プロローグ



 イヤホン越しから聞こえる、甲高いスリップの音。
 次の瞬間、体に強い衝撃が走って吹っ飛び、頭に鋭い痛みが走った。
 思考も浮かぶ暇がなく、むしろ思考さえできない衝撃で、意識が暗転。
 それが最期の記憶だった。


 目が覚めると、見覚えのない天井が見えた。
 いや、天井じゃない。寝台についた天蓋だ。
 不意に思い出す、耳に突き刺さる音と衝撃。
 轢かれたのか。車に。

 ……あれ? 車って、何……? 馬車じゃなくて……?

 混乱する頭を働かせようと手を頭に当てる。
 すると、自分の手が幼くなっていることに気付く。
 それだけではない。健康肌と呼ばれる小麦色の肌が、雪のように白い。

 何、これ? 私、どうしたの?

 私は日本生まれの日本人女性で、社会復帰の下地を積んでいた障害者。
 虚構だらけの家族愛だったのだと知った時の絶望。
 死にたくても死ねない、死への恐怖を捨てきれない自分への失望。
 心を壊して、物語に逃避するばかりの惰性的な日常への苦痛。
 生きること自体が地獄だった。だから来世は幸福な人生でありたいと願った。
 そんな無価値な人生を送って、それで――

「そう、だ……わたし……」

 私は死んだ。地球と呼ばれる惑星のある世界で。死んだ、はずなのに……。

 しかも、自分の体ではない、幼女の体になって……まさか。

「……! お、大奥様っ……! 誰か、大奥様を呼んでちょうだい……!」

 扉をノックする音とともに部屋に入ってきた女性。
 彼女を見れば、女性は息を呑んで部屋から出た。
 一瞬だけ見えた、クラシカルなメイド服のような黒い服と白いエプロンの衣装。


 嗚呼……やっぱり、私は――転生したのね。



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