『檜佐木副隊長』

「………はい」

資料整理をしていた独月が僅かに此方を見た。俺は気分的に掛けていた眼鏡を外す。それを見ていた独月が静かに立ち上がった
独月がその呼び方をするのは任務を命じる時
静かに跪いた俺にゆっくりと口を開いた

『現世にて不審な動きが起きている。少し様子を見て来てくれ』

「了解」













「……ふぅ…」

穿界門を抜けて現世に降り立つ。人目がない事を確認してから用意されていた義骸に入る。そもそも義骸に入らなくても良い様な気もするがまぁ独月の判断だ。こいつに入った方が良いんだろう。いや、何で院生の時の俺なのかが非常に気になる所ではあるが

「……やれやれ…」

やっぱり義骸ってのは不便だな。かなり窮屈だ
ちらりと着物…此方では服って言うんだったか?に目をやる。
この格好、これは高校に行けって事か?
まぁそれが隊長の指示なら従うが
だがどうやって潜入するか。記憶置換で入学して中を探るか?特に任務期間を言われなかったって事は情報を得るまで此方に居ろって事だ。
任務期間がねぇのは楽だが独月を一人にするのも得策とは言えねぇ
三席もあいつは研究ばっかで使えねぇし

「しゃーねぇな……さっさと終わらせて、帰るとするか…」














「皆ー今日は嬉しいお知らせだ!このクラスの仲間が増えるぞー」

出席簿を持った先生が教卓を叩く。

「喜べ女子諸君!イケメンだ!」

その言葉にクラスの女子がざわめき出す。てかこの間瑠璃千代達が来たのにまた増えるのかよ。ちらりと犬龍達に視線をやるが奴等は平然としている。て事は奴等とは無関係の奴か?

「よーし、入れー!」

先生の声を合図に扉が開かれる。入って来た奴に女子がざわめいた。
襟足の長い黒髪。鋭い双眸。頬に刻まれた69の数字。……69?
そこで一人の死神が浮かんだ。けどあの人はあんなに髪は長くねぇし顔に傷痕もある。誰だあいつ
そう思って隣を見ればルキアが目を見開いていた。声を掛けようとした時、転校生の声が聞こえてきた

「……檜佐木修兵。宜しく」







『………そろそろ高校に侵入した頃か』

小さく呟けば彼は視線を手元に向けたまま口を開いた

「自らの副官を送り込んでどうするつもりだ?」

『まぁ……取り敢えず最近の現世での異常を探って貰う』

九番隊の管轄地区に一つの霊圧が感知されたのは一昨日の夜。そいつは穿界門を通って現世に降り立ったんだろうが記録には載っていなかった。そして昨日も霊圧反応があった。同じく通行記録はなし。
記録漏れなんて有り得ない。という事は穿界門を通っていない事になる。
なら奴等はどうやって現世に行ったのか。そして奴等の狙いは何なのか。
それを探る為に一番信頼出来る修兵さんをわざわざ高校に送り込んだ
あの人ならもし戦闘になっても死なないだろうし、高校に行かせれば現世の死神代行やルキアと情報交換も出来る

「忠狗ならば心配の必要はない。それよりも、そろそろ休憩の時間だぞ?」

『……ん』

静かに書類を置けば彼は赤い目を満足そうに細めた













「だからっどうしてあんたが此処に来たんだ!」

「暇潰し」

ぎゃーぎゃー喚く黒崎を適当にあしらう。こいつ面倒臭ぇ。
取り敢えず今俺を囲んでる奴等を見る。黒崎達現世組に少し遠くから此方を見ている三人組。奴等は俺や朽木の様に義骸に入ってる。
それだけでも怪しいのに真ん中のチビはガキ。独月よりも更に年下に見える。高校ってのはあんなガキが入れるもんなのか?
そしてそのガキの傍に控えている様に見える左右の二人は死神だ。……一体どうなってやがる

「檜佐木副隊長」

「何だ、朽木」

ちらりと見れば朽木が難しい顔をして此方を見ていた

「副隊長がいらっしゃったのは、桜花隊長の指示ですか?」

早速本題かよ。ほいほい任務内容を話す訳には行かねぇし、俺はまたしらを切る

「違ぇ。暇潰しだって言ってんだろ」

「……本当ですか?」

「ああ。有給が余っちまってたから隊長に無理矢理長期休暇取らされてな。暇潰しに現世の高校に通ってみようと思ったんだ」

ぺらぺらと嘘を吐く。良くこんな嘘思い付いたな俺。まぁ有給が余っちまってるのは嘘じゃねぇけど

「……そうですか…疑ってしまって申し訳ございませんでした」

「気にすんな」

頭を下げた朽木にひらひらと手を振る。
朽木との会話で俺の言葉を信用したのか黒崎達は僅かに安堵した表情を見せた

「………」

この表情の変化からして恐らく隊長達には言えない事が此方で起きていると考えるべきか。隊長達に言えない、若しくは護廷隊には知られてはならない事
そしてこいつらはその事情を知っている。
――原因は、恐らくあいつら
さり気なく視線を三人組に向ければ男が安堵したかの様な溜息を吐いていた。さっきは随分困惑した顔してたのにな
俺が隊長命令じゃないって事に安堵したってトコか
色々と怪し過ぎる。先ずは奴等の素性を調べる必要があるな

「……なかなか厄介な事になってやがるぜ…隊長………」

小さな呟きは誰の耳にも入る事なく消えた










手配して貰った部屋の鍵を開ける。つい癖で口が開いた

「ただいまーっと…」

『お帰り』

「………え?」

ある筈のない返事が返って来て、目を見開く。居間で寛いでいたのは独月。え、お前何で此処に?

『定時で上がれたし、調査結果訊こうと思って』

そう言った独月が僅かに目を細めた
――隊長の、目だ

『檜佐木副隊長、調査結果を』

「はっ」

静かに跪く。顔を上げて隊長を見た

「不審な霊圧の出現については依然として調査中ですが、空座第一高校にて義骸に入った奇妙な三人組を発見。一人は少女、二人は死神と思われます。そして、恐らくは護廷隊には話せぬ事を隠しております」

『…僕達に話せない事?』

「はい。そしてその事を死神代行と十三番隊朽木ルキア、及び代行の仲間は知っていると思われます」

『………判った。報告ご苦労』

顎に手をやった独月が静かに目を閉じた。
再び開けられた目は何時も通り。その目を見てから体勢を崩す。

「独月、飯は食ったか?」

『まだ』

「ならちょっと待ってな」

あんまり食材を買って来てねぇから簡単なもんしか作れねぇけど。そう言えば独月は修兵さんの料理は何でも美味しいから構わない、と
……別に嬉しくなんかないんだからなっ













「…其方はどんなだ?」

義骸に入ったままの俺の髪を乾かす独月に訊ねる。

『天貝隊長に特に不審な動きは見付からない。……けど』

「けど?」

『…多分吉良は貴船三席を怪しんでる』

「……へぇ…」

貴船は確か天貝隊長が討伐部隊から引き抜いてきた奴だ。そいつを怪しんでるって事は吉良と何かあったのか?

『二人共三番隊に馴染み出した。でも逆に吉良があの隊から浮き出した様に見えるし、三席と自分を比べてる』

「あー……そりゃ悪い傾向だな…」

元々吉良は気弱だ。自分に自信がない。実力やら書類処理の能力は充分にあるんだがあの性格が由来して周りから頼りないと思われやすい
どうせ今回もその性格の所為なんだろう。ぐいぐい引っ張って行く隊長や三席に隊士が懐いただけ

『まぁ三番隊での事だから僕は口出ししないけど』

「俺はお前の意見に従うだけだ」

隊長として独月が決めたなら俺はそれに従う。間違っていれば俺が正せば良いし、もしその選択を覚悟を持ってしたのなら、その時は俺がついて行く。

『………ん?』

独月が懐から伝令神機を取り出した。ちらりと此方に目を向けて、また画面を見る。
そしてカチカチと弄ってからパタンとスライド式のそれを閉じた。

『呼び出しがあったから、行ってくる』

「おう、気ぃ付けろよ?」

『ん。――解錠』

独月が門を潜ると襖は閉じられ消えた。
あの様子から見てそれなりに忙しそうだ。まぁ副官を調査に出してりゃそうなるか。俺の分まで独月と三席がやる訳だし。
独月の負担を減らす為にもやはり此方に長居するべきではないだろう。

「……霞大路、ね…」

推測に過ぎない為独月には話していなかった事を思い出す。
奇妙な三人組の内のチビが偉そうに言っていた自らの苗字。あの立ち振る舞いからして多分四大貴族に次ぐ上級貴族の霞大路家の者だろう。んで、常に護る様に左右に立っていた二人はお供ってトコか。
それにしても仮にも上級貴族の奴がわざわざ現世に来て学校なんかに通うか?
相当な理由がないとあんな世間知らずの箱入り娘をほいほい家の外、増してや現世に降ろす訳もない。それにあの護衛達は常に辺りを警戒していた。護衛達だけでなく、黒崎達まで。
まぁ護衛対象が上級貴族のチビだからってのもあるだろうが、それにしたってあの警戒は度が過ぎてる。
まるで此処何回か襲われた事のある様な感じだった

「……ん?待てよ…」

自分で感じたその事に疑問を持つ。もし何回か襲われていたとして、それは何の為に?
そこで此処二日程度現れていた不審な霊圧の事を思い出す。
穿界門を通った記録はないのに現世に現れるソレ。その方法は判らねぇが、そいつらがあのチビを狙って来ているのなら辻褄は合う。
大方上からの命令で屋敷に連れ戻しに来たとかそんなもんなんだろ。

「……はぁ…」

其処まで考えて溜息を吐く。たられば話で推測立てんのは簡単だが、今の所確証がねぇ。そんな推測の域を出ねぇ話を隊長にする訳にはいかない。
確証が必要だ。俺の考えを肯定する証拠が

「しゃーねぇな……」

明日また黒崎達に探りを入れるしかねぇか。
騙している様なもんだし軽く罪悪感はあるがこれも独月の為だ、仕方ねぇ
頭をがしがしと掻いてふと気付く。俺の髪を乾かすあいつは何となく何時もより楽しそうだった。あいつ髪が長い方が好きなのかな

「…また伸ばしてみるか…」

ぼんやりと毛先を弄りながら呟いた。
夜が、更けていく



The faithful dog to lie calmly for the Lord if



(さて、もう寝るか)