ne vivam si abis.
もし君が去っていくなら、私は生きたくはない。
---
「私もジンについていく」
力強く言い放った私の決意を耳にして、キャシアンは眉間にしわを寄せる。
「それはダメだ」
「どうして?」
言下に否定する彼に対し私は気色ばむが、彼は「お前には、ついてくる理由がないからだ」とだけ述べ、私に背を向ける。
たしかに私はキャシアンたちと違ってまだ自らの手を汚したことがない。私は機械の操作に長けていたから、帝国軍の電波を傍受したり敵のデータベースをハックするのが主たる仕事で、戦闘に加わったことは一度もないのだ。
「待ってキャシアン!私、必ず役に立つよ!ハッキングとか、電波妨害とか……なんでもするから!」
去っていくキャシアンの背中に向かって私は叫ぶ。けれど彼は振り向かなかった。
「そんなの全部Kがやる。お前は大人しく作戦本部に座ってろ」
□□□
たしかに、K-2SOがいる場所に私は必要ないのだ。だってドロイドの彼がいればハッキングも船の操縦も帝国軍への潜入もすべてが容易になるから。
そうとわかっていても、なんとしてもキャシアンに同行したいと思っていた私は、彼が出航の準備に明け暮れている隙に船へ忍び込もうとした。出航まで誰にも見つからずに船内で潜んでいられれば、彼らと共に惑星スカリフへ旅立つことができる。
しかし、
「なぜここにいるんですか」
こっそり船に乗り込んだはずの私に向かって話しかける者がいた。その声は操縦席の方から聞こえた。声の主が私の存在に気づいていることは今の台詞からして明々白々だ。人間に気づかれなくても、ドロイドの目は誤魔化せない。
私は観念したように物陰から出た。そして操縦席の方へ目をやった。そこには案の定、出航のための準備をしながらチラリとこちらを横目で見るK-2SOの姿があった。
「キャシアンに、ついてくるなって言われたから」
私は素直に白状した。K-2SOは賢いから、キャシアンが私の同行を拒否したこともきっとお見通しに違いない。事実、K-2SOは何もかもわかったような口ぶりで「やっぱり、それが忍び込んだ理由ですか」と頷いた。
「私もあなたがついてくるのには反対です」
K-2SOは操縦席付近の機械を弄りながら話す。
「なんでKまでそんなこと言うの?」
「私はただみんなと一緒に……Kと一緒に戦いたいだけなのに」と消え入るように告げる。するとK-2SOはそんな私を一瞥し、冷たく答えた。
「なぜって、キャシアンがそう言っているからですよ」
K-2SOはキャシアンの親友だからちゃんと知っているのだ。キャシアンが私を「人殺しもしたことがない若造」と見なしていることも、「私のような若い女が軽々しく死地へ赴くべきではない」と考えていることも。
私はイライラを抑えられなくて吐き捨てるように不平をこぼす。
「キャシアンの話をしてるんじゃない。Kがどう思ってるかを私は聞いてるの」
するとK-2SOは私の攻撃的な態度に微塵も驚いたり戸惑ったりせず、相変わらず冷静に、自信に満ち溢れた態度で「もちろん私自身も、あなたについてきてほしくない」とはっきり述べてみせる。そして続けざまに、感情の読み取れない機械の顔面が淡々と言葉を発した。
「私がついてくるなと言ったら、あなたはちゃんと留守番できるんでしょう?」
「……」
私は黙り込んだ。実際、私はK-2SOから説得されると全く反論できないのだ。なぜなら私は彼のことが好きだから。
幼い頃からキャシアンとK-2SOだけが私の家族であり、友であり、仲間だった。だから本当は片時も彼らと離れたくない。もし彼らと永遠に引き裂かれるようなことになれば、おそらく私は生きていけないほどの孤独を知ることになるだろう。
けれど同時に、これほど深く愛している彼のことを困らせたくないという気持ちもあった。彼に呆れられたくないし、彼に「面倒くさいガキ」と思われたくない。
今までも何度かキャシアンに同行して戦場へ行こうと企んだことがあったが、その都度K-2SOは私に戦場の危険を諄諄と説いて聞かせ、留守番するよう命じた。
これが、私が今まで一度も戦場に出たことがない本当の理由だ。私はK-2SOとキャシアンの意思によって意図的に危険から遠ざけられてきたのである。
「わかった。留守番するよ」
私はいつもの通り、K-2SOに呆れられる前に大人しく頷いてみせた。
しかし、つい小さく、「でもKが隣にいてくれないと寂しい……」と呟いてしまって、慌てて口を噤む。こんな駄々をこねる子供のような台詞を吐いたところで、彼に嫌われるだけだと思ったから。
だけれども、K-2SOはまるでため息をつくように一瞬顔を伏せ、かと思えばすぐに顔を上げて、穏やかに、諭すような口調でこう言ったのだ。
「大丈夫、すぐに帰ってきます。だから待っていてください」
そのときのK-2SOの声を私は一生忘れないだろう。柔らかくて落ち着いた、ドロイドらしからぬ暖かな声。しかもその一言を言ったあとに、彼は私を抱きしめたのだ。あの細くて硬い真っ黒な腕で、私を潰してしまわぬように、ゆっくりと、静かに、言葉にできないほど優しい力で。
「うん……待ってる」
そう小さく答えた私をそっと抱きかかえて、彼は私を船から下ろした。そしてその数分後、船は私を乗せることなく颯爽と反乱軍の基地から飛び立って行った。
船が消えていった方角をぼんやり眺めながら、私は自身の肌に刻まれたK-2SOの抱擁の感触を思い返し、彼の無事を祈るようにそっと瞼を閉じる。
これが私とK-2SOを繋ぐ最後の思い出になるとも知らずに。
もし君が去っていくなら、私は生きたくはない。
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「私もジンについていく」
力強く言い放った私の決意を耳にして、キャシアンは眉間にしわを寄せる。
「それはダメだ」
「どうして?」
言下に否定する彼に対し私は気色ばむが、彼は「お前には、ついてくる理由がないからだ」とだけ述べ、私に背を向ける。
たしかに私はキャシアンたちと違ってまだ自らの手を汚したことがない。私は機械の操作に長けていたから、帝国軍の電波を傍受したり敵のデータベースをハックするのが主たる仕事で、戦闘に加わったことは一度もないのだ。
「待ってキャシアン!私、必ず役に立つよ!ハッキングとか、電波妨害とか……なんでもするから!」
去っていくキャシアンの背中に向かって私は叫ぶ。けれど彼は振り向かなかった。
「そんなの全部Kがやる。お前は大人しく作戦本部に座ってろ」
□□□
たしかに、K-2SOがいる場所に私は必要ないのだ。だってドロイドの彼がいればハッキングも船の操縦も帝国軍への潜入もすべてが容易になるから。
そうとわかっていても、なんとしてもキャシアンに同行したいと思っていた私は、彼が出航の準備に明け暮れている隙に船へ忍び込もうとした。出航まで誰にも見つからずに船内で潜んでいられれば、彼らと共に惑星スカリフへ旅立つことができる。
しかし、
「なぜここにいるんですか」
こっそり船に乗り込んだはずの私に向かって話しかける者がいた。その声は操縦席の方から聞こえた。声の主が私の存在に気づいていることは今の台詞からして明々白々だ。人間に気づかれなくても、ドロイドの目は誤魔化せない。
私は観念したように物陰から出た。そして操縦席の方へ目をやった。そこには案の定、出航のための準備をしながらチラリとこちらを横目で見るK-2SOの姿があった。
「キャシアンに、ついてくるなって言われたから」
私は素直に白状した。K-2SOは賢いから、キャシアンが私の同行を拒否したこともきっとお見通しに違いない。事実、K-2SOは何もかもわかったような口ぶりで「やっぱり、それが忍び込んだ理由ですか」と頷いた。
「私もあなたがついてくるのには反対です」
K-2SOは操縦席付近の機械を弄りながら話す。
「なんでKまでそんなこと言うの?」
「私はただみんなと一緒に……Kと一緒に戦いたいだけなのに」と消え入るように告げる。するとK-2SOはそんな私を一瞥し、冷たく答えた。
「なぜって、キャシアンがそう言っているからですよ」
K-2SOはキャシアンの親友だからちゃんと知っているのだ。キャシアンが私を「人殺しもしたことがない若造」と見なしていることも、「私のような若い女が軽々しく死地へ赴くべきではない」と考えていることも。
私はイライラを抑えられなくて吐き捨てるように不平をこぼす。
「キャシアンの話をしてるんじゃない。Kがどう思ってるかを私は聞いてるの」
するとK-2SOは私の攻撃的な態度に微塵も驚いたり戸惑ったりせず、相変わらず冷静に、自信に満ち溢れた態度で「もちろん私自身も、あなたについてきてほしくない」とはっきり述べてみせる。そして続けざまに、感情の読み取れない機械の顔面が淡々と言葉を発した。
「私がついてくるなと言ったら、あなたはちゃんと留守番できるんでしょう?」
「……」
私は黙り込んだ。実際、私はK-2SOから説得されると全く反論できないのだ。なぜなら私は彼のことが好きだから。
幼い頃からキャシアンとK-2SOだけが私の家族であり、友であり、仲間だった。だから本当は片時も彼らと離れたくない。もし彼らと永遠に引き裂かれるようなことになれば、おそらく私は生きていけないほどの孤独を知ることになるだろう。
けれど同時に、これほど深く愛している彼のことを困らせたくないという気持ちもあった。彼に呆れられたくないし、彼に「面倒くさいガキ」と思われたくない。
今までも何度かキャシアンに同行して戦場へ行こうと企んだことがあったが、その都度K-2SOは私に戦場の危険を諄諄と説いて聞かせ、留守番するよう命じた。
これが、私が今まで一度も戦場に出たことがない本当の理由だ。私はK-2SOとキャシアンの意思によって意図的に危険から遠ざけられてきたのである。
「わかった。留守番するよ」
私はいつもの通り、K-2SOに呆れられる前に大人しく頷いてみせた。
しかし、つい小さく、「でもKが隣にいてくれないと寂しい……」と呟いてしまって、慌てて口を噤む。こんな駄々をこねる子供のような台詞を吐いたところで、彼に嫌われるだけだと思ったから。
だけれども、K-2SOはまるでため息をつくように一瞬顔を伏せ、かと思えばすぐに顔を上げて、穏やかに、諭すような口調でこう言ったのだ。
「大丈夫、すぐに帰ってきます。だから待っていてください」
そのときのK-2SOの声を私は一生忘れないだろう。柔らかくて落ち着いた、ドロイドらしからぬ暖かな声。しかもその一言を言ったあとに、彼は私を抱きしめたのだ。あの細くて硬い真っ黒な腕で、私を潰してしまわぬように、ゆっくりと、静かに、言葉にできないほど優しい力で。
「うん……待ってる」
そう小さく答えた私をそっと抱きかかえて、彼は私を船から下ろした。そしてその数分後、船は私を乗せることなく颯爽と反乱軍の基地から飛び立って行った。
船が消えていった方角をぼんやり眺めながら、私は自身の肌に刻まれたK-2SOの抱擁の感触を思い返し、彼の無事を祈るようにそっと瞼を閉じる。
これが私とK-2SOを繋ぐ最後の思い出になるとも知らずに。