「こーくんがどこにいてもみやが見つけてあげるね」
そう言って記憶の中で笑う、今よりもっと幼い頃の幼馴染。
あの頃って、確か身長は俺より少し大きいくらいで。震える俺をぎゅっと抱きしめた後、いつもの笑顔でそう言い放ったのだ。そんな言葉が、幼馴染への……都への恋心というものを自覚した瞬間だった。
小さ過ぎて朧気な記憶ではあるけれど、確か幼稚園の友達を含む数人でかくれんぼをしていた時のことだ。隠れる側だった俺は棚か何かの中に隠れこんでしまい、内から自分で開けることも出来ず、幼いながらに出られないと気付いた時には恥ずかしい話にはなるけど(出られずにここで死んじゃうんだ)と思った記憶がある。
そう思い込んでからはブルブルと震える手足。何とかして大きな声を出すなり、音を出せば気付いて貰えただろうに、引き攣った喉と震える手からは小さな嗚咽くらいしか溢れなかった。
そんな時だったのだ。射し込んだしばらくぶりの眩しい光に「いた!」なんて、とても聞き慣れた声。何故だかやけに安心して、それどころか彼女の笑顔のお陰でさっきまでの怖さなんてなくなってしまったのを覚えている。
差し出された手を必死に掴めばぐい、と俺を引っ張り出して震える俺を抱き締め……なんて、冒頭に戻る訳だが。
少なくとも、当時から特別な幼馴染ではあった。ずっと一緒にいる、もうひとりの姉のような、自分の片割れのような。だけど、明確に恋心へと変わったと言うのならばこの時だろう。
……なんて、なんでこんなことを急に思い出したかというと、今現在、その頃と同じ状況にあるからで。
オジイの寺で、六角予備軍とのかくれんぼ。どうしてあの時の俺は大丈夫だろうと思ってしまったのか、押し入れの上の段。客用にと仕舞われた布団を少し寄せ、陰に隠れ戸を閉める。誰にも見られていないし、完璧な隠れ場所だと思ってしまった。
自分の苦手を忘れている訳ではなかったけど、もう克服しただろう……なんて軽い気持ちと根拠の無い自信で隠れた結果が、これ。外から予備軍たちの声がした時、早く見つけてくれないかと願った。なんなら出ていけば良かったものの。
幼い頃と違って、今は『一生出られない』なんてことはないってわかっている。だけど、既に震える手足では上手く出ることは出来そうになかった。
さっき思い出した幼少時の記憶は走馬灯だろうか。……俺、あの時とあんまり変わってないな。
自嘲気味にそう笑ったちょうどその時、「えー、じゃあこことか」そう聞こえたかと思えばスパンと開いた襖に、あの時と同じように射し込む光に目を細める。
「サエ、なんでこんなとこに隠れてんの?」
「……バレないと思って」
「とりあえず出なよ」
少し呆れたような顔をした都。そんな彼女を見たら――都の声がした瞬間、あの時と同じように心の底から安堵した。さっきまではダサいくらい震えていたのに、手足の震えはすっかり止まっていて。
布団を寄せ直し差し出された手を握り、あの時と同じように外の世界へと出る。何となく、あの時と同じように都に抱きついてみれば「離せ…!」なんてじたばたと暴れられてしまった。
「ねえ、サエさん。…大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」
「大丈夫、なら…!離せ……!」
都を解放し鬼役だった子に笑いかけると、安心したように「みんなに見つけたって言ってくる!」なんて走ってどこかへ行ってしまった。それを見送ったあと、はあ…なんて大きく溜息をついた都に向き直れば、小さく首を傾げた彼女は不思議そうに口を開く。
「なんで苦手なのにこんなとこ隠れてたの」
「なんか、克服した気がしたから……」
「お、愚かすぎる。もう少し隠れ場所考えなよ」
「でも、都が見つけてくれるんだろ?」
そう言ってあの時とは違い、俺より小さな都の顔を覗き込む。不思議そうな顔をしたかと思えば、すぐに懐かしそうに目を細め笑う。どうやら彼女も思い出してくれたらしい。
「懐かしいね、サエのことは私が見つけるんだっけ」
「そう。どこにいても……ね?それで、本当に見つけてくれた」
「でも、またこんなことになるとか思ってなかったよ」
隠れていた時、もちろん恐怖はあったけれど。不思議と一生出れない……なんて思うことは無かった。そりゃ、オジイの家の中で行方不明となれば大勢での大捜索になり、こんな押し入れの中なんてすぐに見つかるだろう。だけど、そうではなくて。心のどこか隅で都なら、なんて思っていたからかもしれない。
「それはそれとして、もうかくれんぼ自体やめたら?」
「それはそうだと思う」
「見つける方の身にもなってよね」
そんな事を言っても、きっと都は俺を見つけてくれるだろう。なんてたって、都はあの頃から面倒見良いから。ご機嫌に笑えば「反省してる?」なんてチクチクとした言葉と共に肘で突っつかれて。
また、都のことを更に好きになってしまった。留まる所を知らないのだけど、どれだけ都は俺の事を好きにさせるつもりなんだろうか。
こうやって何度でも、どこまでも惚れ直してしまう。
「こーくんがどこにいてもみやが見つけてあげるね」記憶の隅でまたそんな声がする。
そんな、俺の長い片想いが始まった話だ。
────────
心地の良い昼下がり、ご飯を食べたあと各々がおじいの手伝いやら予備軍と遊んだり、はたまた勉強を見ていたり。
そんな中、私は縁側で座布団を枕に寝こけていたのだけど。
「ねえねえ、都ちゃん。起きて」
「……ン、な…どした……?」
「あのね、サエさんが見つからないの」
「んぇえ……?」
寝惚けた回らない頭で、「サエが見つからない」なんて言葉を何度か噛み砕いて、漸くぱちぱちと目を開ける。
「見つからないって?」
「かくれんぼしてたら、サエさんだけ見つからないんだ」
「かくれんぼ……」
そこまで言われてようやく合点がいった。見つからないって、かくれんぼしててか。
どうせサエは狭い所なんて隠れないだろうし、「あそこは?」なんて幾つか隠れ場所を聞いてみたものの、答えは「いなかったよ」だ。
「えぇ、どこ隠れたんだろうね」
さて仕方ない、可愛い予備軍の頼みなら探してあげることも吝かでは無い。
私ならどこに隠れるだろうか、ふんふんと少しだけ考えて、重い腰を上げ思い付いた所に向かって足を進める。
予備軍もまだ知らない、小学生の頃に定番だった場所を回ってみても、サエは見つからず。あとは、確か。誰かが前に隠れていたけど……あのサエが。そんなまさか、とは思いつつもとある客室の扉を開ける。綺麗に保たれた部屋の襖は綺麗にしまっていて。
「えー、じゃあこことか」
不安そうな顔をした予備軍の頭を撫でながら少しおちゃらけながらスパン、と襖を開ける。
ちらりと覗き込めば見覚えのある茶髪に思わず溜息。
「サエ、なんでこんなとこに隠れてんの?」
「……バレないと思って」
「とりあえず出なよ」
手を差し出し引っ張り出してやれば、さっきまでぎゅうと手を握りこんでいたのか、少し汗ばんでいる。
繋いだ手を離そうとした瞬間、ぐいとかるく引っ張られ気付けばサエの腕の中。
「ねえ、サエさん。…大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね、心配かけて」
「大丈夫、なら…!離せ……!」
じたばたと暴れ、抗議をすればすぐに離してくれたものの、手は離さずじまいで。
「みんなに見つけたって言ってくる!」なんて走ってどこかへ行ってしまった鬼役を見送ったあと、はあ…なんてまた溜息をつきながら口を開く。
「なんで苦手なのにこんなとこ隠れてたの」
「なんか、克服した気がしたから……」
「お、愚かすぎる。もう少し隠れ場所考えなよ」
「でも、都が見つけてくれるんだろ?」
信じてた、という眼差しに何故私にこんな信頼を……と考えてみたところ、ああそうだ。前もこんなことがあった気がする。
あの時も、「虎次郎くんが見つからない」なんてことをお友達から聞いて、サエのことを探したんだった。何故だか、あの時はあそこにいる!なんて妙な確信があって。そしたら本当にいたんだっけな。
「懐かしいね、サエのことは私が見つけるんだっけ」
「そう。どこにいても…ね?それで、本当に見つけてくれた」
「でも、またこんなことになるとか思ってなかったよ」
懐かしくなって思わず目を細める。そうだ、あの時も確か居なくなったサエを探して出して、「どこにいても見つけてあげる」なんて約束をした気がする。
それにしても、よくそんなことを覚えてるな。
「それはそれとして、もうかくれんぼ自体やめたら?」
「それはそうだと思う」
「見つける方の身にもなってよね」
なんてチクチク嫌味のように言ってみても、ご機嫌に笑っているサエ。まあ、かと言って。きっとまた「サエが居なくなった」なんて言われれば探してあげるんだろう。
なんだか少しムカついたから、思わず「反省してる?」なんて肘で突っついたのだった。