一番好きです。」
「ほんなら、ほんまもんのカップルになるか?」

今なんて?と顔を上げると彼は真剣な顔で私の返事を待っていた。…これはノリではなく本気で聞いているらしい。私は嬉しくて小さく頷くと、彼はよっしゃ!と声を出す。

「のぉ、あつあつのわしらの証拠写真、今から撮らんか?」
「え、今から!?」
「おう。ほれ、入るで。」

私は手を取られてプリクラの撮影場所へ再び入る。彼が全てフレームを選択し、カウントダウンが始まるなり彼に顎を持ち上げられてキスをされた。

「んんっー!?」

いきなりのキス!?嬉しいけれど、これを撮られるなんて恥ずかしい!と慌てて胸板を押したのに彼はキスを続けるのでシャッターが切られる。
1回目の撮影が終わってもキスは止まらなくて、私の腰を抱きしめていく真島さん。これは、かなり恥ずかしいっ。でも、

「舌、出せや。わしらの初デート記念のキスはゴツくないとあかんやろ…おお、かわええ顔になっとるで。…口開けや。」

彼のあつあつのアプローチにもう何でも良くなり、3枚とも人に見せられない写真が撮れてしまった。


end

ー ええ顔しとるやないか。
ー ま、まじまさん!まじまじ見ないで!それ、人に見せないでくださいね!?
ー 見せるで?当たり前やろ!

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