酒饅頭奇譚
「ちびさぎ隊長ーっ♪」
『ん?…ああ、乱菊さん』
定例会を終えて隊舎に向かっていれば乱菊さんに声を掛けられた。スキップでもしそうな程に彼女は上機嫌。何か良い事でもあったのか?
「はい、これお裾分けです!」
『……これは…?』
笑顔の乱菊さんに小さな包みを渡された
「酒饅頭よ!私が五十年熟成させた梅酒が入ってるの!」
『ほう……ありがとうございます』
乱菊さんがこんなに上機嫌って事はきっと相当美味しいんだろう。他の隊長にも配って来るからと走り出した乱菊さんを見送る。今度お返しに美味しい酒でもプレゼントしよう
『…何か騒がしいな……』
書類整理の手を止めて外を見る。微かに争っている様な音が聞こえる。この霊圧は多分狛村隊長。卍解でもしてるのか?
『……そう言えば…』
丁度良いから休憩しようと思い立ち、引き出しを開ける。取り出すのは小さな包み。乱菊さんに酒饅頭を貰ってたんだった
ぱくりと一口かじる。うん、美味しい。二口で食べ終わり包みを片付ける。さてもうひと頑張り――そう思った瞬間猛烈な目眩
『あ…れ……?』
ぐるぐるする視界の中、意識が遠退くのを感じた
「儂の姿が着ぐるみだと!?背中にチャックなど付いておらぬわこの無礼者ー!!!」
「狛村隊長お気を確かに!」
そう呼び掛けるが狛村隊長が止まりそうな様子はねぇ。誰だ隊長に着ぐるみとか言った奴。隊長ブチ切れてんじゃねぇか
つか卍解までするって何考えてんだこの人。酔ってんのか?
「檜佐木!」
「日番谷隊長!」
黒縄天譴明王の腕を躱せば名を呼ばれた。阿散井を引き連れた日番谷隊長が此方に寄って来る。
「状況は?」
「それが俺にもさっぱり…」
日番谷隊長の問いに首を傾げる事しか出来ねぇ。俺だって駆け付けたばっかだし
「仕方ねぇ…力ずくで止めるぞ!」
何とか狛村隊長を止める。まぁ三人掛かりなのは仕方ねぇ、状況が状況な訳だし。正気に戻った狛村隊長は原因を思い出そうとすれば頭を抱えた。頭痛で原因は思い出せねぇらしく、今自分が暴れていた事についての記憶もない。酒でも飲んだんじゃねぇかと思うが京楽隊長じゃあるまいし、この人はそんな事しねぇ
「檜佐木、狛村を救護詰所に連れて行ってやれ」
「はい。行きましょう狛村隊長」
「済まぬな檜佐木」
日番谷隊長に言われ狛村隊長を救護詰所に連れて行く
途中涅隊長らしき霊圧が開放された。あの人も卍解しやがったのか
直ぐにそれも日番谷隊長らしき霊圧が止めに入り収まる。そしてまた違う場所で噴き上がる霊圧。場所は九番隊舎の方角…ってちょっと待て
「……マジかよ…」
救護詰所から慌てて飛び出す。この霊圧はもしかしなくてもうちのちびっこ隊長じゃねぇか。お前まで御乱心かよ
「……っくそ…!」
『――飛梅』
飛んで躱せば火炎弾が追ってくる。凍らせれば背後から真っ白な鎌。向かって来たそれに翼を刈られる
「桜花!目を覚ませ!」
『煩い!お前等なんか皆敵だ!』
憎しみを込めた目で桜花が再び飛梅をけしかけた。恐らくはこいつも饅頭の所為で朽木隊長や砕蜂隊長の様に過去を見ている。正気に戻させようにも俺とあいつじゃ分が悪過ぎる。凍らせてもあいつが他の斬魄刀の能力を使って溶かしちまうから意味がねぇ。背後を見れば千本桜に囲まれた阿散井。どうしようもねぇな
「阿散井、保護者呼んで来い!」
「檜佐木さんっすか!?」
「ああ!」
桜花の事は檜佐木に任せれば大概は安心だ。この状態も檜佐木が居れば何とかなる気がする。そう思った俺に向かって来た火炎弾
「――呼びました?」
火炎弾は掻き消され、目の前には奴の保護者が立っていた
「派手に暴れてんじゃねぇの、隊長」
彼方此方凍り付いてるわ燃えてるわ忙しいな此処は。後ろの阿散井は動かなければ攻撃される事はねぇだろう。日番谷隊長も下がっていれば問題ねぇ。じゃあうちのちびっこ隊長を止めるか
「隊長、俺が判るか?」
『…知らない…皆敵だ…!』
低く唸った独月が施条銃を構えた。撃たれる前に瞬歩で背後に回り込む。斬魄刀に化ける尾は全て斬り落とした。お前の弱点なんか知ってんだよ。悲鳴を上げた独月の手から藤凍月を叩き落とし、首に腕を回し捕らえる。ふさふさの兜から生えた狐の耳に出来るだけ優しい声で囁いた
「俺は敵じゃねぇよ。少し眠りな、隊長」
手刀を首に決めれば独月の身体から力が抜けた
阿散井を取り囲んでいた千本桜も消える。気を失った独月を抱き上げれば日番谷隊長が寄って来た
「済まねぇな。そいつが暴れたのは松本の酒饅頭の所為だ」
「酒饅頭?」
訊けば日番谷隊長が頷く。何でも暴れた隊長達は皆乱菊さんから受け取った酒饅頭を食べているらしく、原因はそれだと。珍しい、こいつ書類整理中に口に入れるって作業をしたのか。普段は何も食わねぇのにこういう時ばっかり巻き込まれやがって
「まぁ大した事になってないんで大丈夫ですよ」
力の抜けた独月の頭を撫でていればまた噴き上がる霊圧。この威圧感はまさか
「松本の野郎総隊長にまで配りやがったのか…!檜佐木、桜花は任せた!」
慌てて日番谷隊長が走り出した。阿散井も後を追う。俺はそれを見送ってからゆっくりと歩き出した
耳にはまだ独月の悲鳴がこびりついている。だがあの時尾を斬り落としたのは仕方ねぇ事だとも思ってる。九本も尾があったんじゃ背後は取れねぇし、俺の事を知らないと言った罰でもあるし。
こいつが見ていたのは恐らくお琴さん達に拾われる前に住んでいた時の事。流魂街78地区に十年程度住んでいたらしいこいつは拾った当初はお琴さん達の事も警戒していたらしいから、多分相当な生活をしていたんだろうと思う。その時の事を話すこいつの目は酷く暗かったのを覚えてる。
「辛いなら俺に任せろって言ったのにな」
この小さな背中に背負い込んでるものを考えると切なくなる。俺は支えられているんだろうかと不安になる。それを伝えた所でこいつは首を傾げるだけなんだろうが
「俺に会う前の辛い事なんか忘れちまえよ、独月」
銀色の髪を撫でながらそう呟いた
瀞霊廷内で起こった隊長御乱心事件は日番谷隊長が上手く取りなして事なきを得たらしい。いや、僕自身被害者らしいから良くは覚えてないんだけど。只目を覚ましたら隣に修兵さんが座ってて他にも何人か隊長が居たってだけで。ああ、あと頭痛が凄かった。二日酔いより酷い頭痛に二時間程度襲われてた。ついでに言うと尻尾も痛かった。いや、卍解してないから尻尾はないんだけど、丁度付け根の辺りが痛かった。何でだろう。斬られた訳でもないのに。
修兵さんにそれを言うと彼はお仕置きだと言って笑った。え、何のお仕置き?
「ちびさぎ隊長ーっ!」
『あ、乱菊さん』
後ろから声を掛けられ振り向けば此方に駆け寄って来る乱菊さん
「はい、コレどーぞ!」
『……これは?』
渡されたのは小さな包み。訊けばこの前のお詫びらしい。有り難く受け取って乱菊さんと別れる。隊首室に戻れば修兵さんがお茶を飲んでいた
「お帰り隊長」
『ただいま檜佐木さん』
ソファに座り修兵さんが注いでくれたお茶を飲む。美味しい。そういえばと懐からピンク色の小さな包みを出せば修兵さんが首を傾げた
「それは?」
『乱菊さんがこの前のお詫びにって』
包みを開ければチョコレートが四つ。修兵さんと分けるには丁度良い数だ。食べようと手を伸ばせば隣から伸びてきた手に止められた。
『檜佐木さん?』
「…中身、何だ?」
『中身?』
チョコレートの中身?確かチョコレートボンボンだと言っていたから…酒?
それを言うと修兵さんが眉を寄せた
「食うのは止めとけ」
『?何で?』
「嫌な予感がする」
『?』
良く判らないが修兵さんの言う事なので従っておく。何か真剣な顔してるしね
食べるのを止めてお茶を飲んだ時、彼方此方から霊圧が噴き上がった。
『え?』
これって隊長達?何これご乱心?
「……やっぱりな…」
修兵さんが手で顔を覆った。頭をぽんぽんと撫でられる
「食わなくて良かっただろ?」
其処まで言われて漸く意味が判った
『………まさか』
「多分それの所為だ」
『………』
食べなくて良かった。いや修兵さんが止めてくれなかったら絶対僕も隊長達に混ざってた。礼を言えばどーいたしましてと返された
彼女からの酒には注意しましょう
(あ、涅隊長目からビーム出してる)
(おら、止めに行くぞ隊長)
(はーい)
『ん?…ああ、乱菊さん』
定例会を終えて隊舎に向かっていれば乱菊さんに声を掛けられた。スキップでもしそうな程に彼女は上機嫌。何か良い事でもあったのか?
「はい、これお裾分けです!」
『……これは…?』
笑顔の乱菊さんに小さな包みを渡された
「酒饅頭よ!私が五十年熟成させた梅酒が入ってるの!」
『ほう……ありがとうございます』
乱菊さんがこんなに上機嫌って事はきっと相当美味しいんだろう。他の隊長にも配って来るからと走り出した乱菊さんを見送る。今度お返しに美味しい酒でもプレゼントしよう
『…何か騒がしいな……』
書類整理の手を止めて外を見る。微かに争っている様な音が聞こえる。この霊圧は多分狛村隊長。卍解でもしてるのか?
『……そう言えば…』
丁度良いから休憩しようと思い立ち、引き出しを開ける。取り出すのは小さな包み。乱菊さんに酒饅頭を貰ってたんだった
ぱくりと一口かじる。うん、美味しい。二口で食べ終わり包みを片付ける。さてもうひと頑張り――そう思った瞬間猛烈な目眩
『あ…れ……?』
ぐるぐるする視界の中、意識が遠退くのを感じた
「儂の姿が着ぐるみだと!?背中にチャックなど付いておらぬわこの無礼者ー!!!」
「狛村隊長お気を確かに!」
そう呼び掛けるが狛村隊長が止まりそうな様子はねぇ。誰だ隊長に着ぐるみとか言った奴。隊長ブチ切れてんじゃねぇか
つか卍解までするって何考えてんだこの人。酔ってんのか?
「檜佐木!」
「日番谷隊長!」
黒縄天譴明王の腕を躱せば名を呼ばれた。阿散井を引き連れた日番谷隊長が此方に寄って来る。
「状況は?」
「それが俺にもさっぱり…」
日番谷隊長の問いに首を傾げる事しか出来ねぇ。俺だって駆け付けたばっかだし
「仕方ねぇ…力ずくで止めるぞ!」
何とか狛村隊長を止める。まぁ三人掛かりなのは仕方ねぇ、状況が状況な訳だし。正気に戻った狛村隊長は原因を思い出そうとすれば頭を抱えた。頭痛で原因は思い出せねぇらしく、今自分が暴れていた事についての記憶もない。酒でも飲んだんじゃねぇかと思うが京楽隊長じゃあるまいし、この人はそんな事しねぇ
「檜佐木、狛村を救護詰所に連れて行ってやれ」
「はい。行きましょう狛村隊長」
「済まぬな檜佐木」
日番谷隊長に言われ狛村隊長を救護詰所に連れて行く
途中涅隊長らしき霊圧が開放された。あの人も卍解しやがったのか
直ぐにそれも日番谷隊長らしき霊圧が止めに入り収まる。そしてまた違う場所で噴き上がる霊圧。場所は九番隊舎の方角…ってちょっと待て
「……マジかよ…」
救護詰所から慌てて飛び出す。この霊圧はもしかしなくてもうちのちびっこ隊長じゃねぇか。お前まで御乱心かよ
「……っくそ…!」
『――飛梅』
飛んで躱せば火炎弾が追ってくる。凍らせれば背後から真っ白な鎌。向かって来たそれに翼を刈られる
「桜花!目を覚ませ!」
『煩い!お前等なんか皆敵だ!』
憎しみを込めた目で桜花が再び飛梅をけしかけた。恐らくはこいつも饅頭の所為で朽木隊長や砕蜂隊長の様に過去を見ている。正気に戻させようにも俺とあいつじゃ分が悪過ぎる。凍らせてもあいつが他の斬魄刀の能力を使って溶かしちまうから意味がねぇ。背後を見れば千本桜に囲まれた阿散井。どうしようもねぇな
「阿散井、保護者呼んで来い!」
「檜佐木さんっすか!?」
「ああ!」
桜花の事は檜佐木に任せれば大概は安心だ。この状態も檜佐木が居れば何とかなる気がする。そう思った俺に向かって来た火炎弾
「――呼びました?」
火炎弾は掻き消され、目の前には奴の保護者が立っていた
「派手に暴れてんじゃねぇの、隊長」
彼方此方凍り付いてるわ燃えてるわ忙しいな此処は。後ろの阿散井は動かなければ攻撃される事はねぇだろう。日番谷隊長も下がっていれば問題ねぇ。じゃあうちのちびっこ隊長を止めるか
「隊長、俺が判るか?」
『…知らない…皆敵だ…!』
低く唸った独月が施条銃を構えた。撃たれる前に瞬歩で背後に回り込む。斬魄刀に化ける尾は全て斬り落とした。お前の弱点なんか知ってんだよ。悲鳴を上げた独月の手から藤凍月を叩き落とし、首に腕を回し捕らえる。ふさふさの兜から生えた狐の耳に出来るだけ優しい声で囁いた
「俺は敵じゃねぇよ。少し眠りな、隊長」
手刀を首に決めれば独月の身体から力が抜けた
阿散井を取り囲んでいた千本桜も消える。気を失った独月を抱き上げれば日番谷隊長が寄って来た
「済まねぇな。そいつが暴れたのは松本の酒饅頭の所為だ」
「酒饅頭?」
訊けば日番谷隊長が頷く。何でも暴れた隊長達は皆乱菊さんから受け取った酒饅頭を食べているらしく、原因はそれだと。珍しい、こいつ書類整理中に口に入れるって作業をしたのか。普段は何も食わねぇのにこういう時ばっかり巻き込まれやがって
「まぁ大した事になってないんで大丈夫ですよ」
力の抜けた独月の頭を撫でていればまた噴き上がる霊圧。この威圧感はまさか
「松本の野郎総隊長にまで配りやがったのか…!檜佐木、桜花は任せた!」
慌てて日番谷隊長が走り出した。阿散井も後を追う。俺はそれを見送ってからゆっくりと歩き出した
耳にはまだ独月の悲鳴がこびりついている。だがあの時尾を斬り落としたのは仕方ねぇ事だとも思ってる。九本も尾があったんじゃ背後は取れねぇし、俺の事を知らないと言った罰でもあるし。
こいつが見ていたのは恐らくお琴さん達に拾われる前に住んでいた時の事。流魂街78地区に十年程度住んでいたらしいこいつは拾った当初はお琴さん達の事も警戒していたらしいから、多分相当な生活をしていたんだろうと思う。その時の事を話すこいつの目は酷く暗かったのを覚えてる。
「辛いなら俺に任せろって言ったのにな」
この小さな背中に背負い込んでるものを考えると切なくなる。俺は支えられているんだろうかと不安になる。それを伝えた所でこいつは首を傾げるだけなんだろうが
「俺に会う前の辛い事なんか忘れちまえよ、独月」
銀色の髪を撫でながらそう呟いた
瀞霊廷内で起こった隊長御乱心事件は日番谷隊長が上手く取りなして事なきを得たらしい。いや、僕自身被害者らしいから良くは覚えてないんだけど。只目を覚ましたら隣に修兵さんが座ってて他にも何人か隊長が居たってだけで。ああ、あと頭痛が凄かった。二日酔いより酷い頭痛に二時間程度襲われてた。ついでに言うと尻尾も痛かった。いや、卍解してないから尻尾はないんだけど、丁度付け根の辺りが痛かった。何でだろう。斬られた訳でもないのに。
修兵さんにそれを言うと彼はお仕置きだと言って笑った。え、何のお仕置き?
「ちびさぎ隊長ーっ!」
『あ、乱菊さん』
後ろから声を掛けられ振り向けば此方に駆け寄って来る乱菊さん
「はい、コレどーぞ!」
『……これは?』
渡されたのは小さな包み。訊けばこの前のお詫びらしい。有り難く受け取って乱菊さんと別れる。隊首室に戻れば修兵さんがお茶を飲んでいた
「お帰り隊長」
『ただいま檜佐木さん』
ソファに座り修兵さんが注いでくれたお茶を飲む。美味しい。そういえばと懐からピンク色の小さな包みを出せば修兵さんが首を傾げた
「それは?」
『乱菊さんがこの前のお詫びにって』
包みを開ければチョコレートが四つ。修兵さんと分けるには丁度良い数だ。食べようと手を伸ばせば隣から伸びてきた手に止められた。
『檜佐木さん?』
「…中身、何だ?」
『中身?』
チョコレートの中身?確かチョコレートボンボンだと言っていたから…酒?
それを言うと修兵さんが眉を寄せた
「食うのは止めとけ」
『?何で?』
「嫌な予感がする」
『?』
良く判らないが修兵さんの言う事なので従っておく。何か真剣な顔してるしね
食べるのを止めてお茶を飲んだ時、彼方此方から霊圧が噴き上がった。
『え?』
これって隊長達?何これご乱心?
「……やっぱりな…」
修兵さんが手で顔を覆った。頭をぽんぽんと撫でられる
「食わなくて良かっただろ?」
其処まで言われて漸く意味が判った
『………まさか』
「多分それの所為だ」
『………』
食べなくて良かった。いや修兵さんが止めてくれなかったら絶対僕も隊長達に混ざってた。礼を言えばどーいたしましてと返された
彼女からの酒には注意しましょう
(あ、涅隊長目からビーム出してる)
(おら、止めに行くぞ隊長)
(はーい)