『………ん?』

書類整理をしていれば窓から入って来た黒揚羽。剥き出しの左肩に留まったそれは伝令を流した

[隊長各位に報告!廷内に五体の大虚が出現!直ちに迎撃せよ!繰り返す――]

「………マジかよ」

同じく指先に地獄蝶を留まらせた修兵さんが此方に歩いて来た。

「……どう思う、隊長」

『タイミングが良すぎる』

それに虚の霊圧を一切感じない。臭いもない。藍染の作った霊圧を消せる虚が来たのか?でもそれだと天貝隊長は藍染と繋がってるって事になる。もし違うとしても合同演習が施行されるのは確実。――このタイミングの良さは仕組まれていたから?

『…九番隊は通常警備。大虚には僕が出る』

「俺も出ます」

『檜佐木副隊長は警備に………はぁ、判った。じゃあ三席に伝えてダッシュで僕の所に来て』

「了解」

修兵さんが瞬歩で姿を消した。僕も藤凍月を背負い駆け出す。
恐らくこの大虚迎撃は仕組まれている。目の前に佇むこの人と、大虚に向かっているであろう新隊長殿に

『何企んでるんですか総隊長』

「気付いたか、流石じゃの桜花」

こんな露骨に事が動かれたら嫌でも気付くわ。これで総隊長が一枚噛んでいるのは判った。後は理由か
大方合同演習を認めさせる為、とか?

「行くぞ、桜花」

『はい』




「なーんか仕組まれてる気がするよねぇ」

追い付いて来た修兵さんも連れて話している三人の隊長に近付いていく

「気付いたか」

「元柳斎先生!桜花!檜佐木!」

『どうも』

軽く頭を下げる修兵さんと共に隊長達を見る。
京楽隊長に浮竹隊長に日番谷隊長に伊勢副隊長。
下では沢山の数の霊圧が密集し過ぎて訳が判らない事になっている。狭い通路に沢山の隊士達が押し寄せた所為であれじゃ動く事もままならない。
修兵さんがそっと耳打ちして来た

「隊長、九番隊に撤退命令を出しますか?」

『いや、三席ならあんな密集地帯に踏み込んだりしないだろう』

通常警備って伝えたからには絶対にあの人は持ち場を動かない。寧ろ必要ないと感じたら勝手に撤退しそう
ならば九番隊は放置しても平気だ。

「それにしても……大虚の霊圧が見付からねぇ…あの情報はやはり誤報の可能性がありますね」

修兵さんの言葉に頷く

『ああ…見えもしないものに皆振り回されている』

霊圧も臭いも姿すらない。
やはりあの報告も誤報か

「………っ隊長!」

修兵さんの緊迫した声。見ればピノキオみたいな奴等が五体、その身を揺らしていた

『…うーん……?』

何だあれ、違和感がある。や、見た目からして確実に大虚なんだけど、何か大虚っぽくないって言うか……

「気付いたかの、桜花」

僕の頭にぽんと手が乗せられた

「あれは儂が作った大虚の転移映像じゃ」

『……転移映像…』

「そうじゃ。この状態をどう打開するか、天貝の動きが見物じゃの」

「天貝隊長、ですか……」

修兵さんが目を細めた。彼の名を言ったという事は、やはり総隊長は合同演習の為にこれを引き起こした
ちらりと修兵さんを見れば彼は頷いた。
踵を返し歩き出した僕の後ろから修兵さんが付いて来る

「独月ちゃん、何処に行くんだい?」

京楽隊長の声に一度足を止める。ちらりと振り向けば他の面々も此方を見ていた

『隊舎に戻ります。合同演習だろうが何だろうが僕には関係ない』

行こう、と小さな声で言えば小さな頷きが返ってきた

「じゃじゃ馬め」

呟いたつもりなんだろうが聞こえてるぞ総隊長













それから数日。総隊長より合同演習が正式に許可された

「…総隊長が?」

『ん』

あの大虚はやはり合同演習を行う為。何故そうまでして行いたいのかは判らない。総隊長も詳しくは教えてくれなかったし。
資料室で天貝隊長について調べるものの全然見つからない。獏爻刀も霊圧を吸う以外詳しい事は一切不明。
修兵さんを見れば彼もお手上げ状態。どうしたものか

『…仕方ない。三席の力を借りるか』

「げ。あいつかよ」

嫌がる修兵さんにこくりと頷く。いや、あの人はかなりアクが強いけど話せば良い人だよ?



「で?俺に何の用だ隊長」

『呼び出してごめん直哉さん』

「構わん。お前に呼び出された理由など大体の想像はついているし俺の研究がお前の些細な邪魔程度で滞る事など有り得ない」

「相変わらずうぜぇ」

ノンブレスで言い切る所にさり気ないうざさを感じる。
灰色の髪に赤い目のこの男の人は国後直哉。うちの三席です。いや研究とかしちゃってる辺り十二番隊に行った方が良いんじゃないかと思うけど本人にその気がないので九番隊のままで良いんだろう。
修兵さんは悪魔を喚び出すプログラムを開発中の直哉さんが苦手みたいだが

「呼び出した用件は天貝繍助について、だろう」

『さっすが』

何処からか取り出した大量の資料が机の上に置かれた。手ぶらだったのに何処から出したんだろう。まぁ聞いても答えてくれないだろうから聞かないけど

「そもそも天貝繍助など存在しない」

「いきなり何言ってんだこいつ」

こいつ頭可笑しいぞ、と修兵さんが僕を見る。いやそんな露骨に言わなくても。言われている直哉さんはくつくつと笑った

「言葉の通りだ。天貝繍助という名を捜すから見付からないのだ。それは奴の本当の名ではないのだからな」

『……偽名って事?』

「その通り」

くつくつと笑む直哉さんに頭を撫でられる。何でこの人こんなにやにや笑うんだろう

「最初からそう言えよ。回りくどい奴だな」

「回る知恵のない狗が吠えるな。…さて独月よ、この名で調べたらどうなると思う?」

修兵さんに毒を吐いた直哉さんが差し出した一枚の書類。それは尸魂界の住民記録。全く違う名で載っていたのは間違いなく子供の頃の天貝隊長

『……名前が…』

「そしてもう一つ。面白いものが有る」

また違う書類を束の中から引き抜いて此方に差し出す。それは反逆罪で殉職した死神の写真と名前

「……これは…」

息を呑む修兵さんに直哉さんが目を細めた。楽しげに、愉しげに

「奴が狙っているのは只一つ。自らの父を殺した山本元柳斎重國への――復讐だ」



全てが繋がる



(ありがとう直哉さん助かった)

(ふん、副官が使えぬ様ならまた呼ぶと良い)

(あいつ俺に喧嘩売ってんのか…?)