二度目の告白


ー 真島さんはどの子にも優しいし、扱いが平等なのが私にはちょっと。私は特別にされたいタイプなので…ごめんなさい。

先日の告白への返事がこだまして真島はガンッとお猪口をテーブルの上に置いた。

「はぁ……。」
「おい、お前さぁ、いくら俺が奢ってやるからって飲み過ぎだろ。ここから後は自腹にしろよ。女と飲むのと違ってお前と飲むために来たんだからそんなに持ち合わせねぇの。」

失恋から酒を飲み続ける真島に最初は面白そうに付き合っていた佐川だが、だんだん飽きてきて棒読みで言う。返事がない真島を横目に見てから、タバコを一本吸おうとしたが空になっていたことに気づく。タバコの切れ目が縁の切れ目。

「はー。後は勝手にやれよ。…大将、これ預けとくから。足りない分はこいつから取ってって。…おい、お前、人様に迷惑かけんなよ。」

テーブルの上に潰れる真島を見た佐川は、やれやれと見限って暖簾をくぐって去っていった。

「…うぅ。」

固い木のテーブルにのせた顔を真っ赤にして、目をきつく閉じている真島は心の中で泣いていた。ずっと惚れていた●というホステスにフラれてしまった。彼女を陰ながら応援して、さりげなく声をかけて、相談にも乗った。自分としては良い仲だと思っていたのに返事はあっさりNO。
それは1週間前のことだが、売り上げに響くほど彼のメンタルはやられていた。

(ああー、●ちゃん…わしは●ちゃんのこと好きやったのに…ホンマに惚れとったのに…めちゃ切ないわ。)

酒が回って現実と夢の区別もつかなくなる。
心の中で彼女の名前を呼び続けていたら、本当に彼女の声がしてパッと顔を上げる。すると、酔ったOLたちが通り過ぎていった声だった。彼女ではなかった。また、ばたっと顔を伏せる。
無口で肝の座ったおでん屋の大将は何も見えていないかのように、せっせと明日の仕込みを始めた。

「おーい。真島ちゃん。」
(…何であの時食い下がったんやろ。もっと気持ち伝えたらまだ望みあったんやないか?…)
「何だよ、無視かよ。それともホントに寝てんの?」
(でも、すぐに断りの返事きたんやし、粘ってもアカンかったか?…でも、まだ半分も気持ち伝えとらん。)
「起きろって!」
「だっ…!?」
「いってぇ…!」

ゴンっと後頭部を殴られ、あまりの痛さに目に火花が散る。おどれ!何や!?とガバッと起きて吠えたら目の前には佐川ではなく●がいた。

「えっ!?な、なんでここに!?」
「こうするしかねぇだろ。」
「さ、さがわ…。」

横から顔を出す佐川はいつもの癖で撃たれた右手で彼の頭を殴ったのか右手を左手で庇っていた。

「お前、ここはホテルじゃねぇんだ。そろそろどかねぇと大将に迷惑だろ。」
「…う。」
「悪いな●ちゃん。支配人様がここんところ、こんな感じで潰れちまって埒があかねぇんだ。」
「佐川、何で、●ちゃんを…?」
「連日会いたくて泣いてたのはどこの誰だよ。」
「な、泣いとらんわ!!」
「●ちゃん、悪いけどちょっとコイツのこと絞めてやってよ。…売り上げに響けば●ちゃんたちの給料にも響くんだから、そろそろしっかりしろよ。」

佐川は懐から金を出すと足りなかった分の金を大将に渡す。

真島はヨタヨタと起き上がるが足元がおぼつかない。そんな真島を支えたのは●だった。●の温もりを感じた真島は急におとなしくなり、ゆっくり歩いてベンチに座った。●も隣に座るので真島は上着を脱いで寒そうな彼女にかける。

「さっと怒鳴ってすまんかった。てっきり佐川かと思ったんや。すまん。…でも、こんな男は●ちゃんにもフラれて当たり前や。」
「いいえ。でもこんなに潰れてたなんて…いつもの真面目で手本みたいな支配人からは想像つかないです。」
「これが本当のわしや。あんなわしはハリボテや。幻滅したやろ。」
「しません。どんな人も完璧じゃないから。」

ニコッと笑う●を見て脈を速める真島。●は水を持ってくると立ち上がろうとしたので、真島がその手を取って引き寄せた。

「っわ!?」
「ここにおってほしい。」
「真島さん?」
「全然あかんのや。●ちゃんのこと諦めなあかんのに、もっともっと好きになっとる。ずっと考えて頭から離れん。でもこんな女々しい思いしててもあかんし…ってずっと振り切ろうとしとるんやけど、ホンマに出来んのや。」
「……。」
「特別なんや。他の女なんて見えへん。もっと●ちゃんのこと知りたくて、そばにおることを許されたい。…わし、どうしたら●ちゃんに気に入られるんや?何でも言ってや。努力する。」
「そんなに真剣に思ってくれてたんですか…。」

●は嬉しいらしく目を逸らして笑う。照れている彼女の手を取って、真島は身を乗り出す。2度目の告白はうまくいくんじゃないかと思って。

「とりあえずでええ。軽い気持ちでええからわしと付き合ってくれんか?」
「私は他の子よりも特別にされたいんですけども…その、そうしてくれますか?」
「当たり前や。●ちゃんのことはもうすでに特別や。仕事場では特別扱いできへんけど、仕事抜きの時は●ちゃんに尽くしまくりや。いや!仕事外の●ちゃんを独り占めしたいんや!」
「ふふ。なら、付き合って下さい。」
「ほんま!?ほんまか!?よっしゃーー!●ちゃん!大好きやで!」
「わ!?」

真島は大声を出しながら●に抱きつく。●は彼の体重に耐えながら、何とか倒れまいと必死だった。

「●ちゃん、…わしキ、」
「おいおい、待て。」
「さ、佐川っ、まだおったんか?」
「当たり前だろ。ここで止めねぇと●ちゃんのこと襲いそうだからな。ここはホテルじゃねぇんだからしっかりしろ。まるで発情犬だぞ。」

佐川に首根っこを掴まれた真島はグッと彼女から引き離されてベンチの外に放り出された。砂地に尻餅をついた真島は起き上がって詫びながら頭をかく。
●は驚いたものの真島に微笑んでおり、その笑顔を見た真島の頬はじわっと赤らんでいく。そんな顔を隠しもせずに彼は彼女にやや上目遣いで視線を向けた。

「へぇ、お前でもそんな顔するんだ。」

そんな真島を面白そうに見つめた佐川は新しく買ったタバコを口元に運んだ。まるで一仕事を終えたかのように気持ちよく煙を吹き出すと真島の肩をポンと叩いて去って行った。

end

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