初デートは難しい


(今日はデートっちゅうことやけど、何着たらいいのかわからん。っちゅーか、よく考えたら私服もっとらんわ。)

真島は麻雀で負けた時のポーズで生活感のない自分を責めた。わしのアホ、と責めつつ、仕方なく普段のスーツにジャケットを着て待ち合わせ場所に向かう。
そこには●が先に来ており、真島を見て笑っていた。

「普段と変わらないね!」
「お、おう。何着たらええのかわからんくて、いつものわしになったわ。待たせてすまんの。」
「てっきり私服がないのかと思ったよ。」
「…!?そ、そないなことないで!ほな、遊びに行こか。どこ行く?」
「前に言ってた映画見に行かない?」
「おう。いいで。」

慌てて話を変えて●と一緒に街へ向かう。その日は休日のため家族連れやカップルで道が混んでいた。そこに馴染んでいける心地よさにほんの少し優越感を覚える。

●とはバーで知り合ってからすっかり仲が良くなり、友達になり、つい先日恋人になった。真島からの告白を聞いた●は喜んだものの、まるでその日をまっていましたと言わんばかりに彼の思いに気付いていた。

ー 待たせてすまんかった。
ー 真島くんはいつもそう言うよね。
ー 気ぃつけるわ。

●の方が歳上のせいか、追いつけなさがある。気持ちに関しても見透かされていて、手のひらで転がされていることもよくあった。

(今日はそないなことせん。わしも男や。寧ろ恋人をときめかせたり、心惹くような男にならんと呆れられてまう!)

真島は気合を入れ直して●と話しながら映画館に向かった。

◆ ◆
当然のことながら映画館内は暗い。
映画の間に何度も隣の席の●を見つめては、肘置きに乗った手を見つめた。周りの席にほとんど人がいないから期待してしまう。

(こう言う暗いところでなんかあってもええやん…。恋人なんやし。手を繋ぐとか…それとも、まじめに映画見とらなあかんか?)
「ねぇ、真島くん。」
「ん?何や?」

●が身を寄せて声をかける。体を傾けて耳を寄せると彼女は笑いながら言う。

「今の人真島くんに似てる。目つきが。」
「ん?ほんま?自分じゃわからんけど、そうなん?」
「うん。鋭くて似てたの。」
「……。」
「…ん?」

近い距離に胸が高鳴る。さっきから狙っていたことだし、互いに触れてもいい距離感じゃないかと思って●を見ると●は瞬いた。

「真島くん?」
「……。」

真島が見つめ合って顔を寄せると●は彼のしたいことに気づいて目を細めた。…ちゅ、と軽くキスをすると、誰かが席を立ってこちらに振り向いたのでお互いぱっと離れる。その人はただトイレ退席しただけのようだが、ヒヤリとした。
真島は口元に手を添えながら、クールに映画を見つめていた。しかし、

(ぃよっしゃーー!!)

と、内心は叫んでいた。

◆ ◆

「おもろかったなぁ、映画。まさかどんでん返しが来るなんて分からんかったわ。」
「うん!噂通りの名作だったね。」

キスのことは気にせず、でも明らかに2人の距離は縮まっていた。●はお腹がすいたとのことで今度はカフェに向かう。

「食べて欲しい料理があるの。来てね。」

ニコニコと道案内をする●が可愛い。カフェ巡りが趣味の●のおすすめということなら間違いはないはず。大人しくついていく真島は彼女の手を見る。

(繋いでもええかな?黙って繋ぐと驚くか?でも許可取るのもおかしないか?コケると悪いからって理由つけて手を取ったら自然かのぉ?…うーん。でも、走っとらんのにコケへんか。)
「……?」
(あかん。考えすぎて分からんくなったわ。世の中のカップルはどうやって手繋ぐん?)
「…手、繋ぐ?」
「んぉ!?お、おう!繋ぐで!繋ぎまくりや!!」

悩んでいた自分が馬鹿みたいに●はさらっと手を差し出す。真島が優しくその手を繋ぐ。ドキドキして目に力が入った。

「ふふ、これは普通の手繋ぎだよ。私たちは…こうでいいよね?だめ?」

恋人繋ぎだ。絡み合って、より深く手が結ばれた。くすぐったくてたまらない真島は繋いでいない方の片手をキツく握った。

「いいで。…わしらはもう恋人やからな。…どんな繋ぎ方でもええよ。」
「嬉しい。でも、なんか恥ずかしいね。」
「せやけど……、せやな。」
「ふふっ。」

男らしく言い返せない真島は耳まで赤くしながらも、顔には力を入れて腑抜けた顔にならないようにする。肩を寄せながら歩く●と真島だが、まだ真島は気後れしていた。

「緊張してる?」
「そらするで。惚れた女と歩いとるんや。」
「かわいい。」
「ホンマはもっとこう、リードしたいんやけど。」
「このままでいいのに。」
「悔しいんや。男は頼れる存在でありたいんや。もっと、●がわしを信じて身を委ねられるような男になりたいんや。…このままじゃあかん。」
「素敵…、楽しみに待ってるね。」

ぎゅっと●は真島に抱きつく。甘えるようにスリッと身を寄せられた真島は困ったような目で●を見下ろした。

「(今からカフェに行くんやろ?ホテルになってまうで。)道端で甘えたらあかん。」
「何で?いや?」
「わしは男やから、我慢ならんくなるんや。」
「…わかった。我慢する。…もうしないよ。」
「そ、外ではあかんってだけやから!(ぁあぁーー、なんか勿体無いことした気がするで!)」

失敗した真島は頭をかきながら悔しさに耐えた。

(別に外で抱きつかれてもええやん、何ウブな反応しとるんわし…。)

その後、気を取り直して2人でカフェに行きご飯を食べた。こんなふうに2人で食事をして、一日の終わりを過ごせる立場になれたことを真島は心から喜んでいた。運ばれたチャーハンを食べながら、今度●の手作りチャーハンが欲しいなと思っていた。

「明日も仕事なん?」
「うん。朝早いの。」

店を出るともう9時。そろそろ●を帰さないといけない。寂しいものの明日も働く●を思えば当然とも思う。また手を繋いで、ゆっくり●の家に帰った。
帰り道、いくら人気がなくなっても彼女はさっきのように身を寄せることはなく、それについていまだにガッカリする。

(初日から失敗ばかりやったわ。)
「ここ、家なの。今日は送ってくれてありがとう。デートも楽しかったよ。」
「わしも楽しかったで。また電話するわ。」
「……。」
「……。」

背後にドアがある●を見つめて焦燥感と独占欲が膨らむ。青少年のデートがしたかったわけじゃない。本当はまだ帰したくない。まだええやん、もう少しくらい…、とわがままを通したい気持ちが抑えきれない。

(映画見てカフェ行って終わりなんて、物足りないのが本音や。せめて、もう一回キスを。)
「じゃあ、…おやすみなさ「●、ちょっと、目閉じてみ?」
「ん?……ンッ。」

真島は背中を丸めて待ったなしのキスをした。●は目を開けて驚くけど、嬉しそうに自分からもキスをする。ちゅ、ちゅ、と繰り返しているうちに歯止めが効かなくなる。
すっかりその気になった真島は●の肩をだき、本音を吐露する。

「まだ離れたくないんや。何時に寝たいん?」
「ぁ、えっと11時とかかな?」
「ほんなら、まだ一緒にいてもええ?」
「う、うん!いいよ!…私もいたいよ。」
「…なら、その、」

ちらっと片目を閉じされたドアに向けてから、●に目を戻す。

「上がっても…ええ?」
「散らかってるけども、いいの?」
「何でもええ。●とまだ居れるのなら、どこでもええよ。」
「じゃあ、おいで。」

●に手を引かれてドアの前に着く。家を前にして、あらぬ期待が炸裂する。部屋で過ごす間にキスしたり、それ以上のこともしてみたり、出来たら泊まって朝まで…と、限度のない願望が込み上げていた。

「鍵がないなぁ…?あれ〜。」
「…焦らさんといて。ほら、ここにあるで。カバンの内ポケット。」
「あ、ほんと。ごめん。」

真島はすっかり発情していた。
深いことをしたくて獲物を狙う蕩けた目を彼女に向けている。●はまだ気づいておらず、部屋に入り玄関を灯りをつけると、真島にその手を後ろから握られる。

「え、んっ…。」

首すじに伝う真島の唇のせいで甘い声が漏れた。さっきまでの外での真島は何処へやら。色気を出して甘え倒すように頸や肩にキスを落としてくる。

「ま、真島くん…っ、外じゃ甘えるなって言ってたけど…?」
「ここは中やろ?誰の目も気にせんでええ場所なら、ええんとちゃう?」

熱い息を吐きながらそっと●の上着に手をかける真島は笑っていた。さっきまでのクールなシャイボーイな真島くんはどこに?とギャップに笑う彼女にむかって、ニヤッと笑う彼はどこか吹っ切れていた。

「このデート中、ずっと触りたかったんや。映画館でも、道端でも…。でも、人の目があるしと思っての?…ここなら誰もおらんし、もう我慢できへんわ。」
「我慢した分、たくさんおいで。」

真島は●の片手で首裏を押されてキスを促された。まるで●も我慢し続けていたような強引さに真島は目を閉じて自分の上着を脱いだ。


end

2人はなだれ込むように廊下に倒れ込むと、楽しさから小さく笑った。

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