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41話まで公開している時点で最終回だよ!と大嘘ぶっこいたものです
本編とは全く異なる最終回ですがイフとしてお楽しみ下さい




ナマエが女性として変化してからしばらく、突然一人の生徒の性別が変わるなどという異常事態にようやくと他生徒達が慣れかけてきた頃、転機は突然に訪れた。


ナマエが浴びた薬の中身が、実は変化薬の効果がほとんどなく、主に老け薬でしか無かったことが発覚してしまったのだ。放課後の地下教室を使用して原因を探っていた為、その場に居合わせた教師陣だけでなく近くを通りかかっていた生徒にもナマエの性別がバレてしまい、この大事は巡り巡ってその夜には全校生徒に知れ渡ることとなってしまった。

本当は女であるのに男と偽り、三年間男子寮で過ごしてしまったことは教師陣、特にダンブルドアにきつく咎められ、ほぼ強制的に女子寮に移動させられることになる。そうすれば、全校生徒にバレてしまうのは必然だ。ナマエを避けていたリドルはこの件を知るのが遅れ、この時ばかりは流石に焦り急いで自室に帰ったときには、もう部屋の移動が終わってしまった後だった。


「っ、……ナマエ」


空っぽになった、一人部屋。
彼女がいたという形跡の一つも残らぬその部屋は、リドルに並々ならぬ喪失感を与えた。何故、どうして。いつバレた。どうして。

「アブラクサス…!」

常より荒っぽい調子で談話室へと駆け上がり、中心に見えたプラチナブロンドへと切り裂くような声で名を叫ぶ。本性の時と似通った鋭い声音に、談話室であるにも関わらず一瞬びくりと肩を揺らし、アブラクサスは慌てて振り返った。


「リドル!ちょうど良かった、ナマエの話を聞いたかい?」
「嗚呼、聞いた。……彼女はどこへ?」
「……女子寮へ。嗚呼でもまさか、驚いたよ。彼……いや、彼女が女性だったなんて、今年一番の驚きだ」
「そう、……いや、今はそれはいい。どうしてバレたんだ?僕はあの薬が実は老け薬だったとしか聞いていないんだが」
「嗚呼、それで大抵合っているよ。分析した結果、効果は老け薬のものしか残っていなかったらしい……つまりあの姿は、ナマエの未来の姿なんだとか」
「……、あれが、ナマエの」


女性らしい、そして見目だけ見れば、愛らしいと呼んでも差支えのない容貌だった。今までの男性的な空気と相反するあの姿がナマエの未来だなんて、リドルには到底信じられない。

「……リドル、君は、……同室だったよね」
「……それが、何か?」

リドルは、アブラクサスの真意を分かっていながら、わざととぼけた。そうすれば、賢い彼はリドルの意図を察したのか、何か言いたげな表情でぐっと黙り込む。嗚呼、分かってるさ。ナマエの性別を、知っていたかどうか、それを聞きたいんだろう。けれど敢えて黙ったまま、アブラクサスから離れて出口へと身体を向ける。自然と人波が割れて出来上がる通り道を当然のように闊歩しながら、談話室を後にした。




今のホグワーツは、ナマエに対する不満不平で満ち溢れている。

性別を偽っていたことに加え、同性だから許されていたリドルへの接触が大きな顰蹙を買った所為もあるだろう。今までナマエにゴマをすっていた取り巻きも手のひらを返し始める連中が多いのだから相当だ。ただ、それでも一部の純血貴族は――――と言っても、オリオンやアルファード、そしてヴァルブルガやルクレツィアといった極少数ではあるが、数名はいまだ彼女を援護している様子もある。

アブラクサスやシグナスといった、関わりはあったが余り濃密でなかった面々は、未だ困惑から抜け切れていないようだった。けれど、決して悪意に転じたわけではない。



ナマエは、女子寮に移ってから一度も部屋から出てこない様子だった。
女性である分、男性陣より順応の早かったヴァルブルガやルクレツィアが心配して幾度か部屋を叩いたらしいが、一度も返事が返ってきていないと言う。
気持ちが分からない訳ではないから、とルクレツィアが辛そうに笑った。

同じ名家の女性である以上、一人きりの後継者で、それしか方法がないのだとしたら。そう望まれたのだとしたら。きっと、自分も性を偽ると思う。それが自分の存在意義だから、良い悪いの問題じゃあないのだ。でもそれは、家名を背負う責任を知る人間特有の感覚で、それを一般人に理解しろと言うのは到底無理な話だった。


「ねぇ、リドル。貴方なら、分かるでしょう?あの子、仕方なかったのよ。騙そうなんてきっと思っていなかった。騙すとか、騙さないとか、そういう次元じゃないの。男の子だった、ナマエは……男の子として、生きていたのよ。身体が女でも、心が女でも……ナマエはちゃんと、男で、後継者だった。でもこれでバレたら、跡継ぎからは降ろされてしまうかも……」

深夜の談話室で悲しそうに語るルクレツィアに、リドルは黙って俯く。そうして、一度視線を女子寮の方に向け、彼女の手を掴んで弱弱しく笑った。
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