ジリジリと、太陽の熱が背中を焼いていく。新陳代謝が良すぎるせいで噴き出す汗が雫となり、次々に落ちていった。視界に広がる白の砂を持ち上げては、指の隙間から水のように流れていくのを見つめる。その繰り返し。こんな気が狂いそうな作業を始めて果たしてどのくらい時間が経ったのだろうか。おもむろに顔を上げ、この拷問にも似た任務を命じた本人を見つめる。彼女もまた、真剣に手から流れる砂を見ていた。
「おい、もう諦めろよ」
「もうちょっとだけだから」
「それ何十回目だ」
「まだ八回目」
「数えてんじゃねェ」
「ゾロが聞いてくる間隔が短いんだもん」
だもん、じゃねェ。回数の問題でもねェ。兎に角一刻も早くこの状況を脱したいだけなのだ。自ら手伝うと言っておいて非常に情けない話ではあるが、肉体派の俺にこの所業はただの暴力以外の何者でもない。それ以外のことなら喜んでやるから頼む、どうか「帰ろう」の一言を言ってくれやしないか。
「やっぱり昨日気付いた時すぐ戻って探せば良かったんだ…」
「変わんねぇだろ。大体あんなちっせぇもん、暗い中どうやって探すってんだよ」
「そんなの、方法はいくらでもあるじゃん」
ふくれっ面のまま、手を休めることはない。すっかり集中力も切れ、飽きてしまった俺は砂に両手をつき青すぎる空を見上げた。雲ひとつない爽快な空は、現在捜索中のピアスの石の色に似ている。下を向いても上を向いても結局この問題からは逃れられないと言われているようで、あまり気分が良くない。何をそんなに必死になることがあるのか。たかだかピアスひとつだ。両方失くしたわけでもない、片方あればそれで充分だろうに。
「なぁオイ、そろそろ帰るぞ」
「え、待って、まだ向こうの方探してない」
「俺ァもう充分待った。日も暮れるし、コックが夕飯には帰ってこいっつってたろ」
「あと少しでいいから…!」
懇願する目が揺らめいたのに、ぎょっとする。何も泣くこたぁねぇだろう。何度だって言うがたかだかピアス。高価な石がついているわけでもねぇ、この世にひとつしかないわけでも、もう二度と買えないわけでもねぇ。何気なく耳にあてていたのをみて、似合うなと言っただけで、俺が買ってやったやつでもねぇ、そんなピアス。
「あれ、名前ちゃん、そのピアス」
「ふふふ、いいでしょ」
「へぇ、素敵ね」
「ゾロが似合うって言うから…」
「えっ、もしかしてあんた買ってあげたの?!」
「なワケねぇだろ、こいつが自分で買ったんだよ」
「……そーだろーと思ったけどアンタほんとバカね」
そんな昨日の昼のやり取りは思い出すたびに居心地の悪い思いが俺を満たす。ナミやクソコックやその他が言うにはそういう場面では男が女に買ってやるらしいが、その時は持ち合わせがなかったし、そもそもこいつも似合うっつっただけで買うとも思わねェし。でも腹立たしいことにあいつらの言うことは一理どころか百理ある、と、思う。だからせめてもの償いとして俺はこの捜索に付き合ったのだ。しかし探し物はいつまでたっても出てきやしねぇし、帰るっつったらこいつは泣きそうになるしで一体どうすりゃいいんだ。
「オイ」
「……わかった、帰る」
「ちょっと、止まれ」
「なに?」
がくりと肩を落とし船の方へ歩き出すのに制止をかけた。海風に吹かれ、顔にまとわりつく髪をよけ耳にかける。昨日まで青色が光っていた耳たぶに、自分の左耳からとったピアスをひとつ、ぶらさげた。
「次買うまでそれつけとけ」
呆けた顔で口を半開きにしている姿がなんともマヌケだ。他の奴らに見つかればまた色々と言われるに違いないため、それを隠すように髪を戻した。いつもあるものがない左耳に違和感を感じるが、それも次に船が街にとまるまでの少しの間だけだ。
「おら、戻るぞ。遅いとクソコックがうるせぇから」
「…これあるならもう他いらない!」
「やらねーよ!新しいの買ってやるまでの代わりだっつーのに」
「えっ?!買ってくれるの?!優しい!!」
「あぁもう、うるせぇなおめぇは!」