夕飯の準備の為に厨に行ったら、既に先客が居た。
「俺が料理するなんて驚いたか?」
「おどろいた。すごく」
「なまえは最近疲れているみたいだからな。今日は俺に任せてゆっくりするといい!」
「えっ、ちょっと」
笑顔の鶴丸に肩を掴まれてくるりと反転させられて、そのままぐいぐいと厨から押し出されてしまった。
扉が閉まる前に「驚きを提供するから楽しみにしていてくれ」なんてやけに自信に満ちた声が聞こえたけど、正直悪い意味での驚きしか想像できない。驚きを求めて不必要にレシピに逆らうのではないだろうか、白い着物を汚さないだろうか、そもそも本当に料理ができるのか。心配のフルコースで既にお腹が一杯だ。
白米と漬け物と焼き魚と味噌汁。普通すぎて逆に驚いた。
「『でざあと』に『けえき』というものを作ってみたぜ」
真っ白なクリームに赤い苺。現世では味気なくてつまらないと思っていた色彩。
「鶴みたいだね!」
「だろう?俺もそう思ったからこれを作ったんだ」
「ほうら、俺を食べるといい」
*
鶴丸は料理に目覚めたらしくて、あれ以来度々厨に立つようになった。元々居る歌仙に加えて、最近顕現した燭台切も料理が大好きだから、三人をまとめて遠征にでも出さない限り私が料理をする隙は無い。楽だから別にいいけど。
皆の負担を減らす為に……なんて思っていた謙虚な私はもう居ない。今は与えられるものをただ貪る生活。なんたる堕落。でも厨も背の高い三人に合わせてリフォームしちゃったし、身長の足りない私が加わっても却って邪魔かもしれない。せめて運ぶのは手伝います……と思ったらその役目は長谷部率いる打刀部隊に奪われた。座布団を並べようとしたら短刀達に奪われた。テーブルは既に脇差によって拭かれている。
皆でいただきますをして、私はご自由にお取り下さい状態になっている数種類の漬物に視線を移した。私の隣を陣取っている鶴が軽く腰を浮かす。
「なまえ、漬物は要るかい?」
「うん。どれにしようかな……」
「俺のおすすめは梅干しだぜ」
鶴丸は私が返事をする前に梅干しの器を取って、ひょいひょいと自分と私の白米の上に乗せた。ただ座っているばかりか神様に漬物を取って貰うこの始末。なんかごめんなさい。
「あ、鶴カラー」
鶴丸はなんだかニヤニヤしながら私がご飯を食べるのを眺めている。
「今日は『しょおとけえき』も作ったぜ。後で部屋まで持っていく」
鶴丸はよくデザートを作ってくれるけど、一行にレパートリーが増えない。いつも苺のショートケーキ。そして私だけに作ってくれる。
「手料理を食べてもらうってのは、想像以上に気持ちの良いものだなぁ。ほれ、俺を食え」
「鶴丸がいつもこのケーキの事『俺』って言うから、ちょっと鶴丸に見えてきた気がする」
「うんうん、いい傾向だ」
*
そして一ヵ月が経ってすっかり胃袋を掴まれた私は、厚かましい事にリクエストまでするようになってしまった。寧ろ最近では三人の方から何が食べたいのか聞いてくる。お陰で自分で料理をしようという意思は完全消滅。そもそも人如きが神様×3に勝てるはずがなかった。和食を極めた歌仙、焼きそばからフォアグラまで幅広くこなす燭台切、二人に揉まれて驚きの急成長を果たした鶴丸。
鶴丸は色々試すのが大好きで創作料理をよく作るけど、何故かケーキだけはいつもの『俺』しか作らない。とはいえ『俺けえき』も初期に比べるとかなりレベルが上がった。生地は羽毛のようにふわふわ、クリームは絹のようななめらかさで塗り方も芸術的になっている。
「歌仙、歌仙の肉じゃが食べたい!」
「そうかい?なら、材料も有るし今夜作るよ」
「ありがとう!」
「燭台切のハンバーグも食べたい!」
「オーケー、明日の夕飯にしようか」
「俺も何か聞いてやろう」
「鶴丸が食べたい!」
「おっと、それは誘っているのか?」