01

26話まで公開している時点で最終回だよ!と大嘘ぶっこいたものです
本編とは全く異なる最終回ですがイフとしてお楽しみ下さい





 例えばあの夜、彼が何故外に出たのか、とか。
 例えばあの夜、どうしてナマエを庇ったのか、とか。
 問い詰めたいことはたくさんある。でも、ただ食い下がっただけでは、彼が口を割るとは思えない。だからナマエは、詰問する為の材料を携えてこの部屋にやってきた。


「……まず、そうね、結論から言うわ。契約違反よ、彼にはバラさないと言ったのに、貴方はバラした。間接的にね」
「その点については、金曜にも言っただろう。僕は言って無い、彼が僕から聞いたと言ったのかい?」
「いいえ、噂を聞いたと言ったわ」
「それが何?僕が噂をバラまいた、って?」
「違うわ、……貴方はそんなことをしない、だって大多数にバレたら面倒なのは、貴方も同じだものね」
「なら、やっぱり彼は噂に踊らされて……」

「でも、アラン一人になら、バレたって問題は無いし、彼にだけ聞かせることは可能よね」


 リドルは一瞬、口を噤んだ。ナマエはソファから立ち上がって、彼の座るベッドへと向かう。ぎ、と、僅かに軋んだその音にも構わず、感情の読めない無表情で自分を見つめている彼の方へと寄った。

「彼の聞いた噂は、"私が先週の金曜日に、リドルとあの教室でヤってた"ってものだったわ。可笑しいわよね、あの教室、使ったのは二回目よ。一回目は半年前、先週は空を見てただけ。ただの蔓延する噂話で、ピンポイントに使った教室が噛み合うなんて偶然、早々無いわ。噂話をしていたのはスリザリンの男子だった、貴方が命令するのは都合がいい。――――わざとでしょう、ねぇ、リドル。貴方、わざと、アランを呼んだ。見せたかったんでしょう、あの行為を。……貴方の目的は、アランね?」


 痛いほどの沈黙が、長々と二人を包む。しばらく、互いの腹を探るように視線同士が絡まったが、その内、諦めたように、リドルが長い溜息を吐いた。
「……君は、本当に……、…賢い」
「ふふ……と、いうことは。図星、かしら?」
「いつ気付いた?」
「そうね、確信を得たのはアランから噂の内容を聞いた時だけれど……本当のことを言うと、もっと前に訝しんではいたの」
「嗚呼、金曜日の夜か。確かにあの日も、君は賢かった」


 リドルは薄っすらと笑んで、ベッドに膝をつくナマエへと片手を伸ばす。ぐ、と胸元のシャツを掴む力は今までのどの行為よりも強かった。
「……嗚呼そうだよ、態と教えた。そしてあの日、あそこへ来るように仕向けた」
「……どうして?どうしてそんなことしたの?貴方、バラすつもりは無いって、ずっと」
 ナマエの言葉を聞いて、リドルはゆるりと双眸を歪める。あ、と思うが早いか、真黒の黒曜石の奥がじわじわと仄暗い赤に染まって、まるでテーブルクロスにワインを零したように赤が浸透していく。真っ暗な深海の眸から、揺蕩う血潮へ。深く、深く、嗚呼致命傷だ、と漠然と思った。その赤は、傷に例えれば、致命傷の色だった。くつりと喉を鳴らして掴んだシャツを乱暴に引き寄せる。唇が触れ合いそうな距離の中、場違いなまでにその眸の赤だけが美しかった。


「……お前が、いつまで経っても僕を見ないから」
 迷子の子供のようなかぼそい声が静寂を断ち割る。
「もう良いやって、そう思ったんだ」
 ほとんど夢見心地で、ナマエは彼の言葉を聞く。リドルの声には、現実味がまるでなかった。夢の中では往々にしてそうであるように、逃げようなんて思考さえ何処かへと行ってしまっていた。彫刻みたいな繊細さを持つ真白い手のひらが、同じくらい白い杖を握って、声も出さずに空中を掻く。一人でに開いた引き出しの中から、魔法薬の瓶が音も無くこちらへと浮かび寄ってきた。そうっと小瓶の蓋を外して、彼がそれを口に含む。ナマエの好きなものの匂いがふわりと漂って鼻腔を犯した。

「ん、……っ!?」

 香りに意識を取られたその一瞬に、掴んでいたシャツを引き寄せられそのまま唇を塞がれる。とろとろとした不思議な感覚が咥内へと入り込み、衝動的に飲み込んでしまったそれを噎せ込みながら吐き出そうと試みるが、一度食道へと入り込んでしまったそれは容易く取り出せるようなものでもなく解放されたのを良い事にシーツへと身を伏せて大きく肩を揺らした。
「っ、げほ……、あ、なた…今何を飲ませ……!」
「ねぇナマエ、僕を見て」
「は……?貴方何を、言って……」
「僕のこと、どう思う?」
「どうって、それは……それ、は――――」
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