耳に当たる目に付く癪に障る(7)


里美と梵天丸が泣き終え嗚咽が治まったころには、高く昇っていた太陽は地平線と溶け合うところだった。

「落ち着いたようだな」
「すみません…(ティッシュで鼻かみたい)」
「いや、良い。年頃の娘らしいところが見れてほっとした」
「?」

里美は首を傾げるが、答えは求めてないようでそのまま輝宗様の話を聞いた。

「…先程の言葉、胸に沁みた。本当に大切なら立場など気にすることは無い。と、言うことか。ならば一人の父親として礼を言わせてくれ。…あらためて梵天を救ってくれて、ありがとう」
「はい」

笑顔で言葉を受け取り、頷けば、室内にいた者の表情も軟らかくなった。

「そういえば其方は別の場所から此処へ来たと言ったな。どこの国か?それとも村か?近くの村なら送り届けるが」
「あ」
「「「?」」」
「大丈夫です。自分で何とかします」
(和やかな雰囲気ですっかり忘れていた)

自分は未来から来た。戦国の世ここには居場所がないのだった。

(それでも構わない。未来からトリップしてきたなんて言えないし。気が触れているやら嘘をつくなとかまた間者か!とか…話が振り出しに戻る)

非常に面倒くさい。
若干小十郎に怒鳴られたことが堪えているようで。

「長々と居座り申し訳ありませんでした。暗くなってきたので大変勝手ながらこれにて失礼させていただきます」

出ていく気満々である。
自分の目的も終えたし、これからきっと輝宗様も小十郎も、もっと梵天丸くんを気にかけてくれるだろうからと。それに何よりまず里美は一人になりたかった。
久々に長い間個室で人と顔を見て会話したため、思っていた以上に疲れているようだ。
早く外に出て行きたいと急いていた。

(野宿でもかまわない…荷物を探さないといけないし一人の方が都合がいい)

「──待ってはくれないか?」
「なんでしょう?」

発せられた言葉は了承ではなかった。

「恩人を追い出そうと言葉をかけた訳ではないのだ。もし近くの村の民でなくても、他国の民でも…忍でも私は気にしない。梵天の恩人よ、もう外は暗い。暗い中女子を歩かせるわけにもいかぬし、どうだろう?もし都合が良ければ一晩だけでも泊まって行かれては?」
「!?」

優しくかけられた言葉に、絶句した。
紳士がいる。じゃなくて。

(いやいやいやいいですホント)

この時代で身分が下の者が、城主直々に『お泊まりどーよ?』なんて言われることは一生無い。あったらコワイ。この時代の民なら感慨無量なのかも知れないが、里美は違った。

(マジで結構です!緊張する!窒息する!というより怪しいでしょ!!)

「いや、あの…お心遣い大変嬉しいのですが……さ、探し物が…」
「探し物?」
「はい、大事な物なのですぐ探しに行かないと…だから」
「長居は、出来ないと?」
「はい。そうです」

カバンには教科書やら絵の道具がぎっしり詰まっている。どれも誰かに見られるとまずい。
そわそわと落ち着き無く座っていると、輝宗様が小十郎に、小十郎は障子の外に待機していた誰かに声をかけた。

「あれをここに」
「アレ?」

ほどなくして外から声が。そして障子は開きここで働いているであろう女中が何かを持ってきた。

「探し物とはこれのことであろうか?」
「あ!」

持ってきたのは里美の鞄。

「はいそうです!よかった…ありがとうございます」

安堵して渡されたカバンを眺めていると。

「これで其方の用事は済んだな」

ビシリ

子供がいた。いたずらに成功して喜んでいる子供が。
思わず固まり、城主を見つめる里美。

「ゆるりと過ごされよ、客人」
「泊まるのか!」

父が笑顔でいるため良いことが起こったと思った梵天丸が期待した目で父、小十郎、そして里美を見ている。

「あぁ。そうだろう?里美殿」
「ええー!?」
「一度死んだらしいが、こんな生き生きした屍も見たことも無えし輝宗様もこうおっしゃるのだから、いいだろう」
「ぇええー!?」

(おいなにそれ小十郎さん!?最後まで反対してくれると思っていたのにっ!)

一人焦っていると。

「さとみ…だめ?」

いつの間にか側に梵天丸が。

「よ、よろしく、お願いします」
「一日と言わず好きなだけ居ると良い」
「やった!一緒に寝ていいか?」
「え゛」

(すやすや…)
(枕が…高い……っ!)

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