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更新 没ネタ

2016/11/18 - 人生 0話

スコッチとの始まり。トリップ。幼児化したと気付いたときのパターン1

目を覚ますと、また赤ん坊に戻って生を受けていた。どういうことだ。さっぱりわからん。喃語を話して、元気よくハイハイして、本当に子供のようだった。何もかもが大きく見える。おそるおそる紅葉形の小さな手をグーパーグーパーと伸び縮みさせると、自分の意思で動いてるのだ、と確認した。

「名前!」

きゃっきゃっと男の子が私の名前を連呼する。覚えたての言葉を何度もなんども繰り返すように。 隣に住んでる幼馴染らしい。
えっ待って彼、スコッチでは・・・?面影があるような。死後の世界だからなんでもあり得る。
決め手は、米花町と東都だったけれど。本当に存在していた町に歓喜する。某探偵の世界だ。ここは!テンションだけは上がった。憧れの彼に会える可能性が出てきたと考えると勇気をもらったんだ。いつかは会える、と信じていたが、なかなか手がかりが見つからなかった。スコッチ(仮)と一緒にいれば会えるのかもしれない。原作通りなら。最初は余裕なんてなかったから、子供に対しても塩対応だった。

「名前!遊ぼう!」
「面倒だからパス」
「そんなこと言わずにさ!なあなあ見てくれよ!父さんが買ってくれたんだ!」

太陽みたい。不満に口を窄めて家で本を読んでのんびり過ごしていた私にとって。幼児に対して冷たい対応だったのは正直悪かった。でも、私も日々の生活にめげていたんだ。幼稚園疲れる。みんなエネルギッシュすぎだよ。

「なぁに?」
「俺の相棒は車からロボットに変形するんだ!その名も戦闘車ガジェット!かっこいいだろ!?」
「かっこいいね」

だろだろ!と笑顔で迫ってくる。ブーン!と彼は動かしてみせた。#名前#はそれ、車じゃなかったっけという突っ込みをすると、こいつは空も飛べるんだよ!ほら羽もある!と得意げにロボットの説明をされた。こんな私と一緒にいるのに子供はなんと真っすぐなことだろうか。

「将来、困ってる人を助けたい!みんなが笑ってるといいなあ」と小さいころから彼は正義感に溢れていた。「じゃあ、おまわりさんにでもなれば」と 適当にぼやいた。幼稚園、小学校は奇妙な縁だったがずっとクラスは一緒だった。いつの間にか身長も追い越されていた。彼は誰かが喧嘩を始めると、彼は両者の言い分を聞いた上で仲裁に入るのも、よくあったし、学級委員にもなった。その度に私も巻き込まれる。

「俺、学級委員一緒にやるなら#名前#がいい!」
「はぁ!?やだよ!そんな面倒なことしたくない!」
「先生!名前がやりたいって!」
「違うわ!ボケ!」

私と彼を見て先生が困ったように、口を開いた。

「コラ!名前ちゃんを無理やりにやらせてはダメだよ」
「えぇえ、だって、こいつって大人っぽいし、きちんと熟すから俺が推薦しまーす!」

スコッチがそう言うと、教室からいいね!っていう声が方々から聞こえた。

「名前ちゃんなら安心して任せられるね!」と誰かが言った。

小学生のずる賢さを知る。君ら、放課後の委員会会議出たくないだけだろ。遊ぶ時間減るものね!

「先生。私、やります」

口を真一文字にして、#名前#は頷いた。心底不服ですっていう表情だったが

「そうこないとな!やっぱ一番の相棒はお前だから!」

まあ、いいかと絆されているのも事実で。誰かに頼りにされるのが嬉しかった。








高校からは外部受験をして地元から離れ、彼とも距離を取った。それからも彼とは文通だけは続く。

「え?お前、地元の高校じゃないのかよ」
この時だけだ。スコッチが怖い顔したのは。いつもの陽だまりのような温かさが急に雪山のような寒さになったのは。
「内緒にしててごめん。もっと上を挑戦してみたかったの」
「ったく!俺も知ってたらなぁ。あっお前が寂しくならないようにガジェットでもあげようか」
「いらない」
「即答すんなよな。幼児期の俺の大切な相棒だぜー?」
「手紙書いて。それだけでいいから」
「手紙?お前、まさか引っ越すのか?」

うん、と名前が頷くとスコッチは急に顔を歪め、今にも泣きそうだった。お父さんの転勤の都合もあったから、ごめんね、と名前は罪悪感を抱いた。出会いもあれば別れもある。情が移ったのだろうか。心がぽっかり空いた気がした。スコッチと別れてからは死に物狂いの日々が始まった。はじめて、"ひとり"になった。スコッチが一緒にいないという事実はひどく胸に突き刺さる。もういい大人なのに。知らないうちに励まされていたんだ。そう素直に手紙に書くと、心配されるから、寂しいという感情は一切漂わせなかった。

ある時期にもう手紙は出せないと告げられると、名前はとうとう始まったか、と目を閉じた。
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