いものうすぎりとあめじけん(4)
数時間後。
菓子を食べ終え部屋に戻った里美は異変に気づいた。
「…」
里美は風の婆裟羅が出せるようになってから、空気の動きや流れから人の気配・動きが分かるようになっていた。だからすぐ分かった。
(天井裏に忍がいる。多分見張りだな。…私がいらないこと言ったから)
しかし、忍のいる場所の天井を見ずに過ごし続けた。
どうせ、一生此処にいる訳では無いのだから。我慢できる。そう思っていた時期が私にもありました。
(いる…まだいる)
些細なことと言い聞かせ我慢していた里美だが、2日と保たなかった。
いじめに遭い他人との関わり合いを避けていた彼女は、与えられたものだが¨自分の部屋に他人の気配する¨ことにストレスを感じたのだ。
(辛い、嫌だ、お腹痛い…っ)
腹痛に吐き気。
何度も廁に行った。
それでも体調は改善されずに、とうとう里美は寝込んでしまう。
唯一の楽しみ、梵天丸との食事にも行けず余計ストレスが溜る。
里美は布団に潜り込んだまま、1日を過ごすようになってしまった。
「さとみ……今日も来なかった」
「体調が優れないとのことで、本日も床に臥せっておりました」
「そうか…」
「大丈夫かなぁ、さとみ」
「…」
「お見舞い、行ってもいいかなぁ?」
小十郎も梵天丸も気づいていた。
里美が部屋に篭もるようになったのは、自分の持っていた菓子を≪未来のお菓子≫と言ってから。
自分は、未来から来たと言ってからだと。
「私が聞いてまいりますか?」
不安そうにしていた梵天丸に、お茶を出したお悠が提案した。
「……俺が行こう」
「小十郎?」
「梵天丸様は、アイツと遊んでいてください」
「!今日だったのか?」
「はい。里美を連れて参りますので、紹介して差し上げたらどうでしょう」
「うん!そうする!」
「では、部屋でお待ちください」
「おう!」
先ほどより明るくなった梵天丸にお悠は安堵し、退出した。
そして梵天丸と小十郎はそれぞれ行動を始めるのだった。
そのころ、すっかり自分の固有結界と化している布団で、里美はうとうとしていた。
自分を監視していた忍の気配が、突然遠のいたのだ。
これは好機と気が緩み、睡魔が襲いかかって来る。
あと少しで眠れる。そう思って意識を手放そうとした時、廊下から誰かが歩いてくる。
(だれかくる…)
と、虚ろに考えているうちに誰かが部屋に入ってきた。あまりの眠たさに、名乗りを聞き逃した里美は焦った。
「…」
「…」
(お願いします喋ってください頼むから!あぁ緊張感に眠気が敗走していく…)
数秒が過ぎたころ、向こうが口を開いた。
「起きていらっしゃるのでしょう」
「!」
入ってきたのは小十郎だった。
気づいた里美は身体の力を抜く。
「里美殿の体調が優れないと聞き、梵天丸様が心配されている」
「……すみません」
「お前の心配ごとは…分からんでもないが。飯は食わねぇ、返事もしねぇ顔も見せねぇ…梵天丸様は、お前に嫌われたと思っている」
「何で!?」
「っ!」
小十郎の言葉に勢いよく布団を跳ね飛ばした里美はそのまま続ける。
「いきなり現れて死んだだの婆娑羅者だの未来から来ただのって!信じられないでしょ!怪しいでしょう!頭がイカレてるとしか思えないでしょう?!嫌われるなら私だ!分かるわけが無いんだ!!大事な人に拒絶されるんじゃないかって、でも嘘もつけなくて……そんな、梵天丸君を嫌う訳」
「梵天丸様は分かっているぞ」
「な…!?」
「だからお前が出てくるまで待ってる。ふぅ、やっと布団から出たな」
宥める様に話しかけてくる小十郎に唖然とする里美。
「え?…え?」
「梵天丸様を嫌ってないことは、俺も梵天丸様も知ってるってことだ」
「いや、じゃあさっきの」
「今のお前に一番効きそうな言葉を言った」
「…」
「それにしてもひどい顔だな。寝れていないのか?」
里美は無言で布団を被り直した。
「おい…悪かった。里美の本音が効きたくて」
「小十郎さんの馬鹿、ノンデリ」
「の、のんでり?」
数刻の間。拗ねて布団から出てこなかった里美に、掛け布団の上から機嫌を直そうとする小十郎の声が掛けられたのだった。
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