ホップ視点
よく眠っているナマエを背負いながら、ホップはナマエの家の鍵を開ける。彼女が一人暮らしをしていた頃から数えると、送っていくなんてもう何度目にもなるから彼女がどこのポケットに鍵を入れているのかなんて、手に取るように分かる。
まぁ、彼女も「酔っ払ったらここのポケットに鍵あるからよろしく!」なんて言っていたのだが。
ガチャッ
ナマエを起こさないようにドアを開けながら玄関に入ると、ナマエの匂いとは違う、どことなく【人の家】の臭いがして、顔をしかめた。
何度来てもそうだけど、この家の空気、オレは嫌いだぞ…
どことなく、悪い気が流れているような暗い家はまるでゲンガーの巣のようだ。
いや、ゲンガーの巣だった方がまだマシだぞ。ゲンガーだったらオレのポケモンたちで追い出せるのに…
ナマエの言っていた通り、ダメ男と浮気相手は本当にホテルに行ったようだ。
むしろ居てくれた方がオレとしてはナマエを帰さなくて済むから良かったんだけどな。
音を立てないよう階段を上がりながら、自分の背中にある驚くほど軽い重みに切なさを感じる。この温かな体温も、背中越しに感じる心拍数も、全部この家に返さなくてはいけない。外を歩いていた時から分かってはいたけど、本当なら返したくないぞ…
ナマエの部屋を開ければ、自分の耳元から香っていた匂いが胸いっぱいに広がった。淀みきった家の中、唯一彼女の部屋だけが澄んでいて、ようやく呼吸が出来るようだ。
ナマエをそっとベッドに下ろし、全く目が覚める気配のない身体からコートと手袋だけを脱がせ、柔らかな布団をかける。
「人の気も知らずにぐっすりかよ…」
苦笑いを浮かべたホップはナマエの頭を2,3度撫でた。
「おやすみだぞ、ナマエ。明日は良い日になるといいな」
そう言い残し、外にでる。
さっきと変わらない月明かりに照らされ、自宅に帰る。気温だってさっきと変わらないはずなのに、軽くなった背中がやけに寒く感じた。
ナマエ視点
翌朝ー
ナマエが目を覚ましたときには、日が高く昇っていた。う〜んとと身体を捩れば、シーツのこすれる音と、布団とアルコールの香りがした。
そっか、昨日ホップと飲みに行って…
途中からの記憶がない。
取りあえず身体を起こしてみると、見慣れた自分の部屋だった。いつものパターンで考えると、ホップが送り届けてくれたのだろう。
そういえば、うろ覚えの記憶の中で、心地良い足音に揺られながら、ホップのぬくもりをお腹で感じていたような気がする。
ホップに連絡しとかなきゃ。
『ロトム』
「はーいロト」
スマホに入ったロトムは卓上型充電器の上に乗り、電力を蓄えていたのか、とてもご機嫌のようだ。
「ナマエ、メールが2件入ってるロ。順番に見るロト?」
『うん、お願いできる?』
1件はホップだろうが、もう一件は誰?
まず一件目はやはりホップだった。
【昨日飲むの止めたのに、見境なく飲んで…二日酔いに気をつけるんだぞ】
送っていってくれたのはホップで、手間をかけたはずなのに気遣ってくれる彼は本当に優しい。少し胸が温かくなって、ふふっと笑みを溢しつつ、もう一件のメールをみてから返信しようと指をスライドさせた。
『……』
スマホロトムに表示されたメールをみて、先ほど温まった心が急激に冷えていくのが分かった。
『はぁ〜……』
盛大についたため息と共に、朝からなんて嫌なメールなのだろうと項垂れる。
暫く目を閉じたあと、ナマエは一気に立ち上がった。
『とりあえず、シャワー浴びて着替えよう』
いくら幼なじみとはいえ、さすがに着替えさせてはくれていない。むしろ、着替えまで出来たら、いろんな意味でマズイのだが…
送ってくれたりはするが、やましい気持ちで付き合ってこないホップに感謝しつつ、ナマエはスマホをベッドの上に置いてお風呂場へと向かった。
【ナマエ〜、昨日あのあと家帰ったのか?俺達ちゃんと家から出て行ったろ?
そんな怒んなよ。お詫びに次の休みに、お前が行きたいっていってたテーマパーク連れてってやるから機嫌直せよ。日にちは…】
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