幸村現パロ中編1



それはある朝、通勤電車でのことだった。
程々に混んでいる車両が一瞬トンネルに入ると、車窓に反射した乗客の面々が映り込む。それをただなんとなく見ていると、いつものタイミングでガタンッと大きく揺れる。乗客も慣れているからか、さして体勢が崩れる人もなく朝の通勤時間がすぎていく。
ふと広告に目をやると、車窓越しに隣りの乗客が目に入る。今時珍しく文庫本を片手に、もう片手は吊革を掴んでいた。まだ顔つきは幼いが、精悍な顔立ちや自分よりも数10センチも身長が高くて立派だった。服装からも鑑みて大学生だろうか?いや、そんなことよりなんてイケメン……

ガタガタンッ

「わっ、!」

突如電車が大きく揺れた。いつもなら振動がないため、吊革に捕まっていながらも身体が傾いてしまった。更に隣の大学生に見とれていたからか、大きな振動音に驚いて声まで出してしまうなんて…。
体勢を崩した方向の、大学生とは反対隣りのサラリーマンに「すみません」と一言謝罪し、体勢を整える。そこでようやくトンネルの外に出たのだと気付き、慌ただしい朝だと自嘲した。
それから建物の影などで再び車窓の反射越しに読書する大学生を眺めていた。時々ページをめくる所作や手の骨格などから、どうも貫禄のようなものを感じて変に緊張してしまう。だけどそろそろ乗り換えだの駅に着く。すると名残惜しい感情が少しだけ、ほんの少しだけ募った。

雪崩のように人がホームへ出て行く瞬間、大学生の姿を直視で確認した。彼はどうやら降りないようだった。同じ吊り革に捕まり、文庫本を読んで到着駅まで過ごすのだろう。その姿を想像すると、胸が高鳴った。
変わり映えしない朝の通勤時間が、一人の男性でここまで変わるのか…。
人の流れに乗ってそのまま乗り換えホームへと向かう。その足取りは軽く、翌朝への希望を抱き表情も柔らかく。