高校で習う事ってのは正直何の為に使うのか不思議でならない。この数学って教科も面白いが果たして社会に出てこれは有効活用されるのか





「檜佐木さん、あんたも一緒に帰らねぇか?」

授業が終わりさて夕飯はどうしようかと考えていれば黒崎が此方に歩いて来た

「あー…そうだな。そうさせて貰う」

折角の誘いだしちらちらと此方を見ている女生徒から逃げられるなら喜んでついて行く。何の用かは知らねぇが授業中もちらちら見られてたら集中出来ねぇ。ストレスも溜まる。何でも良いから奴等に絡まれない内に早く此処から離れたかった。例えこいつらと何処か寄り道したとしても夕飯の買い物は後から出来るしな

「あ、あの…」

ずっと此方を見ていた女生徒の一人が動きを見せたのに気付いて黒崎の肩を軽く叩く
あんなのに絡まれるのはごめんだ

「じゃ、帰ろうぜ」

「お、おう。行くかお前ら」

さっさと教室を出て玄関に向かう。ちらりと見れば悲しそうな顔をした女生徒が見えた
悪ぃな、俺は見てくれに惹かれて寄って来る奴等にほいほい優しくする程甘かねぇんだ





今日一日三人の観察をして確証を得た事は二つ。こいつらは霞大路家の人間だって事。
そして霞大路家からの刺客に狙われているという事


「これは何なのじゃ?」

商店街を歩いていると瑠璃千代がある機械の前で立ち止まった。
沢山の飲み物が入っているこれは確か

「……自動販売機、だったか?」

「はい」

偶々近くに居た朽木と一緒に瑠璃千代達を眺める。自動販売機とは何をする物なのかと訊かれ犬龍は困っていた。まぁ確かに使った事がねぇ奴に説明すんのは難しいよな。

「こうやって使うんだよ」

黒崎が硬貨を入れボタンを押す。ガコンと音を立てて出て来た缶のプルタブを開けて瑠璃千代に渡した

「る、瑠璃千代様っ」

犬龍が飲もうとしている瑠璃千代を慌てて引き止める。まぁ当然の反応だな。護衛からしたら機械から出て来た得体の知れねぇ飲み物を毒見も無しに飲ませる訳には行かねぇし

「大丈夫じゃ、犬龍」

犬龍を制した瑠璃千代が意を決した様な表情で缶の中身を飲んだ。心配そうに見守る犬龍達を余所にその顔を輝かせる

「蜜柑じゃ!蜜柑の味がするぞっ!」

どうやらお気に召したらしい。
にこにこ笑う様子を眺めていれば不意にズボンのポケットに入れていた伝令神機が震えだした。朽木に断って通話ボタンを押す

[もしもし?]

「おう、どうした?」

声の主は独月。伝令神機越しの声は何時もより低い

[今日も定時に上がれそうだから、其方に行こうと思って]

「お、マジか。て事は夕飯食ってくだろ?」

[良いの?]

首を傾げただろう姿を想像して少し笑う

「一人分も二人分も大して変わらねぇよ。どうせ食料買いに行くし」

[…じゃあ、お願いします]

「おう、任せとけ」

ふと見れば何故か黒崎達が此方をガン見していた。や、何なんだお前等

[何か持ってきて欲しい物とかある?]

「特にねぇな。そういや何か食いてぇモンあるか?」

[何でも良いの?]

「リクエスト次第」

そう返すと独月が少しの間悩み出した。それを笑いを堪えながら待つ。
大体今あいつが食べたいだろう料理はもう判ってるし

「[…オムライス]、だろ?」

[………え]

予想通りに答えた独月に思わず噴き出した。今頃あいつは眉を寄せているだろう。

「くくっ…怒んなよ独月チャン?」

[……怒ってない]

いや怒ってるだろ。まぁこうなるとは判っててわざと言ったんだが
今は何で俺が当てられたのか考えている筈

「前に言ったろ?お前の考えてる事は全部判るって」

[………]

「こら、電話してんのに黙るな」

思った通りの反応をする独月が面白過ぎる。笑いを必死になって堪えるのが辛い。辛いが今笑えば絶対に通話を切られる。切られるだけならまだしもあいつの機嫌を盛大に損ねて、だ。
傍に居る時なら直ぐに機嫌取りも出来るが電話だとそれも難しい。笑ったが最後あいつは通話を切って着信拒否までする。

「じゃ、オムライスを楽しみに待ってな、お姫サマ?」

そう言って次の返しを待っていれば予想外のものを返された
それは低く、甘い声で

[………後で覚えてろ、修チャン]

「――っ、てめっ…!」

無駄に良い声が耳元で響いた。
文句を言おうにも電子音のみが響いている。ちょっと待てあんな事誰が教えやがった
藤堂か、それとも乱菊さんか
取り敢えず変な事教えんなって言っとかねぇと
つか修チャンってあの犬のぬいぐるみじゃねぇか。俺は犬じゃねぇぞ。
伝令神機を閉じてポケットに直す。
あーくそ、顔が熱い。
あいつは自分の声がどんなもんか判ってねぇ。

「な、なぁ檜佐木さん」

「あ?」

見れば黒崎が此方をガン見していた。いや、黒崎だけじゃなく他の奴等も俺を見てる。え、何なのお前等

「あんた…彼女居たのか?」

「………は?」

彼女?何でそんな話になってんだ。何言ってんだこいつと黒崎を見ていれば朽木が口を開いた

「一護、貴様は何か勘違いしている様だが……桜花隊長と檜佐木副隊長は恋仲ではないぞ?」

「え、マジか」

頷く朽木に黒崎が驚いた顔を向けた。いやだから何でそんな反応なんだよ

「あの様な笑顔をしておったのに、恋仲ではないのか?」

「はい。あいつは俺の相棒です」

訊いてきた瑠璃千代に少し笑って返す。恋人みてぇに直ぐに別れるもんじゃない。あいつは一生俺の傍に居る相棒だ
つかあの笑顔って?

「恐らく瑠璃千代殿が言っておられるのは電話中の檜佐木副隊長の笑顔かと」

こっそり教えてくれた朽木に首を傾げる。俺そんな変な顔してたか?

「とても幸せそうなものだったので、それで勘違いなさったのかと」

「……あー」

それで漸く納得する。
つまりアレか、普段と違う雰囲気やら何やら出してたって事か。
でもそれは良く言われる。電話の後に阿散井とかに呆れた顔される事も多いし





「付き合ってねぇなら、もし桜花に彼氏が出来たらどうすんだよ」

場所を商店街からゲーセンに移したにも関わらず続く黒崎の問いに頭を掻く
あいつに彼氏?んなもん考えた事ねぇしな

「取り敢えず、相応しくなかったら別れさせる」

「保護者かよ」

そんなんじゃ桜花は何時まで経っても誰とも付き合えねぇじゃねぇかと黒崎が呆れた顔をした。
や、ちゃんとした奴なら俺も認めると思う。でも最低限俺より強くねぇと認めねぇ

「その時点でハードルが高い気が……」

「そうか?」

あれだろ?
好きな奴の為なら障害なんて壊せるだろ?

「その障害が明らかに力五割増になるけどな」

「や、五割じゃねぇよ。死なねぇ程度だ」

「限度無しかよ!?」

ツッコミを入れる黒崎を余所に一つのUFOキャッチャーに目が行く。景品は黒い犬。これあいつが喜びそうだな
硬貨を入れてアームを動かしていれば黒崎が覗き込んで来た

「桜花に?」

「おう。あいつぬいぐるみ好きだからな」

俺にくれた俺そっくりな犬のぬいぐるみにも、俺が前にやった虎のぬいぐるみにも名前を付けている。
寝る時にもそれ抱えて寝てるし。

「い、意外だ……」

「そうか?」

案外寂しがりやなあいつらしいと思うが

「お、取れた」

転がったぬいぐるみを鞄に突っ込む。

「檜佐木さんは彼女居ねぇの?」

「彼女?居ねぇよ」

つか何でこいつはそんな事に興味津々なんだ。ああ、瑠璃千代達が遊んでて暇なのか

「作らねぇの?」

「恋愛してる程暇じゃねぇ」

今は忙しいから遊んでいる暇はねぇし
てか独月の世話で忙しくてそれどころじゃねぇ。あいつは俺が居ねぇとまともな生活しねぇし
つか下手に彼女なんか作ればどうせ独月から離れろって言い出すだろ。それが面倒臭ぇ

「じゃああんたも桜花も結婚出来ねぇな」

「ん?…まぁ…そうかもな…」

でも前にこう言った事がある。確かあれは院生時代だったし、あいつは覚えてねぇ可能性もあるけど

「あー…あいつが嫁に行けなかったら俺が貰ってやるとは言った」

「夫婦決定じゃねぇか」
















『お帰り』

「おう、ただいま」

霊圧で気付いたのか鍵を開ける前に扉が開き、独月が顔を出した。

『楽しかった?』

「それなりにな」

『それは良かった』

呟いた独月が僅かに笑う。
寝室で服を着替えてから台所に向かった

「じゃ、飯作ってくるから待ってな」

『ん』

独月がすたすたと奥に向かって行った。あの方角は風呂場だ。掃除にでも行ったんだろう。
玉葱を刻んでいれば独月は帰ってきた。その手には伝令神機を持っていた。また任務か?そう問えば独月は否と首を振った

『吉良からの定期連絡。最近三番隊は隊長の意向で雑用係をやってるらしい』

「ああ。だから最近吉良の顔が酷かったのか」

厠の掃除やら十一番隊のパシリやら壁の補修やらやらされているらしい。
理由は失われた信頼を取り戻す為
まぁそういうのは重要だしな。信頼ってのは直ぐに回復出来る様なモンでもねぇし

『取り敢えずは引き続き様子見かな』

「了解」

多分他の隊長達は恐らく天貝隊長を疑ってはいねぇ。
あの人に違和感を持ってるのは俺と独月ぐらいだろうし

「おし、出来た」

『運ぶ』

「サンキュ」










「………ん?」

食事を終えまったりと過ごしている時、ふと感じた霊圧に顔を上げる。数は複数。

「お前は此処で待ってろ」

此方を見た独月にそう言って義魂丸を取り出す。
判ったと頷いた独月と共に居る様に義魂丸に指示を出して窓から飛び出した





「瑠璃千代様っ!!」

一番近くの霊圧に向かってみれば犬龍の悲鳴が聞こえてきた。見えたのは朽木と瑠璃千代達を襲う刃の群れ。ありゃ全部一気に救うにはこのままじゃ無理か。
…しゃーねぇな

「刈れ――『風死』」

振り回しながら全ての刃を叩き落とす。立ち上がり後ろを見れば瑠璃千代達は無事だった。良し、怪我はねぇな

「檜佐木副隊長!」

「おう、怪我はねぇか」

つってもまぁ戦ってたみてぇだし無傷な訳はねぇか

「……檜佐木…?」

呼ばれて振り向けばきょとん顔で見ている三人組。何だと考えて自分の格好を思い出した。

「俺が入ってる義骸な、俺が院生の時の見た目なんだよ」

だからこれが本当の俺の姿。そう言えば三人が物凄い顔になった。そんなに驚く事か?

「取り敢えず下がってな」

風死を構えつつ敵を見る。げらげら笑うそいつは人にしては随分歪な形をしていた。何だあいつ、背中から刃物生えてるぞ。

「なぁ朽木、あれ人か?」

隣の朽木に確認すればこくりと頷かれた。や、あいつげらげら笑いながら自分の得物喰ってるんだけど。
俺あんな奴同じ人類に分類したくねぇ

「いーひひひひひひひ!!!」

奴の甲高い笑い声が気に障る

「……不愉快だ。その口を閉じろ」

飛ばして来た背中の刃を全て弾き落として瞬歩で背後を取る

「破道の七十三・双蓮蒼火墜!」

「ぎゃあっ!!」

背中の刃が粉々になった。がら空きになったそこに風死を突き刺す。悲鳴を上げた男が屋根から転げ落ちて、地面に叩き付けられた

「飛び道具で俺に勝てると思うなよ」

「お見事です副隊長!」

「そりゃどうも。お前もお疲れさん」

風死の始解を解いて鞘に収める。奴は僅かに痙攣していた。まぁでも加減したし死んじゃいねぇから情報を吐かせるのには使えるだろう。
見た所気を失ってるし起きてからの方が良いか?
まぁ意識が戻って動かれたら厄介だし、取り敢えず縛っとくか

「っ檜佐木副隊長!」

朽木の慌てた声に目を凝らす。急に巻き起こった砂埃から出て来たのはさっき気を失った筈の男だった。あれ、まだ意識あったのかよ

「下がってな、朽木」

再び斬魄刀を抜いて切っ先を男に向ける。
未だげらげらと笑い続ける男は不意に手に持った鎌の刃を喰い始めた。金属噛み砕くなんざどんな歯と顎してんだてめぇ。やっぱこいつ人間じゃねぇ

「ひゃはははは…あ…?う…うわああああああああ!!!」

「!?……何だ…?」

げらげらと笑っていた筈の男が急に悲鳴を上げた。
何事かと見れば胸に引っ付いている海星みてぇな気持ち悪ぃモンが脈打つ様に動いていた。そして大きくなる悲鳴。
何だあれ…霊圧を吸ってる…?

「ぎゃああああああああああああ!!!!」

一際大きな断末魔が響いて――男は燃えた。その身体は崩れ落ち、赤い炎に巻かれている

「ちっ……折角の情報源が…」

思わず舌打ちする。こうなるなら直ぐにあの武器から男を引き離しておくんだった。悠長に考えた俺の失態だ

「ったく、何なんだよ……」

所々齧られて欠けた鎖鎌に手を伸ばす。
――瞬間上から降ってきた鎖に鎖鎌をかっさらわれた

「貴様等、雲井の手の者か!」

朽木の言葉に反応はせず奴等は引いていった。どうやら獏爻刀とやらを回収しに来たらしい

「……獏爻刀、ね…」













「――以上です」

『判った。ご苦労様檜佐木副隊長』

「はっ」

調査結果を隊長に伝える。隊長は少し眉を寄せて考えていた

『此処最近現れる霊圧は御家騒動で姫を追ってる霞大路家の忍なんだね?』

「はい。奴等は霞大路家専用の穿界門を使用している為記録には残っていないとの事」

『ああ、だからか……』

奴等は霞大路家の忍である為専用の穿界門が使える。だから記録には一切残っていなかった

『で、此方ではもう死神代行が動いている、と』

「はい。霞大路瑠璃千代姫の用心棒を引き受け屋敷より放たれる忍を次々と撃退している模様」

『ふーん…まぁ獏爻刀と護廷隊への隠し事が気にはなるが……今の所死神代行に任せておいても大丈夫だろう』

獏爻刀の資料も尸魂界にあるだろうし、と独月が呟いた。
せめて獏爻刀を押収出来れば良かったんだがそんな事を言っていても仕方がない

『なら本日付けで檜佐木副隊長の情報収集任務を終了とする。明日僕と尸魂界に戻るぞ』

「はい」

頭を垂れれば上から息を吐く音が聞こえた
顔を上げれば独月が微かに笑っている

『修兵さんに怪我がなくて良かった』

「俺はあの程度じゃ怪我しねぇよ」

指通りの良い銀髪に触れる。明日からまたずっと一緒に居られる。そう思うと自然と頬が緩んだ



情報収集任務、終了



(そう言やゲーセンでお前が好きそうなの取ってきた、ほら)

(…犬。……貰って良いの?)

(おう)

(……ありがと)

(どーいたしまして)