蒼色の放課後
昼間はあれだけ人がたくさんいた教室はガランとしていて誰もいない、窓の方から入る少し傾いた日差しと部活動の威勢の良い掛け声だけが寂しさをさらに助長させているようだった。
私はというと日直の日誌を一人せっせと書いている。
本当は同じクラスのシノとやればすぐ終わる内容なのだが彼は部活動で忙しいらしく、学校近くのクレープ一回分を貸しに私が一人で引き受けたという訳だった。
「はぁー」
もう殆ど埋まった日誌の上にシャーペンを投げ出しながら大きな欠伸をする。
春から夏に変わる心地よい温度と窓から入るポカポカ陽気に帰るのめんどくさいなぁなんて考えながら机に肘をついて窓の外をぼんやり眺めた。
「あれ、ナマエまだいたの?」
ガラリと入り口を開けて入ってきたのは制服でなく剣道部の黒い胴着を着ている三日月君だった。
「うん、シノが部活行っちゃったから日誌の居残りー三日月君は忘れ物取りに来たの?」
「いや今日は早く終わったから着替え取りにきた」
ロッカーに入ったリュックを取り出しながら三日月君が私の机の方に来て半分くらい埋まってない日誌の見た。
「あとちょっとじゃん」
「んーそうなんだけどねぇ中々書くことなくてぇ、三日月君なんか今日楽しい事あった?」
問われた彼はちょっと考える様にしたあとに「特にない」と答えたから私は少し大袈裟に息を吐いて机に顔を伏せた。
「適当になんか書いときゃいいのに」
「んーー適当にって言われても」
「さっさと終わらして、俺駅前のたこ焼き食べたい」
三日月君がずいっとシャーペンを頬に当ててくる。
おいおい急に何を言い出すんだと思い顔を上げると体をこちらに向けて前の席の椅子に座った三日月君の顔が近くにあった。
彼とは普通のお友達だがこうして見てみると意外と整った顔をしていてなんだか気恥ずかしくなり熱くなった頬の熱を誤魔化す様に席を立ち大きく伸びをして腰に手を当てて三日月君の方を見た。
「じゃあ皆んな誘って行こうか、オルガ君達も部室にいるんでしょ?」
「俺今日はナマエと二人で行きたい」
「は?」
またもや飛び出した爆弾発言に素っ頓狂な声をあげた私を三日月君は対して気にする様子はなく、シャーペンを日誌に走らせた。
何書くの?なんて聞ける余裕は全くなくなった私は「えーと、二人で帰りに買い食いなんてデートみたいで恥ずかしいじゃん」と笑って誤魔化す様に言った。
「そうだけど、俺とデート嫌?」
「へ!?い、いや…えとその」
嫌とかの問題じゃないそもそも付き合ってもないのにデートなんて!いやいやそんな事より三日月君って私の事そういう風に見てたの!?いやそれは自意識過剰?なんて思考をグルグル回していると彼はいつの間にか適当に書き終えた日誌をパタリと閉じると立ち上がった。
「じゃあ俺着替えてくるから、ナマエ日誌出してきてよ」
「ちょ、待って!さっきのどう言う意味なのよ」
「意味って?」
そそくさとリュックを手に取った彼は不思議そうな顔をしている。
「デートって‥だって私達付き合ってないよ!?」
「付き合ってなくちゃ駄目なの?」
三日月くんはちょっぴり怠そうにジトーって私を見た後に「じゃあ付き合う?」なんてまたもや爆弾発言をしてきた。
「は、ちょ、ちょっと本当に待ってよ、だってそもそも三日月君って」
「‥はぁ、俺ナマエの事好きっていつも言ってるじゃん」
彼はやれやれと言った表情だが、私からしたらおいおいなんの事だよって感じで一瞬思考が停止したが、よくよく最近の出来事を思い出してみた。
一つ目の思い当たる記憶は、黒板を消していた時。
身長があまり高くない私は椅子を持って行って届かない箇所を消していたのだが、その様子をジーッと三日月君が見ているから「何?」って聞くと
「ナマエの小さい身長可愛いなって」
「気にしてるんですけどそれ」
「なんで?俺は好きだよ」
その時は馬鹿にされてるのかと思ったが三日月君も周りよりも身長が低いからそれより低い私といるとあまり目立たないからそんなこと言ってるのだろうと思って仕方ないからちょっと嫌味を返すだけで我慢してあげた。
二つ目は一週間前に風邪を引いて声がカスカスになってしまった時に隣の席のシノに揶揄われているとその様子を近くで頬杖つきながら見ていた三日月が一言。
「声ガサガサでもナマエの事俺は好きだよ」
彼なりに励ましのつもりの冗談だろうと思い私は「それはどうもー」なんて返した。
いや思い返してみれば対面にいるシノがやれやれといった顔をして三日月君に同情するような視線を送っていたような気もする。
ダメだ思い返してみるとなんだか色々それらしい記憶が蘇ってきた。
「で?どうする」
記憶の旅路に出ていた私は三日月君の声で現実へと引き戻された。
いつの間にか目の前に来ていた彼と視線が交差して私は気まずくなって逸らした。
「ぁ‥ぇと」
「ナマエは俺の事嫌い?」
「き、嫌いじゃないよ!」
大変失礼な話だが彼をそういった目線で見ていなかったし、女っ気のない彼がまさか自分に対して恋慕を頂いているだなんて考えもしなかった。
「じゃあ好きって事でいいんじゃない?」
いつの間にか日が沈んで外から聞こえていた元気な声も消えてシンッとした教室に私達だけがいる。
教室の扉のそばにいた筈の三日月君はいつのまにか私の目の前にいた。
「ねぇナマエ、俺ナマエの事好きだよ」
あぁなんて事でしょう、私はそれを拒むことが出来く、深淵の様な青い瞳が綺麗で目が離せない。
その告白に私はー