凧揚げ大会
『……凧揚げ?』
「そ。お前もやるだろ?」
そう言った編集長はやたらと良い笑顔だった
「えーそれでは、今から凧揚げ大会を始めます」
司会を務める(修兵さんが強制的に司会を押し付けた)吉良の言葉を合図に皆一斉に凧を揚げた。
皆それぞれ特徴的な凧だ。隊長の顔も複数ある。ぼんやりと眺めていれば隣に居た修兵さんが何かごそごそし出した。
そして何かを準備した修兵さんが僕に空を見とけと笑う。何する気なんだろう?首を傾げつつ見ていればふよふよと浮かんできた桜に69の数字が描かれた凧。あれ明らかに僕の桜の痣だ。揚げた本人が笑いながら僕の隣に戻ってきた
「吃驚したか?」
『…ん。何時準備したの?』
何かアートっぽく綺麗に仕上がってるのが気になる。桜の痣の下に数字入れたらあんなに綺麗になるかな…
そんな事を考えていれば慌てた様子で吉良がやって来た
「何やってるんですか檜佐木さん!僕達司会でしょ!?」
「おー。でも司会だからってやっちゃいけねぇ決まりもねぇし良いだろ?」
さらりと流した修兵さんは凧の操縦に夢中。多分吉良の話も真剣に訊いてないと思われる
「兎に角、揉め事になりそうな時はちゃんと止めて下さいよ?」
「んー、判った判った。独月、お前もやってみるか?」
あ、この人揉め事止める気ないわ。吉良ドンマイ。
いや、やってみるかと訊かれても
『僕やった事ないし』
「そうなのか?なら教えてやるよ」
にっと笑った修兵さんが凧糸を僕に握らせる。先程の持ち方を見様見真似でやってみればそうだと頭を撫でられた。
「ちょっと見回りして来るから大人しく遊んどけよ?」
『凧揚げで大人しく遊ぶ以外にどうやって遊ぶんだ』
歩いていった修兵さんを見送り、凧を見る
凧って案外引きが強いんだな。風が吹く度に僅かに身体が持ち上がる。踏ん張ってないと多分僕が飛ぶ
『十番隊の凧綺麗だな………え?』
そう思っていた瞬間一際強い風が吹いた。
ふわり、と地面の感覚がなくなる。え、これやばくね?もしかしなくても浮いてない?
『〜〜〜〜っ!!』
「ったく、何浮いてんだお前は」
足をばたばたしていると腰を掴まれた。
そのまま引っ張られ地面に降ろされる。振り向けば修兵さんが呆れ顔で笑っていた
「人揚げじゃなくて凧揚げしとけって言ったんだけどな」
人揚げって
そもそも浮きたくて浮いた訳じゃない
『…身体が勝手に浮きました……助けてくれてありがとうございます…』
「どーいたしまして。取り敢えず一人でやらせたら浮くんだな」
まじまじと僕を見た修兵さんが顎に手をやって、それから子供の様ににっと笑った
「じゃあ一緒にやるか」
『………?』
一緒にとはどうやって?
そう思っていれば修兵さんが僕の後ろに回った。そのまま後ろから凧糸を掴む。ああ、こういう事か
「これなら飛ばねぇだろ?」
『ありがと』
修兵さんが一緒に居てくれれば飛ばずに済む。そう思っているとくいっと凧糸を引かれた
「もう少し引かねぇと」
『判った』
言われた通りに引けば少しやり過ぎた様で、少し降下した。
「ちょっと引き過ぎ……あ」
降下した凧は風に流され――もつれた。十一番隊の凧を巻き添えにして
何で寄りによって十一番隊の凧?明らかにあの連なってる凧の先頭は更木隊長じゃないか。
凧を揚げていた斑目さんが此方に向かって来る
「おいてめぇら何人の凧に絡んでやがる!」
「おー悪い悪い。今外す」
そう返した修兵さんがくいっと凧糸を引っ張った。手の動きに合わせて凧も動く。
引っ張られたそれは見事に凧糸の絡みを外した。
――十一番隊の凧糸を切るというかなり強引なやり方で
『………あ』
「おー、悪ぃ斑目。糸切っちまった」
修兵さんそれ謝ってない。ほら隣で青筋浮かべたハゲがキレてる
「てめぇ何人の凧糸切ってやがる!人のじゃなくててめぇの糸切れや!」
『すみまもごっ』
キレた斑目さんに謝ろうとすると修兵さんに口を塞がれた。え、何で?
「だから謝ってんだろ?つかお前等の凧糸が弱かったんじゃねぇの?」
あ、この人今さらっと禁句言った
十一番隊には絶対に言っちゃいけない禁句を
「…十一番隊の凧糸が…弱ぇだと…っ!?」
わなわなと斑目さんが震え出す。
十一番隊隊士への禁句。それは何事においても同じ、弱いと言う一言。
「新しい凧を持ってくる!どっちが高く揚がるか勝負だ檜佐木!」
「おー」
修兵さんがまったくやる気のない返事を返せば斑目さんが走って何処かに行ってしまった。
彼が見えなくなってから漸く口を塞いでいた手が外される
それと同時に騒ぎに気付いた吉良が走って来た
「何やってるんですか檜佐木さん!」
「大丈夫だって。大会を盛り上げる為だ、本気で戦り合おうとは思っちゃいねぇさ」
その笑みが気になる。
あんた斑目さんからかって遊んだだけだろ
溜息を吐いた吉良が再び持ち場に戻っていく
その背を見送りそう言えばと僕は修兵さんを見た
『修兵さん、何でわざわざ喧嘩売った?…凧糸絡ませたのは僕なのに』
「ん?面白いからに決まってんだろ?」
にっと笑った修兵さんが僕の頭を撫でた。え、そんな理由?
「お前なら直ぐ謝っちまうと思ったし。糸を切っちまったのは俺だから、お前は気にすんな」
『いや…絡ませたのは……』
「それに初めてやる奴にこんなに沢山揚がってる中で絡ませるなって言う方が無理な話だ」
『………』
反論させない気かこの人。
どうあっても斑目さんの凧糸を切ったのは自分の所為だと言うつもりらしい。絡ませてしまった僕は悪くない、と。優し過ぎだ馬鹿
何だか少し悔しくて修兵さんに寄り掛かってみる。丁度胸の下辺りに頭が収まった。甘えたか?と修兵さんが笑う
『………ありがと』
「どーいたしまして。何の事かは知らねぇけどな?」
ちらりと此方に視線をやり優しく微笑んで、また凧を見る。
穏やかな時間。
けれどそれを綺麗にぶち壊す怒鳴り声が聞こえてきた
「行くぜてめぇらっ!十一番隊の凧が一番だぁっ!!」
「「「おーっ!!!」」」
声の方を見れば凧に身体を縛り付けたハゲを十一番隊隊士が運んでいる。や、何してんの斑目さん。何をどう考えたらそんな考えに至ったの
「おー、マジで人揚げやってんな」
『や、修兵さんの所為だから』
そう言えば修兵さんはん?と首を傾げた。動き可愛いけど原因はあんたです
僕は無言でこくりと頷く
うん、あんただよ。十一番隊の凧糸が弱いとか言って焚き付けたのはあんただよ
「行くぜっ!!」
その掛け声と共に斑目さん付きの凧は空に揚がった。あ、やべ、ハゲの頭が日光反射して眩しい。何あの人何処に居たってあの頭光ってんのか
目を細めて見ていれば修兵さんが少し深く息を吸うのが判った
「おいツルッパゲもうちょい光抑えろ。眩しいだろうが」
「んだと檜佐木ぃ!!!もっぺん言ってみろ!!!」
『ちょっ修兵さん……っ』
やばい腹が捩れる。ツルッパゲとか言っちゃ駄目でしょ。しかも真顔でんな事言うな
「髪に見放されてんのに耳まで悪ぃのか。もうちょい控え目に日光反射しろっつってんだこのピカピカハゲ」
『…っふは…も、無理…お腹痛い…っ…!』
笑える。腹が捩れて死ぬ
周りも修兵さんの一言で笑い始めた。吉良が慌てているのが見える。斑目さんは上空で怒鳴ってる。それらを見た修兵さんが堪えきれないとでも言う様にくつくつと笑い出した。
真顔は狙ってやっただろ修兵さん
「ふっ、甘いわ斑目!一番はこの夜一様の凧だ!!」
不意に響いた高い声。見れば何処ぞのハゲと同じ様に凧に身体を縛り付けた隠密機動の隊長様が居た。それを飛ばすのは隠密機動の面々。や、あんたまで何してるんですか砕蜂隊長
黒猫の凧が真っ白な凧に近付く。二人は直ぐに争い始めた
「あー、馬鹿と煙は高い所にってのは本当なんだな」
『痛烈過ぎる』
何か今日は修兵さんが虐めっ子だ。ハゲと夜一馬鹿の戦いを見ていてふと視線を落とす
『………え』
「あ?どした?」
修兵さんが凧糸を弄りつつ僕を見た。指を差して見付けたものを伝える
「ん?…ああ、雛森か。あいつさっきからあんなだぞ?」
『えぇえ……』
「ひ、雛森くん!?」
吉良が慌てた声を出した。その先には砕蜂隊長の凧糸代わりのロープにしがみ付いた雛森。身体は完全に宙に浮いている
「どうしてあんな事に……」
「説明しよう。遅れて来たあいつは十一番隊と隠密機動の争いに巻き込まれ、咄嗟に掴んだロープに引っ張られ、ああなった」
『説明ご苦労様』
つかそこまで知ってるなら助けようよ。
そう呟くと返って来たのはこんな一言。
「面白いから良いじゃねぇか」
いや雛森可哀想だから。良く見てあの子涙目だから
「卍解――大紅蓮氷輪丸」
その声が聞こえたと思ったら隣を氷の竜が通り過ぎた
「やべ、私情で卍解する隊長初めて見た」
『それ言っちゃいかん』
駄目だ、今日は修兵さんが毒しか吐かない。何かキツい事しか言わない。普段の優しい修兵さんは何処行った
そう思っていると急に修兵さんの片腕が凧糸から離れ僕を抱き締めた
『修兵さん?』
「念の為だ。大人しくしてろ」
良く判らないが大人しくしていた方が良いんだろう。頷けば彼は笑った
「雛森!」
「シロちゃん!」
日番谷隊長が空を飛んで雛森に手を伸ばす
伸ばされた手が触れ合う――瞬間
「「破道の五十八・闐嵐!!」」
突如放たれた鬼道の竜巻が二人を襲った
此方まで来る強風にさっき修兵さんが言っていたのはこれかと理解する
「雛森ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「シロちゃぁぁぁぁぁん!!!」
互いの名を呼びながら二人は遙か彼方まで飛ばされてしまった
「………星になったな」
『………ん』
空を見ていれば腕が離れた。あ、そう言えば僕が飛ばされない様にしてくれてたんだっけ
『修兵さん、ありがと』
「どーいたしまして」
微かに口元を緩ませた修兵さんがまた凧に視線を戻した
ふよふよと気持ち良さそうに浮かぶ凧を眺めながら、何故さっきの鬼道が予測出来たのか訊いてみる。すると彼はしれっとした表情でこう言った
「大前田が伊勢と乱菊さんを怒らせんの見てた」
で、鬼道を使おうと構えたのも見た、と。
また放置したのかこの人。理由は訊かなくても判る。面白そうだったから
上空では未だにハゲと夜一馬鹿が争っている。そして大前田が何故か女性が揚げる凧を弱いと称して鬼道で撃ち落とそうとしている。それに更にキレる伊勢副隊長と乱菊さん。
遂に吉良が頭を抱えてしまった
「これじゃ親睦は深まらない…どうすれば……」
その言葉に修兵さんが笑った。
あ、何か企んでる
「ならお前が行って止めて来い、吉良」
「え……?」
「コレを使ってお前が皆を止めるんだ!」
ノリノリな修兵さんがさっと後ろを指差した。そこにあったのはハングライダーの様な形をした凧。そんなもん何時用意したんだ
「お前ならやれる。さぁ行け吉良イヅル!」
「檜佐木さん…僕…やります!」
あ、掛かった。
後輩を唆した愉快犯がにやりと笑った
「行きます!」
離陸準備の整った吉良が声を上げた。その目はやる気充分。それを見た修兵さんが笑いを必死に堪えてる。この人完全に後輩で遊んでるよ
一息吸って吉良が走り出した。
それに合わせて隊士達が凧を押す。今気付いたけど凧押してるのって九番隊の隊士じゃね?しかも皆今日非番だった筈。何部下の非番潰して駆り出してんのこの人
「うおおおおおおお!!」
風に乗った凧が空に舞い上がった。飛ぶ姿が紙飛行機に見える。それを見ていてふと凧には必要不可欠なものが吉良の凧には付いていない事に気付いた
『……修兵さん』
「んー?」
『吉良凧にロープ付いてないけど』
「あー、うん。その方が面白そうだったから」
『………』
やっぱり確信犯か
あっさりとそう答えた修兵さんは自分の凧を弄りつつ笑う
吉良凧は争う二人の間に飛び込んだ。そしてその行動は二人に躱される事によって無意味となった
「お、躱された」
楽しそうな修兵さんが目を細める。
吉良凧は風に吹かれ隊舎の方向へ飛んで行った。ロープ自体付いてないから誰も方向の修正は出来ない。てか風が止んだら落ちるんじゃ…
『………』
「お、落ちた」
頭上から楽しそうな声。悲鳴を上げながら吉良凧が落下する
落下先は建物。為す術もなく吉良凧は屋根を突き破って落っこちた
つかあの建物良く隊首会とかお茶会とかで行く気がするんだが気の所為か
そう思っていると吉良の落下地点から盛大な火柱が噴き上がった
「っはははははは!吉良の野郎やりやがった!」
慌てて皆が逃げ出す中カメラを構えた修兵さんがげらげら笑う
吉良生きてんのかな。消し炭になってなきゃ良いが
「良し、号外にコレ載せるぞ独月」
『あー…うん…』
一番楽しんでいたのは彼
(瀞霊廷通信の号外だよー!)
((…まぁ修兵さんが楽しそうだし良いか……))
(どうせ僕はこんな役回りさ…)
「そ。お前もやるだろ?」
そう言った編集長はやたらと良い笑顔だった
「えーそれでは、今から凧揚げ大会を始めます」
司会を務める(修兵さんが強制的に司会を押し付けた)吉良の言葉を合図に皆一斉に凧を揚げた。
皆それぞれ特徴的な凧だ。隊長の顔も複数ある。ぼんやりと眺めていれば隣に居た修兵さんが何かごそごそし出した。
そして何かを準備した修兵さんが僕に空を見とけと笑う。何する気なんだろう?首を傾げつつ見ていればふよふよと浮かんできた桜に69の数字が描かれた凧。あれ明らかに僕の桜の痣だ。揚げた本人が笑いながら僕の隣に戻ってきた
「吃驚したか?」
『…ん。何時準備したの?』
何かアートっぽく綺麗に仕上がってるのが気になる。桜の痣の下に数字入れたらあんなに綺麗になるかな…
そんな事を考えていれば慌てた様子で吉良がやって来た
「何やってるんですか檜佐木さん!僕達司会でしょ!?」
「おー。でも司会だからってやっちゃいけねぇ決まりもねぇし良いだろ?」
さらりと流した修兵さんは凧の操縦に夢中。多分吉良の話も真剣に訊いてないと思われる
「兎に角、揉め事になりそうな時はちゃんと止めて下さいよ?」
「んー、判った判った。独月、お前もやってみるか?」
あ、この人揉め事止める気ないわ。吉良ドンマイ。
いや、やってみるかと訊かれても
『僕やった事ないし』
「そうなのか?なら教えてやるよ」
にっと笑った修兵さんが凧糸を僕に握らせる。先程の持ち方を見様見真似でやってみればそうだと頭を撫でられた。
「ちょっと見回りして来るから大人しく遊んどけよ?」
『凧揚げで大人しく遊ぶ以外にどうやって遊ぶんだ』
歩いていった修兵さんを見送り、凧を見る
凧って案外引きが強いんだな。風が吹く度に僅かに身体が持ち上がる。踏ん張ってないと多分僕が飛ぶ
『十番隊の凧綺麗だな………え?』
そう思っていた瞬間一際強い風が吹いた。
ふわり、と地面の感覚がなくなる。え、これやばくね?もしかしなくても浮いてない?
『〜〜〜〜っ!!』
「ったく、何浮いてんだお前は」
足をばたばたしていると腰を掴まれた。
そのまま引っ張られ地面に降ろされる。振り向けば修兵さんが呆れ顔で笑っていた
「人揚げじゃなくて凧揚げしとけって言ったんだけどな」
人揚げって
そもそも浮きたくて浮いた訳じゃない
『…身体が勝手に浮きました……助けてくれてありがとうございます…』
「どーいたしまして。取り敢えず一人でやらせたら浮くんだな」
まじまじと僕を見た修兵さんが顎に手をやって、それから子供の様ににっと笑った
「じゃあ一緒にやるか」
『………?』
一緒にとはどうやって?
そう思っていれば修兵さんが僕の後ろに回った。そのまま後ろから凧糸を掴む。ああ、こういう事か
「これなら飛ばねぇだろ?」
『ありがと』
修兵さんが一緒に居てくれれば飛ばずに済む。そう思っているとくいっと凧糸を引かれた
「もう少し引かねぇと」
『判った』
言われた通りに引けば少しやり過ぎた様で、少し降下した。
「ちょっと引き過ぎ……あ」
降下した凧は風に流され――もつれた。十一番隊の凧を巻き添えにして
何で寄りによって十一番隊の凧?明らかにあの連なってる凧の先頭は更木隊長じゃないか。
凧を揚げていた斑目さんが此方に向かって来る
「おいてめぇら何人の凧に絡んでやがる!」
「おー悪い悪い。今外す」
そう返した修兵さんがくいっと凧糸を引っ張った。手の動きに合わせて凧も動く。
引っ張られたそれは見事に凧糸の絡みを外した。
――十一番隊の凧糸を切るというかなり強引なやり方で
『………あ』
「おー、悪ぃ斑目。糸切っちまった」
修兵さんそれ謝ってない。ほら隣で青筋浮かべたハゲがキレてる
「てめぇ何人の凧糸切ってやがる!人のじゃなくててめぇの糸切れや!」
『すみまもごっ』
キレた斑目さんに謝ろうとすると修兵さんに口を塞がれた。え、何で?
「だから謝ってんだろ?つかお前等の凧糸が弱かったんじゃねぇの?」
あ、この人今さらっと禁句言った
十一番隊には絶対に言っちゃいけない禁句を
「…十一番隊の凧糸が…弱ぇだと…っ!?」
わなわなと斑目さんが震え出す。
十一番隊隊士への禁句。それは何事においても同じ、弱いと言う一言。
「新しい凧を持ってくる!どっちが高く揚がるか勝負だ檜佐木!」
「おー」
修兵さんがまったくやる気のない返事を返せば斑目さんが走って何処かに行ってしまった。
彼が見えなくなってから漸く口を塞いでいた手が外される
それと同時に騒ぎに気付いた吉良が走って来た
「何やってるんですか檜佐木さん!」
「大丈夫だって。大会を盛り上げる為だ、本気で戦り合おうとは思っちゃいねぇさ」
その笑みが気になる。
あんた斑目さんからかって遊んだだけだろ
溜息を吐いた吉良が再び持ち場に戻っていく
その背を見送りそう言えばと僕は修兵さんを見た
『修兵さん、何でわざわざ喧嘩売った?…凧糸絡ませたのは僕なのに』
「ん?面白いからに決まってんだろ?」
にっと笑った修兵さんが僕の頭を撫でた。え、そんな理由?
「お前なら直ぐ謝っちまうと思ったし。糸を切っちまったのは俺だから、お前は気にすんな」
『いや…絡ませたのは……』
「それに初めてやる奴にこんなに沢山揚がってる中で絡ませるなって言う方が無理な話だ」
『………』
反論させない気かこの人。
どうあっても斑目さんの凧糸を切ったのは自分の所為だと言うつもりらしい。絡ませてしまった僕は悪くない、と。優し過ぎだ馬鹿
何だか少し悔しくて修兵さんに寄り掛かってみる。丁度胸の下辺りに頭が収まった。甘えたか?と修兵さんが笑う
『………ありがと』
「どーいたしまして。何の事かは知らねぇけどな?」
ちらりと此方に視線をやり優しく微笑んで、また凧を見る。
穏やかな時間。
けれどそれを綺麗にぶち壊す怒鳴り声が聞こえてきた
「行くぜてめぇらっ!十一番隊の凧が一番だぁっ!!」
「「「おーっ!!!」」」
声の方を見れば凧に身体を縛り付けたハゲを十一番隊隊士が運んでいる。や、何してんの斑目さん。何をどう考えたらそんな考えに至ったの
「おー、マジで人揚げやってんな」
『や、修兵さんの所為だから』
そう言えば修兵さんはん?と首を傾げた。動き可愛いけど原因はあんたです
僕は無言でこくりと頷く
うん、あんただよ。十一番隊の凧糸が弱いとか言って焚き付けたのはあんただよ
「行くぜっ!!」
その掛け声と共に斑目さん付きの凧は空に揚がった。あ、やべ、ハゲの頭が日光反射して眩しい。何あの人何処に居たってあの頭光ってんのか
目を細めて見ていれば修兵さんが少し深く息を吸うのが判った
「おいツルッパゲもうちょい光抑えろ。眩しいだろうが」
「んだと檜佐木ぃ!!!もっぺん言ってみろ!!!」
『ちょっ修兵さん……っ』
やばい腹が捩れる。ツルッパゲとか言っちゃ駄目でしょ。しかも真顔でんな事言うな
「髪に見放されてんのに耳まで悪ぃのか。もうちょい控え目に日光反射しろっつってんだこのピカピカハゲ」
『…っふは…も、無理…お腹痛い…っ…!』
笑える。腹が捩れて死ぬ
周りも修兵さんの一言で笑い始めた。吉良が慌てているのが見える。斑目さんは上空で怒鳴ってる。それらを見た修兵さんが堪えきれないとでも言う様にくつくつと笑い出した。
真顔は狙ってやっただろ修兵さん
「ふっ、甘いわ斑目!一番はこの夜一様の凧だ!!」
不意に響いた高い声。見れば何処ぞのハゲと同じ様に凧に身体を縛り付けた隠密機動の隊長様が居た。それを飛ばすのは隠密機動の面々。や、あんたまで何してるんですか砕蜂隊長
黒猫の凧が真っ白な凧に近付く。二人は直ぐに争い始めた
「あー、馬鹿と煙は高い所にってのは本当なんだな」
『痛烈過ぎる』
何か今日は修兵さんが虐めっ子だ。ハゲと夜一馬鹿の戦いを見ていてふと視線を落とす
『………え』
「あ?どした?」
修兵さんが凧糸を弄りつつ僕を見た。指を差して見付けたものを伝える
「ん?…ああ、雛森か。あいつさっきからあんなだぞ?」
『えぇえ……』
「ひ、雛森くん!?」
吉良が慌てた声を出した。その先には砕蜂隊長の凧糸代わりのロープにしがみ付いた雛森。身体は完全に宙に浮いている
「どうしてあんな事に……」
「説明しよう。遅れて来たあいつは十一番隊と隠密機動の争いに巻き込まれ、咄嗟に掴んだロープに引っ張られ、ああなった」
『説明ご苦労様』
つかそこまで知ってるなら助けようよ。
そう呟くと返って来たのはこんな一言。
「面白いから良いじゃねぇか」
いや雛森可哀想だから。良く見てあの子涙目だから
「卍解――大紅蓮氷輪丸」
その声が聞こえたと思ったら隣を氷の竜が通り過ぎた
「やべ、私情で卍解する隊長初めて見た」
『それ言っちゃいかん』
駄目だ、今日は修兵さんが毒しか吐かない。何かキツい事しか言わない。普段の優しい修兵さんは何処行った
そう思っていると急に修兵さんの片腕が凧糸から離れ僕を抱き締めた
『修兵さん?』
「念の為だ。大人しくしてろ」
良く判らないが大人しくしていた方が良いんだろう。頷けば彼は笑った
「雛森!」
「シロちゃん!」
日番谷隊長が空を飛んで雛森に手を伸ばす
伸ばされた手が触れ合う――瞬間
「「破道の五十八・闐嵐!!」」
突如放たれた鬼道の竜巻が二人を襲った
此方まで来る強風にさっき修兵さんが言っていたのはこれかと理解する
「雛森ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「シロちゃぁぁぁぁぁん!!!」
互いの名を呼びながら二人は遙か彼方まで飛ばされてしまった
「………星になったな」
『………ん』
空を見ていれば腕が離れた。あ、そう言えば僕が飛ばされない様にしてくれてたんだっけ
『修兵さん、ありがと』
「どーいたしまして」
微かに口元を緩ませた修兵さんがまた凧に視線を戻した
ふよふよと気持ち良さそうに浮かぶ凧を眺めながら、何故さっきの鬼道が予測出来たのか訊いてみる。すると彼はしれっとした表情でこう言った
「大前田が伊勢と乱菊さんを怒らせんの見てた」
で、鬼道を使おうと構えたのも見た、と。
また放置したのかこの人。理由は訊かなくても判る。面白そうだったから
上空では未だにハゲと夜一馬鹿が争っている。そして大前田が何故か女性が揚げる凧を弱いと称して鬼道で撃ち落とそうとしている。それに更にキレる伊勢副隊長と乱菊さん。
遂に吉良が頭を抱えてしまった
「これじゃ親睦は深まらない…どうすれば……」
その言葉に修兵さんが笑った。
あ、何か企んでる
「ならお前が行って止めて来い、吉良」
「え……?」
「コレを使ってお前が皆を止めるんだ!」
ノリノリな修兵さんがさっと後ろを指差した。そこにあったのはハングライダーの様な形をした凧。そんなもん何時用意したんだ
「お前ならやれる。さぁ行け吉良イヅル!」
「檜佐木さん…僕…やります!」
あ、掛かった。
後輩を唆した愉快犯がにやりと笑った
「行きます!」
離陸準備の整った吉良が声を上げた。その目はやる気充分。それを見た修兵さんが笑いを必死に堪えてる。この人完全に後輩で遊んでるよ
一息吸って吉良が走り出した。
それに合わせて隊士達が凧を押す。今気付いたけど凧押してるのって九番隊の隊士じゃね?しかも皆今日非番だった筈。何部下の非番潰して駆り出してんのこの人
「うおおおおおおお!!」
風に乗った凧が空に舞い上がった。飛ぶ姿が紙飛行機に見える。それを見ていてふと凧には必要不可欠なものが吉良の凧には付いていない事に気付いた
『……修兵さん』
「んー?」
『吉良凧にロープ付いてないけど』
「あー、うん。その方が面白そうだったから」
『………』
やっぱり確信犯か
あっさりとそう答えた修兵さんは自分の凧を弄りつつ笑う
吉良凧は争う二人の間に飛び込んだ。そしてその行動は二人に躱される事によって無意味となった
「お、躱された」
楽しそうな修兵さんが目を細める。
吉良凧は風に吹かれ隊舎の方向へ飛んで行った。ロープ自体付いてないから誰も方向の修正は出来ない。てか風が止んだら落ちるんじゃ…
『………』
「お、落ちた」
頭上から楽しそうな声。悲鳴を上げながら吉良凧が落下する
落下先は建物。為す術もなく吉良凧は屋根を突き破って落っこちた
つかあの建物良く隊首会とかお茶会とかで行く気がするんだが気の所為か
そう思っていると吉良の落下地点から盛大な火柱が噴き上がった
「っはははははは!吉良の野郎やりやがった!」
慌てて皆が逃げ出す中カメラを構えた修兵さんがげらげら笑う
吉良生きてんのかな。消し炭になってなきゃ良いが
「良し、号外にコレ載せるぞ独月」
『あー…うん…』
一番楽しんでいたのは彼
(瀞霊廷通信の号外だよー!)
((…まぁ修兵さんが楽しそうだし良いか……))
(どうせ僕はこんな役回りさ…)