「そこはx=2、か?」
「違いまーす、3でーす」
「……そこはx=1だ」

帰宅すると机の上に広げられた教科書やノートに埋もれている兄妹達に呆れ、正しい解答を伝えると、2人とも信じられないといった目で見てきた。

…信じられんのはこっちの方だ、そこは中学生レベルの問題だぞ。


「おかえり千秋」
「うむ」
「ずいぶん遅かったな」
「モキチの家でご飯食べてたからな」


2人とも目の下に大きなクマを作って明日のテスト勉強をしているようだが、先ほどのやり取りを見る限り勉強の成果は出てなさそうだ。
妹の透子は「翼を授ける」と書いてあるエナジードリンクを飲んだ。すでに空になっている缶が机の上に数個転がっている。

「おい透子、あんまり飲み過ぎるとよくねーぞソレ」
「だって寝れないもん今日。寝たら終わりよ、まだ範囲こんなに残ってんだから」
「言わねーでくれ、気持ちが折れるだろ…」

そう言って百春も緑の爪痕が描いてあるドリンクを飲みほした。これも空き缶が3、4個机の上に転がっている。

「百春もそれ飲みすぎたら死ぬぞ」
「うるせえ千秋、こっちは赤点ギリギリなんだよ。勉強しなくてもいい点取れるテメーとは違うんだ」
「や、百春と一緒にされたくないんだけど。わたしの方がマシだから」
「変わんねーだろ!」

俺と百春は双子、そして透子は1つ下の妹。
俺達の妹が入学すると決まってからギャルじゃないかとかヤンキーじゃないかとか噂が回っていたが、透子を見た連中は全員驚いてた。
あまりにも俺達に似てなさすぎて、だ。

「テスト終わりに課題も出さないといけないし、ほんと無理〜」

そう言って透子は細い脚を組み直す。
兄の贔屓目無しでも可愛いと思う妹はとにかく俺にも百春にも似てなさすぎて、養子だとか攫った子だとか色々言われたこともあった。
でも透子が俺達の妹だと言い張れる点がひとつだけある。


「数学ほんと滅びろ」
「お前、頭のデキだけは俺に似ちまったもんな」
「うるせーよ百春、バカのくせに」
「おい、口悪いぞ透子。女の子なら…」
「うるせーよ千秋、デブアフロ」

この口の悪さだ。
透子は黙っていれば可愛いのだろうけど、この口の悪さと俺達の妹というレッテルのせいで近寄る男がいなかった。

「はあ〜勉強教えてくれる優しくてかっこいいお兄ちゃんが欲しい」
「俺がいるじゃないか」
「千秋は頭いいけど勉強全然教えられないしかっこよくないじゃん、百春はバカだし」
「ほっとけ」

透子は大きくため息をついた後、思い出したように手を叩いた。

「あ、明日の朝イチ茂吉くんに教えてもらお。ちょっと早く来てもらって」
「なっ……モキチ!?お前ら付き合ってんのか?」
「認めんぞ!お兄ちゃんは認めん!あんなひょろひょろの弱そうな奴!」
「付き合ってないし、同じクラスなだけだし。でも茂吉くん頭いいし勉強教えるの上手いし優しいよ。バスケしてる時かっこいいし」
「俺らだってバスケしてる時はかっこいいだろ!」
「百春シュート入んないじゃん」
「透子ちゃんや、俺が本気だしたらモキチより成績いいんだよ」
「ちゃんとか付けるな千秋。キモいから」
「キモい……」
「おお、千秋が試合終わりのボクサーみたいになってるぞ…」
「茂吉くんにラインしよー」
「お前らラインも交換してんのかよ」

こんな口が悪い妹だけど俺達にとっては可愛い妹なのだ。
邪魔しなければ…間違えた、妹を守らなければならない。
どこぞの馬の骨にやるくらいなら。


「透子の彼氏になりたいなら俺達より強くないとダメだ」
「それじゃ一生、わたし彼氏できないよ」








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